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19話:理喰の影、零の一閃

 虚ノ森。

 王国の記録には「不可侵領域」とだけ記され、地図には描かれない。


 そこに今――“理を持たない存在”が、目を覚ました。


 


 ナギが息をのむ。


「この空間……時間の流れがねじれてる。私たちの“位置”も、ずれてる……!」


 


 ライナが魔導印を展開しようとするが、霧の中で符号が乱れる。


「魔術陣が……書けない!? これは……“理が拒絶されてる”!?」


 


 そのとき、霧の奥――

 “何か”が浮かび上がる。


 


 形はない。

 目も、手も、剣も、存在しない。

 ただ、そこに“在る”という感覚だけが、空間を圧していた。


 


『――汝ら、“理”を持ち込む者。

  此処より先、思考は通じぬ。名も、意味も、全てが溶ける。』


 


 ジノが後退る。


「やばい……やばいぞハク、こいつ、なんか見てるだけで気が狂いそうだ……!」


 


 それは“言葉”ではなかった。

 音のない“概念”が、ハクたちの心に直接流れ込んでくる。


 


 ナギが叫ぶ。


「ダメッ、普通の剣じゃ何もできない――!」


 


 そのとき、風が吹いた。


 


 ハクが、一歩前に出る。

 背にある木刀が、微かに音を立てる。


 


 「……それでも、俺はここに立ってる」

 「理がないなら、俺の“斬る理由”を持って通るだけだ」


 


 木刀を抜く。


 周囲の霧が、ほんの少し――“逃げた”。


 


『意味なき棒で、何を断つ?』

『理なき我に、斬るべき理由など――』


 


 「――あるさ」


 


 ハクの身体が動く。

 風が走る。

 周囲の空間が“断ち割られた”。


 


 刹那――

 世界が“音を失う”。


 


 木刀が、空を斬った。

 それだけで、存在しないはずの“影”が、悲鳴をあげる。


 


 霧が一気に消え、影が後退する。


『断……たれた……?』


 


 ナギが見ていた。


 あの木刀はただの棒じゃない。

 それは“理を知らず、理を拒まれた世界に、一閃を通す道標”。


 


 ハクが、静かに言った。


「斬ったんじゃない。“通った”だけだよ。

 俺の風は、止まってねぇから」


 


 影が消える。

 空間が静かに閉じ、虚ノ森の一部が“正常に戻る”。


 


 そして――その場に、ひとつの石碑が現れる。


 


 そこには、古代語でこう刻まれていた。


『神樹木刀。これ、道なき時代に道を示すものなり。

 斬らぬ剣。断ちぬために生まれし、“零の刃”なり』


 


 ライナが震える声でつぶやいた。


「……神樹の木刀……やっぱりあなた、“選ばれた者”だったのね」


 


 ハクは答えなかった。


 ただ風が、彼の足元から――再び前方へと、吹いていた。



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