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闇色の公子(最終稿)  作者: と〜や
第四章 弔いの鐘
20/48

4-8

 姫が寝入るまで待って部屋を出ると、ファーデスが廊下に立っていた。

「見ていらっしゃったのですか、ファーデス様」

「ずいぶん気丈なお方だな。葬儀の間、涙一粒こぼさなかった」

「気を張り詰めていらっしゃったのでしょう。ここ二、三日寝ていらっしゃらないそうですから。やっと落ち着いたようで、お休みになっておられます」

「そうだろうな。ずっとこちらをにらんでいらっしゃった」

 ファーデスの口調はどこか楽しげだ。

「フィディアス様はいかがです?」

「何も。息子の死に呆然としておられる」

「そうでしょうね……」

「とにかく部屋へ行こう」

 ピラカの腕を取り、自分の部屋へ向かう。

 途中、正面からセイディアが歩いてくるのが見えた。二人は横へ避けて頭を下げた。が、セイディアはファーデスに近寄ると、胸倉を掴み上げた。

「貴様の仕業かっ!」

 顔を真っ赤にし、怒りをあらわにしたセイディアに、ファーデスは襟に掛かった腕をやんわりと外した。

「セイディア様、一体何のお話でございましょう」

「とぼけるな! 貴様が父上にグリスタの留学の話を持ち込んだと聞いたぞ! おかしいと思ったんだ。父上がこんな時期にグリスタをハルディルンにやるなどと急に言い出したときから! あの事故にしても、貴様の仕業だろうっ! そうだろう!」

「とんだ冤罪で罵倒されるのは嬉しくありませんね。確かに私自身の留学の話は父上にお話いたしました。ですが、グリスタ殿の留学については最初から計画されていたことですし、事故についても存知ません。知らないことを話せといわれましても、無理難題でございましょう」

「俺は騙されんぞ! 何もかも貴様が来てからだ。次は私か? アガルティナか?」

「セイディア様」

 声を聞きつけてやってきた重臣の一人が間に割って入った。

「セイディア様、場をお弁えくださいませ。……ファーデス様、セイディア様の非礼はお詫びいたします。ですが、もう少しお立場をお考えいただきたいものですな」

 重臣はファーデスとピラカを交互に見ながら言った。

「貴様は私たちを皆殺しにするつもりだろうがそうはさせん! いずれ化けの皮をはいでやる! 貴様なぞにこの国は譲らん!」

 無理やり引きずられながら、セイディアはわめき続けた。

 ――譲ってもらうつもりなど毛頭ないさ。力ずくで奪い取る。

「行こう、ピラカ」

 補佐官を従えて、ファーデスは踵を返した。


 部屋に入ると、ファーデスはさっさと喪服を脱ぎ、普段着に着替えた。

「ファーデス様、私はそろそろ王宮から出ようと思います」

「なぜだ?」

 ファーデスは振り向いた。

「噂はご存知でしょう? グリスタ様の船の事故は、本当はファーデス様がオルディアに頼んでやったのだ、という噂を」

「聞いている。だが、その疑いは晴れたのだろう?」

「ええ、船の整備はオルディア系列ではありませんでしたから。その辺りはしっかり調査されているようです。整備員も買収されたものではないと明らかになりましたから」

「では、なぜ出て行かねばならない」

「今後も同じような疑いがかけられないという保証がないからです。これ以上私がいては、ますますあなたの立場が悪くなる」

「いようといまいと、悪くなるなら悪くなる。違うか? 第一、私はまだオルディアの当主だ。私がオルディアのトップから降りない限り、その疑いは消えぬぞ。お前に直接頼まずとも、私が支社に電話を入れればいいのだからな」

「それは、そうですが」

「私がかまわぬと言っているのだ。それでも出て行くというか? ……お前は私に約束したはずだぞ。二度と傍を離れぬと。いつでも傍にいると」

 そういうファーデスの表情は余裕たっぷりで、くすっと笑っても見せた。

「ええ、あなたを悲しませることはせぬと約束いたしました。……ならば、出て行くことはいたしますまい」

「そうしてくれ、私も心強い」

「……楽しんでいらっしゃいますね、この状況を」

「楽しまずにいられるか。もっとも、そういう趣味はないがね」

 ベッドに座り込む。

「すべて、どん底に突き落としてやる。大事なものを失う悲しみを味わえばいいんだ」

 そうつぶやく少年の目は、冷たく、見るものを戦慄させる。

「人間というものは、一番大切なものがそばにありながら、失うまで気がつかないのですね……」

 同じようにつぶやく。だがその黒い瞳はどこか悲しげだ。

「一つ目の弔いの鐘か。まだまだ、一つでは足りない。いずれ重臣をこちら側につけて、一挙に片をつけてやる」

 それこそが長年の夢。

「そうですね」

 黒衣の青年はそう、つぶやいた。

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