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【ざまぁ】庶民のクロワッサン

「おい!! ベルベット!! まだ終わらないのか!?」

「無理無理無理無理ーーー! というかザーガルもトイレから離れててほしいんだけど!?」

「なんだと!? くそう!! 二人してなぜ急にこんなことになってしまったのだ……」


 ジュリア宛に届いていた荷物を勝手に開封し、おまけに中に入っていた下剤入りのお菓子やジュースを全て食べて飲んでいたのである。

 その数時間後、下剤の効果が表れはじめて家に一つしかないトイレの争奪戦が始まったのだった。


「うう……こうなったら外で……」

「やめてー! 庭が腐るわよ!」

「帰ってきたらジュリアに掃除させれば良いだろう!」


 ザーガルは居ても立っても居られない状況だった。

 顔は青ざめ、一瞬でも気を抜いたら大事故を引き起こすところまで迫っていたのである。


「ちょっと出かけてくる!!」


 ザーガルは渾身の力を振り絞って外へ出て、家から一番近くにあるパン商店のトイレを半ば強引に借りたのだった。


 ♢


「ザーガルさんよ、いつまで入っているつもりです?」

「すまない!! なかなか終わらないんだ! 必ず買物をするからもうしばらく貸してほしい」


 ガタイの良い店主はザーガルの突然の頼みを断れなかった。

 資産家の御曹司の頼みを断れば、今後の経営に影響してしまうと考えたためである。


 店のトイレに篭り一時間後……。


「ふぅ……ようやく少しはマシになれた、礼を言う。ついでに庶民のパンを買ってってやろうではないか。私は庶民には優しいのだからな」

 ザーガルの傲慢な態度に対して店主は我慢しながらも笑顔を作っていた。


「それは光栄ですね……。ありがとうございます」

「私が庶民のトイレを使った上に、庶民の作ったパンを買ってやろうとしているのだからな。感謝したまえ」

「えぇ、それはもちろんですとも……」


 ザーガルは上機嫌でパンを物色する。

 やがて、一つのパンに注目した。


「おい、これはなんなんだ?」

「クロワッサンですね。外はサクサクとしていますし、当店一番のお勧めでございます」

「そうか。ではこの庶民が食べるクロワッサンを買ってやる」

「ありがとうございます!」


 これでようやく邪魔者が消えてくれると店主は考えていたため、声を大きく張って満面の笑みでお礼を言ったのであった。


「ではクロワッサン五個のお買い上げで千紙幣になります」

「そうか、ではポルカ家にツケてくれたまえ」

「いえ……当店はツケ払いはちょっと……」

「なんだと!? ポルカ家の名を知らんというのか!? 信用ができないのか!?」


 ザーガルの威圧とクレームに店主は断りきれなかったのであった。


「必ず後日お支払いお願い致しますね」

「当たり前だ。ジュリアが帰ってきたら払わせるから安心したまえ」

「ジュリア様なら安心しておきます」


 ザーガルは上機嫌で帰っていく。


「はぁ、なんであんな男とジュリア様がご結婚などされたのだ……。ジュリア様がお気の毒に、離婚してしまえば良いものを……やはりあの男の入店は断るべきかもしれんな」

 店主は大きくため息を吐きながら愚痴をこぼしているのだった。


 ♢


 ザーガルが家に帰ると、ベルベットはソファの上で寝転がってうなされていた。


「おい、大丈夫なのか?」

「まだお腹がグルグルしているみたいで……」

「とにかく水分を摂って腹にも何か入れないとまずいだろう。ちょうど今パンを買ってきたところだ」

「パンー!?」


 ベルベットは上機嫌になってすぐにソファから起き上がった。


「パンなんて嬉しいわー。私、パンが大好きなの!」

「とは言っても庶民の店のパンだがな。ともかく食えそうなら食うがいい」


 袋に入れていたクロワッサンを、テーブルに乗っている皿の上に乗せた。


「しかもクロワッサン! これ大好きなのよ!」

「そうか! 庶民のクロワッサンなのにこんなに喜ぶとはな……そんなに美味いものなのか?」

「もちろんですわー! 一緒に食べましょ!」


 ザーガルは一つ口に頬張る。

 すぐにことの重大さに気がついたのだった。


「なんと! 美味い! 美味すぎる!! こんなものが庶民の間で流行っていたとは! 庶民のクロワッサンとはいえ侮れない!」

「でしょう!?」

「だがジュリアの作るケーキの方が美味いがな」


 ベルベットは機嫌が悪くなった。

 敵対視しているジュリアを良く言われてしまったからである。


「もう! ジュリアさんはしばらく帰ってこないって言っているでしょう? 今は私のことを見て!」

「それは出来んな。あくまで私はジュリアのことを愛している」

「せっかく私と身体の仲になったというのに?」


 ザーガルは当然のような顔をしながら首を横にふった。


「幼馴染だしそういう関係になっても仕方ないということを学習した。それに、こういうのも大事だということを知れたのだ。これはジュリアとの関係を更に深めるための儀式だと思えば悪いことではないのだ」

「はぁ……ザーガルいい加減に気づいてほしいわね……」


 ベルベットの言葉はザーガルに届くことはなかったのである。


「ともかく庶民のクロワッサンは美味いことがわかった。明日も買ってこよう!」


 しかし、翌日。


「たとえ権力の力で店が潰れることになったとしても、アンタの入店は今後お断りさせてもらう。出入り禁止だ!」

 パン商店からの痛烈な言葉を聞いてザーガルは店の入り口で固まるのだった。



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