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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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494.輝かしい未来の果て

私たちはメーラ様とガムガリオンによって、エルヴァーンたちから守られ、門をくぐって故郷へ帰る準備をしていた。

しかし、希望が見え始めたその時、狂気に満ちたエルヴァーンが邪神フライヤに祈りを捧げ、なんとその加護を得てしまった。

エルヴァーンの異常な力にガムガリオンが苦戦する中、フレヤさんの挑発で邪神の弱点が明らかになるも、エルヴァーンはそれでも強力な力を振るい、ついにガムガリオンを圧倒し始めつつ今に至る。




明らかに劣勢を強いられていたガムガリオンが、ついにふらりと後ずさった。


「くっ……!」


まずい、ガムガリオンの顔に、初めて焦りの色が浮かんでいる。

拳を交わすたびに、エルヴァーンの攻撃は、ガムガリオンの『時流偏向』を上回る速さで、ガムガリオンの身体を蝕んでいく。

ついにガムガリオンが一旦後ろに飛んで、エルヴァーンと距離を取った!


その瞬間、エルヴァーンの居た方角から悲鳴が聞こえた。


「あああああぁぁぁぁっ……!」


そこにいたのは……うそっ、そんな!

さっきまでエルヴァーン派だったはずのシャグ族とパルマ族だ!


地面に倒れ込み、身体から黒い煙や真っ赤な鮮血を上げている。


「な、なぜ……!?」


なんとも信じられない光景……言葉を失った。


「ふはははは!見ろ、ガムガリオン!これが、我が神フライヤ様から授かった力だ!裏切り者に用はない!!」


エルヴァーンが、高らかに笑う。

意図的に避けたのか、エルガムドとマヨルカは完全に腰を抜かしている。

でも正直助ける義理はないし、下手なことはできない状況だ。


「奴らは既に死んでいる!!いくら精鋭だろうとこの私の手にかかれば一瞬だ!!相応しいッッッ!!実にこの私に相応しい力だッッッ!!」


エルヴァーンの瞳は、まるで深淵のようだ。

狂っている……圧倒的な力を手に入れて、力に溺れている。


「どォうだ、ガムガリオン!お前の力は、所詮この世界に放り出された際にオマケで貰ったものッッッ!だが、私の力は偉大なる女神フライヤ様より直に賜ったものッッッ!私には見える……見えるのだァァァ!お前がこの後、どういう結末を迎えるか!お前が……ここで死ぬ未来がなァァァッッッ!!」


