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「まず、状況をご説明いたしましょう。フィディアス様がフィラディア様を誘い、自分の部屋で一杯やろうと持ちかけた。ちょうど今日届いたいいブランデーがあるといって。グラスや氷などはすべて女官が用意したと記録されています。
調査書によれば、フィディアス様はブランデーはそのとき初めて封を切ったものだと証言なさっています。
ブランデーを注ぎ分けて、二人で四方山話をしながら飲んでいたところ、フィラディア様は急に呼吸が苦しくなったことに気がつきました。しばらくしてフィディアス様も同じようにお感じになった。人を呼ぼうとしたが足に力が入らず、扉まで這っていったということです。ちょうど通りがかった女官が異変に気づいて人を呼んだそうです。
二人は病院に運ばれましたが、フィラディア様はもう手遅れでした。毒の分析に時間が掛かったのでしょう。そのあたりは書類にありませんでした。フィディアス様は飲んだ量が少なかったのが幸いして、命を取り留めました。
部屋を捜索したところ、二人のグラスから毒が検出されました。グラスを用意した女官が疑われましたが、ブランデーの瓶自体に毒が混入されていたのが分かり、女官は放免されました。
ブランデーの出所を探しましたが、届けるよう依頼してきた人物はまったくのシロでした。それに、酒屋に電話して届けるよう言っただけで、瓶そのものに触ってもいません。酒屋も調べましたが、箱から出していないことが確認されました。
ブランデー自体はジェグネからの輸入品で、卸から直接王宮に届けたとのことですから、間違いありません。通関時のチェックも照合済みです。
このブランデーの封は特殊で、一度開いたらどうやっても戻せないタイプのものだそうです。毒物の混入防止だそうで、振り出しに戻ってしまいました。
また、毒の入手方法を探したのですが、どこにもあるものなので絞り込めませんでした。ニコチンのようなものでしたから。
犯罪が可能であった者を絞り込んでいったところ、毒入りブランデーの被害者であるフィラディア三世とフィディアス様の二人しかいなかったのです」
沈黙が流れる。アガルティナは報告書を見つめていた。
ピラカは続けた。
「さて、ここでなぜフィディアス様に対する疑惑が消えたか。実は消えてはいないのです。王家がそれ以上の追及を差し止めた、と記録にはあります。理由はフィディアス様の立太子式に伴う大赦だとされています。つまり、実質上嫡男となったフィディアス様の不利になる結果を出したくなかったのだと思われます。
実際に資料はここで途切れておりますし、この事件の報道についても、アガルティナ様のおっしゃったとおり、フィラディア様の死因は公的に病死と発表されております。フィラディア様の事件を突っ込んでフィディアス様を追及しようとした者もいたそうですが、不慮の事故で亡くなっております」
それが何を意味するか、アガルティナにも分かった。




