12 服ができた
エレンと別れて、IVYに向かって歩き始めてから、僕だけ行ってもダメなことに気がついた。そうだよ、ベロニカとジルベールも連れてこないと。それに、これからグレンとキリルも人前に出ることが絶対出てくるはず。これは彼らの分も服を作らないと。
それで、家に転移すると、ちょうどみんな食後のコーヒーを飲んでるとこだった。キリルはコーヒー牛乳だったけど。ほぼミルクの。
「服の進捗状況を調べに行くよ。」
とみんなに宣言すると、返事も聞かずに転移。IVYの前に到着。
「ちょっと、もういきなりなんだよ」
ジルベールがぷんぷんだ。
「ごめんね。ほらみんなで服作ってたじゃん。それの進捗状況を確認しないとって思ってさ。それに、グレンもキリルもフォーマルな装いを持ってないだろうから、いい機会だから作ってしまおうかと思って。」
「だったら、そう言ってください。あたしたちまだ寝起きのこんな格好なのに・・・。」
「ごめん。」
「蒼、私らはそんな晴れがましい場に出るつもりもないし、あたしは一応聖女だから尼の装束で十分。」
「あのね、僕一応教皇。それに従う聖女が普通の格好でいいわけないでしょ。」
「あたしは別に、野良の聖女で教会づきの聖女なんて柄じゃないわよ。」
「ガラにすんの。いつまでもそのままじゃダメ。人間深みって大事よ。奥底に紅蓮の魂持ったレディースの清らかな聖女ってキャラ的にかなりいいっしょ?」
「武闘派聖女、濃いなあ」
「レディースって何?」
キリルが尋ねる。
「うん、もうちょっと大人になったら教えてあげるね。」
グレンもなんと言えばいいか困ってる。
純真なキリルの前でする話題ではなかったか。
というわけで入るよ。
〜カランコロン〜
「いらっしゃいませ。」
はあ、こいつか。悪いやつじゃないんだけど。気が利かないというかなんというか。
「ああ、この間のちびっこ。じゃなかった。お忍びの偉い子だっけ?」
僕の後ろでブリザードが舞い始めた。怖い、今絶対振り返れない。
なんか誰かが走ってくる音が聞こえる。
「ああ、蒼様、ベロニカ。ようこそお越しくださいました。」
「ハーネス子爵夫人ご無沙汰です。」
「おばあさま、お話があります。」
ベロニカはそういうと、ハーネス子爵夫人と、あのウスノロを連れてバックヤードに入っていく。
「蒼、久々にやばかったな」
「うん、怖かった。背中凍りそうだったよ。」
「なんで、ベロニカあんなに怒ってたんだ?」
「この店は、貴族の利用も多い有名店。だからそこで働く従業員は高い接客スキルを要求されるわけ。僕はさ、言ってみれば一国の主人、国王と同格の存在なの。まあ建国の宣言をしていないから正式にはまだなんだけどね。でも、真神教がこの国の新しい国教に決まったわけで、その教皇たる僕に、お忍びのちびっこって面と向かって言うことのヤバさはグレンでもわかるでしょ?」
「あたしも蒼みて人外の凄さは感じても、かしこまるって言うわけじゃないからあいつの気持ちもわからないではないけど、字面にすると相当やばいな。」
ベロニカも自分の祖母がやってる店でなかったら、もう少し慎重になっただろうけど、自分の主人が侮られれば従者としては当然看過できないわけで。
ましてや自分の祖母がやっている店で、自分が連れてきた店の店員に自分の主人が馬鹿にされたとなればそれは看過できないね。
あの従業員を庇うことは簡単だけど、それをすることが彼にとって、この店にとっていいことなのかはわからないよね。
「ジルベール、これちょっと面倒なことになるかもね。」
「そうか?解雇するか、店に出さなければいいんじゃないのか?」
「いや、それができるんだったら、とっくの昔にやってるだろうよ。むしろ今まで大過なくこれたことが不思議なんだって。絶対なんか裏があるって。」
それに、それ以外の従業員に関しても、客を待たせていると言うのに、誰も動かない。普通なら、接客用の個室に通すなりするものだが。
「ここで待ってても仕方ない。この店には気の利く店員が一人もいないようだし。奥に入ろう。」