エルヴァーンの言葉に、ガムガリオンは、唇を噛みしめる。


「メーラ!あとどれくらい稼げばいいっ!?」


ガムガリオンが叫んだ。

その声に、メーラ様はユラさんに問いかける。


「ユラ、次の星食のタイミングは!?」

「はい、ウェーブ11764年、第184日まで、あと5です!」


ユラさんの声が、緊張をはらんで響く。


「あと、もう一息だよ!なんとしてもアメリとフレヤを無事に元の世界に返すんだ!」


メーラ様が、私たちに発破をかける。

だけど、私たちは、動けないでいた。

分かる、エルヴァーンの力は異常だ。

いや、異常なんて言葉じゃ陳腐に聞こえる。


「アメリ、下がれ!俺達の後ろで!自分とフレヤを守ることだけに専念しろッ!」


ゼルさんが、私の手を掴もうとする。

だけど私はその手を振り払った。


「い、嫌だ!私、ゼルさんと、た、戦うっ……!」


今はもう後方でビクビクしている場合じゃない、私も剣を構えて戦うしかない。

腐ってもフライヤは神。

どんなに力を失っていようと、現にチキュウとかいう世界から、デタラメな力を与えた人をポンポン送り込める神なんだ。

舐めてた訳じゃない、だけど……頭の何処かで事態をもっと軽く見てた。


目の前にいる加護を得たエルヴァーンの強さは……明らかに異常だ。

ガムガリオンが相手をしてくれているけれど、劣勢なことに変わりはない。


ゼルさんが私の肩を掴んで、力強く揺さぶった。


「駄目だ!どうか分かってくれ!!」

「そ、そんなこと言ってる場合じゃ……!!」

「そんな場合じゃないことくらい分かっている!!しかし、ここでお前に死なれたら身も蓋もないんだ!!分かってくれ!!」


ゼルさんの怒鳴り声が、私の胸に突き刺さる。


「これは世界のためだとかそんなんじゃない!!どこの世界に惚れた女と絶体絶命の戦いをともにする戦士がいるというのだッッッ!!」


ゼルさんの言葉……私の心に、深く響いた。

私の告白に対する、ゼルさんなりの答え。


それは、私が想像していたよりも、ずっと熱く、切実なものだった。


「ゼルさん……」


私の目から、再び涙が溢れ出す。


「情けないままお前を送り返せないんだ。せめてカッコつけさせてくれ……な?」

「は、はい……!」

「よし。アメリ、俺に例の切り札をかけてくれ。それくらいしないと同じ舞台に上がれそうもない……」


ゼルさんが、前を向いてエルヴァーンを睨みつけたまま、私にそう告げた。

切り札。

それは、私のマギアウェルバ『バーンアウトエクスタシー』のことだ。

効果が切れると、身体中が悲鳴を上げ、ヘロヘロになって戦うことすらできなくなる。


躊躇する。


だって、私がものと世界に帰ったら、『バーンアウトエクスタシー』はもう持続しないのでは……?

エルヴァーンと交戦状態のままで帰ってしまえば、ゼルさんを……そんな危険な状態に晒すわけにはいかないよ!


でもガムガリオン一人にこのまま任せるのは厳しい……


「で、でも……ゼルさんが……」

「どの道、このままでは共倒れだ!!頼む!!俺にかけてくれ!!」


ゼルさんの目が、私をまっすぐに見つめている。

その瞳は、覚悟に満ちていた。


「必ず迎えに行く!!セレスティア王妃殿下の見た、輝かしい未来の果てには……俺は必ず……アメリ、お前を迎えに行くと誓おう……!!」


ずるいよ……そんな真剣な目をしたまま微笑まれたら……私、本気にしちゃうよ。

ゼルさんに『バーンアウトエクスタシー』をかけよう。

お願いゼルさん……どうか死なないで……!!


「アメリさん……!」

「は、はい!だ、大丈夫。い、一緒に帰ります……!」


不安そうなフレヤさんにウインクしてみたけど、ちょっと失敗しちゃった。

フレヤさんの顔が、一瞬だけ、悲しみに歪んだように見えた。

でも、すぐに、フレヤさんはいつもの冷静な表情に戻る。


「ゼルさん、アメリさんを頼みましたよ!もしアメリさんを迎えに来なかったら、あなたを絶対に許しませんからね!」


フレヤさんの言葉に、ゼルさんはただ静かに頷いた。

フレヤさんの表情が晴れた。


「よし、ゼルさんを信じましょう。絶対に……一緒に帰りましょうね」

「は、はいっ……!!」


よし、ゼルさんを信じるんだ、アメリ。


マギアウェルバ

火よ火よ 闇よ闇よ


女神アストラリア様――

どうか、お願いします。


この身に宿るは狂気の炎

燃え盛る情熱は限界を知らない


ゼルさんを――

ゼルさんを、守ってください。


輝きは美しく代償は大きく

燃え尽きるまで燦然と輝く儚い星


私の恋を、どうか誰も取り上げないで……!!


バーンアウトエクスタシー


言葉にしきれないくらい、必死に想いを込めた私のマギアウェルバ。

詠唱を終えると同時に、ゼルさんが真っ赤に燃え上がるように身体中からオーラが溢れ出た。


ゼルさんの身体が、微かに震えているのが見えた。

ゼルさんの胸の鼓動が、まるで私の胸の鼓動と共鳴するように、激しく脈打っているのがわかる。

全身の血流が、尋常じゃない速さで巡っているのが、離れていても感じられる。


『バーンアウトエクスタシー』がいつもとちょっと……違う気がする……?

赤いオーラの中に、私の胸の鼓動が、小さな光となって混じり合っていくみたい。

まるで、ゼルさんへの想いを象徴するような、ほんのりとしたピンク色の光。

光は、まるで生きているかのように、ゼルさんの身体を包み込んでいく。


アストラリア様に祈りが届いた……?


