56「女体化は続くよどこまでも」②
ギュン子をリーゼたちに任せ、神殿に入った友也。
途中、女性たちとすれ違いお辞儀をされながら、エヴァンジェリンがいる部屋に蹴破る勢いで入っていく。
「最大の悪は滅びました。次は、加担した女体化女神をぶっ飛ばします! ……って、エヴァンジェリン?」
部屋に飛び込んでみたが、エヴァンジェリンは専用の椅子に力なく座り、生気の抜けた顔をしている。
目は焦点があっておらず、魂が抜けていそうだ。
そんなエヴァンジェリンの隣では、タオルでぱたぱた彼女を扇ぐ聖女霧島薫子がいる。
「えっと、どうしたんですか?」
「あー、なんていうか、度重なる女体化を強いられて疲れちゃった?」
苦笑する薫子に、友也はエヴァンジェリンが嬉々としてギュン子と共謀していると誤解していたことに気づく。
「それで、友也くん。ギュン子様は?」
「悪は滅びました」
「あはははは……まあ、そうなるとは思っていたけど、オチがつくまで長かったなーって」
友也と薫子、そしてサムは、日本出身者ということもあり交流を続け、気心のしれた仲になっている。
最初こそ関係に距離があった薫子だったが、友也がラッキースケベを起こし、サムと一緒に未確認生物を探すなどしていくうちに、同世代の男子と接するくらいの距離に落ちついた。
友也も、薫子とは気楽に接することができていた。
「……おう、友也か」
「だいぶくたびれていますね、エヴァンジェリン」
「私さ、人間の男に言いように騙されて殺戮のかぎりを尽くして魔王になったんだ」
「え、ええ、知っていますけど?」
「そのことが一番辛いことだと思っていたんだけど……あの変態を女体化させてから繰り広げられる女体化業務と変態どもとの日々が一番辛い」
「でしょうね! でも、君があの変態を女体化させて目覚めさせたのがきっかけですからね!」
「時間を戻してくれ!」
「無理に決まってんだろ!」
元人間の魔王に無理を言わないで欲しい。
むしろ、友也のほうがエヴァンジェリンよりもやり直したい過去が多い自信がある。
(とはいえ、魔王になるきっかけをエヴァンジェリンが乗り越えたのなら……いや、上書きかな? 違うか。トラウマが増えただけですね。うん)
エヴァンジェリンが魔王に至った理由は、第三者が聞いても不愉快だ。
いつか乗り越えることを願っていたが、変態のせいで少し和らいだのならよしとしよう。
問題が増えただけなのかもしれないが、友也にできることはない。
「とりあえず、エヴァンジェリン。呪いを解いてください。言っておきますが、この状況にサムが帰ってきたら泣きますよ」
「無理」
「は?」
友也は自身の耳を疑った。
エヴァンジェリンはバツの悪い表情を浮かべ、言い訳を始める。
「いやさ、私がいくら魔王だからって、王都の男どもを女体化させるなんて無理があるんだっての。ママが手伝ってくれたけど、それでもだ」
「つまり?」
「女体化を維持する条件として、ダーリンが喜んで笑ってくれたら女体化解除って」
「逆に言うと?」
「……ダーリンが喜ばなかったら、女体化は続く」
「くそったれぇええええええええええええええええええ! なんでそんな難しい条件にしちゃったんですか!」
「難しい条件だからこそ、呪いが維持できるんだよ!」
友也は絶望する。
このままでは、最悪の場合、サムの誕生日を祝ったあとも女体化祭りが強制続行されてしまう。
「まともに考えて、サムが女体化祭りで喜んで笑うとかありえないでしょう!」
サムが「女体化ひゃっほうぅ!」と喜ぶ姿が想像できない。
むしろ、気絶する姿のほうが容易に思い浮かんだ。
「……駄目だ。最悪の場合はヴィヴィアンに無理を言ってでもなんとかしてもらわないと」
事情があって、大陸西側に来ることができないヴィヴィアンを無理やり呼ぶくらいしか、女体化への問題解決ができそうもない。
友也が深くため息をついたときだった。
「あ」
薫子が友也の背後に何かを見つけた。
友也が反応したときにはすでに遅かった。
「ふははははは! 隙あり!」
「しまっ」
背後から友也を羽交い締めにしたのは、整った顔をボコボコに腫らしたギュン子だった。
「油断したね、変態大魔王! ママがお仕置きを準備している以上、僕も末路は決まった。ならば、僕だけが朽ちてなるものか! 君も道連れに」
「すんなぁああああああああああああああああああああああ!」
悲鳴をあげる友也が、ギュン子を吹き飛ばそうと力を入れるが、びくともしない。
「甘い、甘いよ! 最大の壁として君が立ち塞がることは想定していた。事前に竜王陛下から一時的なお力を授かっていたのだよ!」
「竜王ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「僕が君のような恐ろしい変態を相手に対策を立てていないとでも思ったのかね! リーゼたちが出てきたのは驚いたが、終わらん! 終わらんよ!」
ギュン子が神々しく光り出す。
「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
友也は絶叫をあげるが、抵抗虚しく光に包まれた。
「――なんだこれ?」
エヴァンジェリンが死んだ魚のような目を、さらに濁らせる。
しばらくして、光が収まると――そこには、黒髪の美少女がいた。
「え? 嘘っ? 友也くん!? すごく可愛いんだけど!?」
薫子が驚きの声を上げ、目を見開く。
この日、魔王遠藤友也は女体化した。
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