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11話:忘れられた刃の影

雨は降っていなかった。

 けれど、廃村の空気には、湿った気配が満ちていた。


 ハク、ナギ、ジノの三人は、崩れた教会跡の奥で“それ”を見つけた。


 


 地下へと続く、石の階段。

 半ば崩れた入口には、苔むした封印札の残骸が散らばっていた。


「……これは古代式の封印文字。王都の記録にもない術式……」


 ナギが眉をひそめ、札の破片を手に取る。


「ここ、ただの廃村じゃなかったんだ……」


 


 階段の奥は、まるで世界から切り離された空間だった。

 壁には、知られざる神話のような絵が描かれている。


 焚き木の明かりで照らされた先、中央に一本の台座があった。

 そこに置かれていたのは――


 


 木刀だった。


 


 ジノ「……え、剣じゃなくて……木刀?」


 ナギ「違う、これは……神樹……!?

 古代文献にあった、“理を拒む木”……! まさか、現物が……」


 


 ハクは、自然とその前に立っていた。


 足が勝手に動いた。

 喉の奥が震えた。

 けれど心だけは、不思議と静かだった。


 手を伸ばす――その時だった。


 


 「侵入者……カクニン……理よりズレた存在……ハカイ……セヨ……」


 


 天井の文様が、淡く光を放ち始める。

 床が震え、空気が一変した。


 現れたのは、人の形をした“影”。

 剣を持っていた。

 だが、それは実体ではない。


 


「守護霊式……封印の自動防衛装置!?」


「説明はあとで! ハク、くるよ!」


 


 影が一閃。

 剣が風を裂く。

 ナギの封印札が弾かれる。


「ジノ、下がって!」


 


 ハクは木刀を抜く。

 今までと何ひとつ違わない。

 けれど、何かが重くなっていた。


 彼の持つ木刀が、まるで呼応するように空気を裂いた。


 


 一歩踏み込む。

 影の斬撃を、なぞるように受け流す。


 空間が揺らいだ。


 


 ハクの木刀が、“風の狭間”を斬った瞬間――

 影が、悲鳴を上げるように崩れた。


 


 静寂。

 再び灯だけが、三人を照らしていた。


「……今の、何……?」


 ナギが呟いた。


 


 ハクは、台座の木刀を見つめる。

 ふと、自分が持っている木刀に目を落とした。


 ――まったく、同じだった。


 


「その木刀……ただの練習道具なんかじゃない」

 ナギが言った。


「これ、魔導院じゃ“封印対象”になってたものよ。

 “魔術に触れず、理を否定する力”を持つ存在――

 その原型が、まさか君の手にあったなんて」


 


 ハクは黙って木刀を見つめていた。

 木なのに重い。

 軽いのに、鋼より鋭い。


 自分は、これをずっと振っていたのか。

 これが――何かを、選んでいたのか。


 


 ナギが囁く。


「王都が恐れてたのは、“剣”じゃなかった。

 “剣を持たず、理を斬れる者”……だったのかもね」


 


 ジノがぼそっと呟く。


「なあ……これから俺ら、どこまで巻き込まれてくのかな……」


 


 誰も答えなかった。

 けれど、火がまた、ぱちんと鳴った。


 ハクの目の奥で、何かが静かに燃え始めていた。



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