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!」


ゼルさんの叫び声が、森に響き渡った。


「ゼルとやら、俺もやるか?」


ゼルさんの力を感じ取ったのか、ガムガリオンが、ふわりとゼルさんの隣に着地した。

ゼルさんは、静かに頷く。


「危険だと判断したら加勢してほしい。それだけでいい」


ゼルさんの声は、いつもと変わらなかった。

だけど、その背中には、メラメラと燃える炎が宿っているように感じる。


「上等だ!貴様らのような愚かな下郎どもに、フライヤ様の素晴らしき御力を目に焼き付けてやろうではないか!」


エルヴァーンが、高らかに叫び、ゼルさんに向かって駆け出した。

早いっ……!?

エルヴァーンの動きは、さっきガムガリオンと打ち合っていた時よりも、さらに速い!


「『時流偏向』か……!」


ゼルさんが、静かに呟く。

その両手には、青白く輝く、水の刃が握られていた。


「無駄だ!私の力は、貴様らの想像を遥かに超えているッッッ!」


エルヴァーンが、ゼルさんの目の前に肉薄した。

エルヴァーンの拳が、ゼルさんの顔面を狙って振るわれる。

だけどゼルさんはそれを冷静に見切っていた。


ゼルさんの身体が、ほんのわずかに、時を超えたかのようにブレた。

その瞬間、エルヴァーンの拳は、虚空を斬った。


「なっ……!?」


エルヴァーンが、驚きに目を見開く。


「俺には見える。お前の動きが、まるで止まっているかのようにな……!」


ゼルさんの瞳は、まるで時間すらも読み取るかのように、エルヴァーンの次の動きを完璧に見抜いていた。

ゼルさんが、水の刃を、エルヴァーンの身体に向かって振り下ろす。

水の刃は、エルヴァーンの身体に、わずかな傷を残す。


「くっ……!少しばかりぬかっただけだ!口からでまかせを……!」


エルヴァーンが、苦痛に顔を歪ませる。

猛烈な拳の乱打がゼルさんを襲うけれど、ゼルさんには届かない。


「なぜだ!なぜ俺の攻撃が!なんの力も授かっていないクラヴィア族の職業戦士如きに届かん!?」


エルヴァーンが、焦燥を帯びて叫ぶ。

ゼルさんが手を休めることなく、猛烈な勢いでエルヴァーンに剣撃を見舞いはじめた!


「未来視でしか先が見えんような素人相手に負ける俺ではない!!先祖代々!誇り高きクラヴィア族の戦士たちの血潮さえ流れていれば、それだけで一向に構わんッッッ!!」


エルヴァーンは、ゼルさんの今の言葉に、怒りに顔を歪ませた。


「くそっ!!アストラリアは、我々に何をしてくれたというのだ!?何もしないではないか!見守っているかすら怪しい!」


エルヴァーンの言葉に、猛烈な勢いを維持したまま、ゼルさんが静かに反論する。


「黙れ。貴様のような者に、女神アストラリア様のことを語る資格はない」


ゼルさんの声は、怒りに満ちていた。


「女神アストラリア様は、我々を愛してくださった。我々の故郷を守るために、身を犠牲にしたのだ。今、我々が生きているのは、アストラリア様の御力のおかげだ!」


ゼルさんが、エルヴァーンの言葉を、一刀両断する。


「お前は、ただの自己中心的なエゴで、邪神フライヤを崇拝しているだけだ。そこに信仰心など、かけらもないのではないか!?」


ゼルさんが、水の刃を、エルヴァーンの身体に向かって、さらに鋭く突き立てる。


「俺は、ここでお前を倒す。そして、俺たちの故郷を、アストラリア様を、必ず救い出す!」


ゼルさんの言葉と共に、彼の水の刃が、エルヴァーンの身体に、深い傷を残す。


「馬鹿な……!なぜだ!なぜ私の力が……!フライヤ様の御力が、そんな下郎に劣る!?」


エルヴァーンが、信じられないものを見るような顔で、ゼルさんを見つめている。


「私には見えるんだァァァッーお前が……お前がァァァッ!ここで死ぬ未来がなぁ……!!」


エルヴァーンが、狂ったように叫ぶ。

だが、ゼルさんは、その言葉に怯まない。


「そんなくだらん未来など、俺が変えてやる!」


ゼルさんが、水の刃を交差させ、エルヴァーンに向かって、力強く振り下ろした!

ゼルさんによる渾身の一撃だ!


