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グリスタの事件があったこともあって、慎重を期して、サンディアナ姫はジェグネへと嫁していった。
セイディアはますます神経過敏になり、ちょっと気に入らないことがあると女官や侍従、さらにはリーシュラにさえきつく当たり散らした。セイディアの株は急速に暴落し、それと対比するようにファーデスの株が急騰し始めた。
リーシュラはフィディアスに請い、セイディアとは別の部屋をあてがわれ、食事や風呂などのとき以外はほとんど部屋にこもるようになってしまった。
その噂を聞いたラヴィラ王家から、リーシュラを戻すよう要請する書簡が届いていたが、リーシュラ自身が戻らないと返事をし、一応収まった。
リーシュラは次第次第に人との接触も避けるようになった。夫セイディアとも顔を合わせないようにし、それがまたセイディアの神経に触っていた。
セイディアはあの日以来疑っていたのだ。自分の妻とファーデスが関係を結んでいるのではないかと。そうとも知らぬリーシュラが別室にこもったことで、疑いが本物だと確信してしまったのだ。それが互いの誤解だとも知らず。
「お加減はいかがですか? リーシュラ様」
その日もアガルティナが彼女を見舞っていた。放っておくと全く食事をしないという話を聞いて、色々世話を焼いていたのだ。
「アガルティナ様」
扉から入ってきた彼女を見上げ、薄く微笑む。アガルティナは瓶に生けた花を枕元に置いた。
「顔色がよろしいようですわね。もう少ししたらファーデス様がいらっしゃるそうですわよ」
「ファーデス様が?」
びっくりしたようにアガルティナを見つめる。その顔は普段見せない生き生きとした表情だ。
「ええ、どうしても一度お見舞いしたいとおっしゃるから、リーシュラ様のお加減がよいようなら、と念を押しておきました。よろしければこのまま帰っていただきますけれど」
「いいえ、お通ししてください。私、あの方に謝りたいことがあって……」
「分かりました」
あまり喜ばしいことではないのだけれど、と思いつつアガルティナは扉を開けた。金髪の少年はいつもの人のよさそうな顔で待っていた。
「……どうぞ。リーシュラ様がお会いになるそうですわ」
「ありがとうございます。……お加減はいかがですか、姫。このところずっと伏せていらっしゃると聞きましたもので」
ベッドの傍に歩み寄る。
「ありがとうございます」
リーシュラは少し頬を赤らめ、そっとアガルティナに二人だけにして、とささやいた。
補佐官にそっと合図して、アガルティナは廊下に出た。
「二人だけにするのはとても気がかりなんですけれども」
「お見舞いに来ただけです。ファーデス様もわきまえていらっしゃいますよ。それより、リーシュラ様はいかがなされたのです?」
ピラカが問うと、アガルティナは首を振った。
「分からないけど、心労だと御殿医は仰っておられましたわ。兄が神経を尖らせていらっしゃるから。これもみなファーデス様のせいなんですけれどね」
「ファーデス様の?」
「噂を聞いていらっしゃらないの? ……兄上は、リーシュラ様とファーデス様の関係を疑っていらっしゃるそうよ。そのせいでリーシュラ様につらくあたるのだと聞きましたわ。だから、二人きりにするのは、本当はあまりよろしくないのですけれど」
「そうでしたか」
ピラカは扉を振り返り、眉をひそめた。




