20話:風が選んだ名、零の刃
虚ノ森の奥、影が消えたあとに現れた古代の石碑。
そこには、世界の“理”すら知らぬ時代から刻まれた、ひとつの記録があった。
『神樹木刀。斬らずに通す道。
斬られぬ意志が、風となる。
その者の名、“ゼロ”と記される。』
ナギが、目を丸くしたまま言葉を失っていた。
ライナも、ただ静かに呟く。
「……“ゼロ”……まさか、その名前が……この剣術の原点だったなんて」
ジノがぽつりと口を開く。
「つまりハク、お前の通り名って……偶然じゃなかったってこと?」
ハクは石碑に手をかざす。
手のひらが、文字に触れる。
その瞬間、風が――吹き上がるように“音”を発した。
木刀が、応えるように震える。
空気が、道を開くように流れる。
石碑の周囲に、風の文字が浮かぶ。
それは、ただの風紋ではなかった。
**“神樹の言葉”**と呼ばれる、剣豪ムサシが残した唯一の“意志”だった。
> 『剣に名は要らぬ。されど意志を示す刃は、
> “無にして全て”の名を持つ。零。』
ナギがつぶやく。
「……この木刀の名は、“零ノ刃”。
それを持つ者こそ、“剣を持たぬ剣士”――“ゼロ”」
ハクは、風の中に立っていた。
誰かがその背を押すのではない。
風は、自ら吹いた。
彼の心が、それを望んだ。
「……俺は、ハヤト・カザマ。
でも今は……」
彼は、風に髪をなびかせながら言う。
「“ゼロ”だ。木刀で斬る――それが、俺の道だ」
ジノがにやりと笑う。
「だっせぇようで、最高にかっけぇな……“ゼロ”!」
ナギがその名を呼ぶ。
「ゼロ……その名は、世界の“否定”じゃない。
“すべてを始める意思”なんだと思う」
ライナは、石碑をじっと見つめたあと、言った。
「この名前、王都に届いたら……間違いなく、あんたは“討たれる対象”になる」
ハクは笑う。
「だろうな。でも――」
木刀を背負う。
「その前に、俺が“全部通る”。この風で、な」