普段ならしないが、ベロニカがハーネス夫人と男性従業員を連れて入って行った、扉を開けて中に入っていく。このように、従業員エリアに入っていく客がいたら、普通は止めるはずだが、それもしない。一体どうなってるのか。中に入って少し奥まで歩くと、もう一枚の扉がある。その中から言い争う声が聞こえる。ちょっとここは一発締めとくか。
僕は、その扉に向かって軽く魔法を放つ。
『エアーボム』
綺麗に扉のみ跡形もなく粉砕し、中に向かって声を張りあげる。
「一体いつまで客を放置するつもりだ。」
いつもと違う厳しい表情と声にベロニカとハーネス夫人は青ざめ、床に這いつくばって頭を下げるが、あの店員は一人椅子に足を組んで座っている。
『収納』
アイテムボックスに、奴が座っている椅子を収納してやる。無様に床に尻を打ちつけてコロコロ転がりながらうめいている。
「一体、どう言うつもりだ、ハーネス夫人。子供だと思って僕のことを侮ってるのか?お前の店の従業員教育は一体どうなってる?客の個人情報を守らないだけでなく、接客態度も、口の利き方も全てがなっていない。それに加え客が待たされているのに、他の従業員も誰一人我々を個室に案内することもなく、椅子をすすめることも、謝罪することもない。本当にこの店は貴族相手の店なのか?」
「蒼様、大変申し訳ございません。本当に申し訳ございません。」
ハーネス夫人は今にも貧血で倒れるんじゃないかと思うぐらい、蒼い顔をして、床で土下座している。そんなに強い威圧をかけたわけじゃないのだが、もううわごとように謝罪の言葉を繰り返すだけの人形のようになっている。
「謝罪は結構。私が納得のいく説明をしてもらおう。あなたには十分すぎる対価をすでに支払っているはずだ。当たり前の接客を求めるにはまだ足りないか?」
そういうと、彼女は耐えきれず失神してしまう。
「蒼、お前にしては抑えめにしてたけど、それは俺たちレベルの話。一般人にはきついわ。ベロニカやグレンの顔見てみろ、あいつらもひっくり返りそうだろ」
「確かに。ベロニカも、グレンもキリルもすまない。」
『イーズ』
闇と光の複合魔法である『イーズ』を発動する。これは、張り詰めたメンタルを緩め、覚醒に導く魔法である。
失神していたハーネス夫人が目を覚ましたので、全員分の椅子を出してみんなで座る。あの男だけはケツが痛いと騒いでうるさかったので、拘束して、音が聞こえない結界の中に放り込んである。
「蒼様、重ねまして申し訳ございません。」
「謝罪はもういい。それよりも、なぜ、あの男をいまだに店に出してるんだ?」
「はい、あれは主人の妹の息子になります。この店は、主人のものですが、もともと独身時代から私がやっていた、衣装のオーダーメイドの店を大きくしたものです。結婚した時に、主人が店の格を高めるためと言って、店を広げまして、もともと昔から私を支えてくれていた、職人や従業員は全員解雇されて主人や主人の妹たちの息がかかったものが働くようになりました。」
「そう言うこと。事情はわかった。ハーネス夫人は家の中では一番の稼ぎ頭でありながら、それを子爵やその家族に奪われて自由に仕事ができない。と言うことでいいのかな?」
「・・・・・。はい。」
「夫婦関係は破綻していると言うことでよろしいか?」
「はい。でも私はもともと平民です。離縁などできるはずもありません。」
「では、もしできたら僕の街に移住してドレス屋をやってくれますか?」
「え?それは願ってもないことですが」
「何か気掛かりなことが?」
「いえ、屋敷で私によくしてくれるものの処遇が心配で。」
「あなたに必要な人は全員連れてきていいですよ。屋敷や店は用意しますからお気になさらず。」
「ベロニカ。これでよかった?」
そう聞くと、今まで溜め込んでいたものが一気に溢れたようで涙を流しながら泣き出した。多分なんとなく事情は知っていたのだろう。
「蒼様、ありがとうございます。ありがとうございます。」
「ベロニカには世話になってるからね。それに僕もこいつらにはちょっと頭に来てたから。」
この店と、店の中のもの、人間は僕たちとハーネス夫人のみ。それ以外は放置。
