12話:風の導き、西への誓い
朝霧の中、廃村を後にして、三つの影が森を歩いていた。
その背を押していたのは、確かに“風”だった。
「……王都からの監視網、すぐに広がると思う。今ならまだ間に合う」
ナギの声は淡々としていたが、わずかに焦りが滲んでいた。
彼女の記憶には、王都魔導院の非情な動きが焼きついている。
「でもさ、なんで西なんだ? 正直、東行った方が物資も人も多いし……」
ジノが背負った荷物を揺らしながら聞く。
ハクは前を向いたまま答える。
「……昨日の“碑文”。あれにあった、“虚ノ森”って地名――」
ナギが続ける。
「……“虚ノ森”は、ミレザ辺境州の北端にある。
王都じゃ“立入禁”扱いされてて、記録も封鎖されてるはず」
ジノ「じゃあ余計行かない方がよくね!? え、幽霊とか出るの?」
ナギ「……“理が通じない場所”って呼ばれてるの。
魔術も剣も、常識も……何もかもが通じないって」
それでも、ハクの足は止まらない。
彼の背にある木刀が――いや、あの風が、
“行け”とささやいている気がした。
「……行かなきゃいけない気がする。理由はまだ分からない。
でも、ここじゃない。“そこ”に何かがある」
ナギが微笑む。
「いいよ、ついていく。私も、あの碑文が気になってた。
それに……あなたの背にある“木”が、何かを知ってる気がする」
ジノが嘆くように叫ぶ。
「はーい! 決まりましたー! 俺の平穏な人生、今日で終了ー!」
誰も笑わなかったけれど、なぜか空気が軽くなった。
そして三人は、草木をかき分け、西への山道を踏み出していく。
そのとき、森の奥で“風”が騒いだ。
まるで、新たな来訪者に警告するかのように。
──そして、王都・評議の塔。
セイマ・カザマは静かに報告書に目を通していた。
「西部森林地帯にて、封印魔導陣の共鳴反応」
「観測された魔力反応:理外領域指定」
「目撃証言:“木刀を持った少年”」
セイマは眉をひそめ、ため息をついた。
その名が、記されていないのを確認して、ゆっくりと目を閉じた。
「ハヤト……お前、あの木刀を持って行ったのか。
まだ早い……そう思っていたが――」
彼の背後、政務官がそっと尋ねる。
「参謀官、対応はいかがいたしますか?」
セイマはただ、遠くを見た。
「風は……また、あの山から吹き始めた。
もう“止める”ことはできまい。見届けるだけだ」
風が舞う。
王都でも、辺境でも、誰もが気づかぬうちに“理”が揺らぎ始めていた。
そして、ハクはまだ知らない。
その先に待つものが――“理を断つ”だけでは済まないことを。




