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爺やからの提案

 しばらくの間、実家のエイプリル家で過ごすことになった。


 部屋、浴室、キッチン、リビング、庭、どれも懐かしい。

 小さい頃から家で掃除をしたり料理したり、庭を綺麗にすることが大好きだった。


 早速使用人と一緒に掃除を始めようかと思っていたところ……。


「ジュリアお嬢様。部屋でゆっくりされていて良いのですよ?」


 執事の爺やが優しく言ってくるが、ずっとダラダラとしているわけにもいかない。

 それに家事は私の趣味でもある。


「むしろ何かさせて欲しいわ。あっちでは家事をするというよりも後始末に追われて散々だったから……」


 ベルベットのミスの始末や指導をずっとさせられていたため、自分のペースが大きく崩された。


 だが、エイプリル家だったら使用人たちと一緒に楽しく家の仕事ができると思う。

 仕事というが、これが私にとっては息抜きのようなものである。


「左様ですか。ならば一つご提案させていただけませんか?」

「良いわよ。なんでも言って」


 爺やは咳払いをコホンとして、キッチンの方に視線をむけた。


「ジュリアお嬢様の作るケーキを再び食べることが出来たら私、幸せでございます」

「お安い御用よ」


 私が作ったお菓子やご飯を、爺やは高く評価してくれていたっけ。

 腕が鈍っていなければ良いんだけど。


「材料はある?」

「勿論でございます。実はジュリアお嬢様がご帰宅されてから直ぐに材料の調達を行いました故」

「用意周到ね」

「しかしながら、私が浮かれすぎていて、まさかこのような事態になっているとは気が付かず、大変身勝手な行為をしてしまったと深く反省してます」


 頭を深く下げてきた。

 すかさず私はそれを止める。


「頭を上げて。むしろ今もそれだけ私の料理やお菓子を楽しみにしてくれているんでしょう? 腕が鳴るわよ」

「ありがとうございます。ご存知ないかと思いますが、ジュリアお嬢様が作られるお菓子はプレミア価格がつくほどの価値がありますからね」

「はい!?」


 爺や、それはいくらなんでも言い過ぎでしょう。

 私はただ趣味の範囲で作ったり、料理教室を開いたりしていただけなのだから。


「料理教室で通われていた生徒の皆さんを覚えておられますか?」

「え、えぇ勿論。最後の方は参加者が多すぎて打ち切りになっちゃったのは申し訳なく思ったけれども」


 五年前くらいのこと。

 最初は遊びに来ていた友達に、料理を教えるところから始まった。

 その友達がクチコミで紹介してくれて、今度は四人に料理を教えることになったのである。


 更にクチコミが広がってついに料理教室という枠にまで発展してしまった。

 流石に許容範囲を超えてしまったので、仕方なく料理教室は暫くの間お休みということになったのだ。


「今でも料理教室は再開しないのかと問い合わせがエイプリル家に届きますからね」

「そうなの!?」

「はい。それだけジュリアお嬢様の料理教室が好評なのです。説明も丁寧で完璧でしたし、ジュリアお嬢様の作られる料理を食べるのを楽しみにしていた生徒もいらっしゃいましたから」


 そこまで楽しみにしていてくれたとは知らなかった。

 良い機会だから一日限定で料理教室を復活させても良いかもしれない。


 それにしても料理教室の生徒はあれだけしっかりと覚えてくれていたのに、ベルベットはマンツーマンで教えても全く成長してくれなかった。


 もしかして私の教え方がダメになっているのか!?


「ジュリアお嬢様……なにか良からぬことを考えていませんか?」

 さすが名執事だ。

 私が少しでもマイナス思考に脳が働くとすぐに止めてくれる。


「教え方鈍っていないかなって。問題を起こしてくれた例の人に料理の基礎を教えたときは全然覚えてくれなかったし」

「大変失礼ながら、その者の思考がお花畑だったのではないかと思いますが?」


 爺やが呆れながら他人を悪く言っているのは初めてかもしれない。

 普段は必ず良いところを見つけているのに。


「爺やもそんなこと言うことがあるのね」

「いえ、話を聞く限り、その者に関しては救いようもない残念なお方だという印象ですので。ジュリアお嬢様もさぞ苦労されていたことでしょう……」


 否定はできなかった。

 気持ちを切り替えてお菓子作りをはじめた。


 果たして上手くいくだろうか。

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