『転移』
イリディングルの僕の二番目の屋敷の建設予定地のそばの奥まった一角にお店を移す。
「蒼、お前転移するなら言えよ。またこんな無茶して。ひっくり返っても知らんぞ」
前回、家ごと転移をやらかしてひっくり返りました。ジルベールには心配かけちゃったから、まずは平謝り。
「ごめんごめん。ハーネス夫人、必要のない従業員は置いてきた。それ以外は全部一緒に僕の街に転移させてきたよ。ちょっと外に出てみる?」
みんなで外に出る。ここは中央大通りと東大通りの交差点から、少し東に寄った区画。街ができたら一番の繁華街になるであろう一等地だ。まだ、ほとんど建物が建ってないからMESH TOWERがよく見える。
「蒼様、ここは?」
「ここは、元死の谷があった場所。今は緑の谷って呼ばれてる。そこに建設中の僕の街イリディングルだよ。まだ住民は募集してなくて数人しかいないけど、年が明けたら建国宣言して世界中から住民を募集するから一気に騒がしくなるよ。それにすごく大きなダンジョンもあるから、冒険者たちもいっぱいくるよ。」
「素敵です。あの、遠くに見える大きな木は?」
「おとぎ話だと思ってた?そうだよ。世界樹。エルフの国にある世界樹が弱ってきていて、それで新しくこちらに植えたんだよ。」
「まあまあ、ふふふ、言葉になりませんわ。ベロニカ、あなたがお仕えしている方は本当に素晴らしいお方なのね。」
「ええ、おばあさま。最高の主人です」
そんなこと言われると照れるんだが。
「お屋敷の使用人のこととか色々ありますけど、その辺りは僕に任せてもらってかまわない?それよりも、肝心なこと。服はどうなってる?」
「それはもう。最優先で作らせてもらってますから、すべて完成しております。細かなお直しもすぐにできますよ。」
「それはよかった。それでさあ、グレンとキリルの服も作ってもらいたいの。全員王族たちと会うことになると思うから失礼のないようにね。」
「はい、承知しました。」
「あの高い塔が、MESH TOWERで、最上階には僕たちの家があるけど、店舗やオフィスや、駅も入る場所なんだ。すぐ隣は僕の公式の館が入る予定。このお店で寝起きしてもいいけど、MESH TOWERにひとつ家をあげるから、そこでベロニカと一緒に暮らさない?」
「え?よろしいのですか?」
「うん。ベロニカにあげようと思ってたんだけど、一人で住むには大きすぎるしなあって思ってたんです。ベロニカもそれでいいよね?僕とジルベールの家の隣の一部屋をあげるから、そこでおばあさまと一緒に暮らしたら?」
「「嬉しいです。ありがとうございます。」」
二人ともいい笑顔。作った甲斐があるわ。
じゃあ、新しい服全部持ってみんなで転移。
MESHの家に移動して、隣のメゾネットの1区画を見せる。
「貴族の屋敷に比べたら、狭いと思うけど、使い勝手よく便利に暮らせるようにしているから、快適には暮らせると思うよ。便利な道具をたくさん用意してあるので、洗濯も掃除もはるかに簡単だから、たくさん人を雇う必要もないしね。」
家に備え付けの、風呂・キッチン・洗濯・掃除の魔道具を紹介する。
「下着とか洗濯を頼みたくないものもあったから、これはすごく嬉しいです。ありがとうございます。」
みんなで新しくできた服に袖を通し、微調整も完了。
作ってもらった服が素晴らしくて、思いがけずファッションショーが始まったから、エレンたちも呼んできて楽しんでたら、エレンもドレスが欲しいと言い出したので、アンドレさんたちのコックコートと一緒に発注した。
食材を渡して、アンドレさんたちにご飯を作ってもらって、ハーレー子爵夫人、いやジュリアさんの歓迎会を兼ねてみんなで宴会。人が増えるのはめんどくさいこともあるけど、こうやって楽しいこともある。
次の日は朝早くから護衛依頼を受けて、サザンクロスまで行かないといけないからみんなで早めに就寝。エレンとアンドレさんたちを送って、他のみんなはMESHのお家で初めてすごすことに。いつもよりかなり広い空間になれないなあと思ったけど、1分もしないで爆睡してました。