……エルヴァーンの顔に浮かんだのは、苦痛じゃなくて、歪んだ歓喜だ……


「ふはは!来たぞ!来た来たァァァッ!見切った!見切ったぞ!!その程度の太刀筋、既にこの私の眼には……!!」


エルヴァーンが不気味に笑った瞬間、ゼルさんの水の刃は、まるで透明な壁に阻まれたかのように、ピタリと止まった。


「な、なんだと……!?」


ゼルさんが、驚きに目を見開く。


「残念だったな、下郎!慣れてしまえば大したことはない。偉大なるフライヤ様の御力を前に、お前が持つそこのアメリとかいうメイドの力程度では、この私の動きは捉えきれなかったようだな!」


エルヴァーンはゼルさんの水の刃を、素手で掴んでいる!?

その指から、黒い煙が立ち上っていく。

水の刃が、まるで生気を吸い取られるかのように、みるみるうちに力を失って……霧散した……?


ゼルさんの背中に、嫌な汗が伝うのが見えた。


「そうだ、貴様のような下郎が、どうしてこの私と同じ舞台で戦えると思った!?あのメイドが持っている力を、貴様は借用しているだけだろう!」


エルヴァーンは、ゼルさんの言葉を嘲笑うように、顔を歪ませる。


「そして貴様が持つその剣術、その身のこなし!シャグ族が取り込んでいたお前の父親よりも劣るな!」


エルヴァーンの言葉に、ゼルさんが、僅かに動揺しているのが分かった。


「そうだッ!お前は!お前はただの出来損ないではないか!そしてお前が持つその剣術は、誇り高いという父親の劣化版に過ぎん!」


エルヴァーンが、勝ち誇ったように叫ぶ。

その言葉に、ゼルさんから冷静さが抜けていくように見える。


「……っ!」


私の声が、喉から漏れそうになった。

違う、そんなことはない!ゼルさんの剣術は、ゼルさんの努力の結晶だ。

ゼルさんの心が、エルヴァーンの言葉に揺らいでいる。


「……黙れッッ!!」


ゼルさんが、エルヴァーンの拳を、ギリギリのところで受け止める。

だけど、ゼルさんの身体が、僅かに後ずさる。


「はははっ!無駄だ、無駄だ!貴様には、私を倒すことなどできん!偉大なるフライヤ様の御力を前に、貴様らが叶うわけなかろう!!」


エルヴァーンの拳が、ゼルさんの身体を、まるで何度も何度も叩きつけるように、連打を繰り出す。

ゼルさんは、それを必死に防いでいるけれど、徐々に、その防御が崩れていくのが分かった。


きっとガムガリオンにも、私にも見えない、エルヴァーンの別の攻撃を防いでいる。

攻防があまりに激しすぎて横から手出しするのは難しい。

時間稼ぎにはなっているけど、このままじゃ……このままじゃゼルさんが負けちゃうよ!

私は、ゼルさんを信じたい。


「助太刀するか!?」


ガムガリオンが声を張り上げた!

だけどゼルさんも応戦しつつ負けじと声を張り上げた。


「駄目だ!アメリとフレヤを帰すまでは温存してくれ!アメリが帰れば俺は戦えなくなる!!誰も手出しするなっ!!」


ゼルさんはそれでもまだ冷静さを保っている。

確かにそのとおりなんだけど、エルヴァーンの底が知れない以上、このままで

いいの……?


リャルさんたちもジッと集中したまま私達を守るようにして構えたままゼルさんとエルヴァーンの戦いを見守っている。

ギロ王国の精鋭部隊の皆さんも同じくだ。

そう、もはやこの戦いに手出しできるのは、この中では私かガムガリオンくらい。


「見えているぞ!見えているぞ!門が開くタイミングがな!どうやってアメリとやらを殺せばいいのかもちゃんと見えているぞ!!」

「そんなクソみたいな未来はこの俺が捻じ曲げてやろう!!」

「それは楽しみだな!どちらにとって『クソみたいな未来』か見ものだなッッッ!なぁ、下郎よッッッ!」


エルヴァーンにも私達が門を通って元の世界に帰る未来が見えているに違いない。

だからこそ、どのタイミングで本気を出せばいいのか理解し、それが可能だと踏んでいるからこそのこの余裕なんだろう。

はじめはゼルさんの攻撃に攻めあぐねていたように見えた。

でも、戦っている最中でもエルヴァーンの動きはどんどん洗練されている。

それも恐らく『原初』の力に似た能力なのかもしれない。


この異常な状況を前に、どうすればいいのか、何も分からなかった。



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