55「女体化は続くよどこまでも」①
「さあ、ギュンター・イグナーツ。覚悟を」
そろそろ馬鹿げたイベントを強制的に終わらせようと友也が指を鳴らす。
だが、ギュンターは往生際悪く、挙句。
「ま、まだだ! 先生、先生お願いします」
「うむ」
先生、とやらが空から降ってきた。
地面を砕き着地したのは、同僚の魔王ロボ・ノースランドだった。
「ちょ、ここでロボはずるいですよ!」
「すまん――とは特に思わないが、貴様が女体化すればサムが喜ぶらしい。サムが喜べばアリシアが喜ぶ。つまりそういうことだ」
「そういうことじゃねーよ! あ、ちょ、はやっ! 君、動きが前よりも」
「ウォーカー伯爵家のごはんは美味しい。前よりも力が増した」
「そんな馬鹿な! おい、こら、ああもうっ!」
エヴァンジェリンの神殿が壊れても微塵も気にしないが、周囲に暮らすスカイ王国の民に何かあっては困る。
いくつか手段を頭に浮かべる友也だが、いざ実行するよりもロボのほうが早い。
(よくよく考えれば、飲まず食わずでずっと眠っていたロボが良質な食事、睡眠のおかげで力を万全にしたのか。ああ、もうっ、つくづくこの国とは相性が悪い!)
内心、悪態をつきながら、友也は迫り来るロボを自分とぶつかる直前で転移させることに成功した。
「ふう。速すぎるので捉えられるか不安でしたが、ま、こんなもんでしょう」
「せ、先生ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「あまり距離を飛ばせなかったので、すぐに戻ってくるでしょうから――それまでに、この変態をしばらく動けないようにしないといけませんね」
できることなら大陸西側まで飛ばしたかったが、せいぜい王都から少し離れた場所にした飛んでいないだろう。
友也もロボがどこにいるのかわからない。余裕がなかったため、適当にすっ飛ばしただけだ。
「貴様! 転移はずるいではないか!」
「お前にだけはずるいとか言われたくねーよ! 僕ひとりでどれだけ変態どもと戦ってきたと思ってんだ!」
「何を言う? 基本的に、世界の敵のような変態なら、孤独な戦いなど日常茶飯事ではないのかな?」
「否定できないのが悔しい!」
ラッキースケベという業を背負った友也は、いつだって孤独な戦いを強いられてきた。
ギュンターの指摘に、悲しくなり涙が溢れかける。
「ふははははは! だが、君もだいぶ消耗したようだね! いくら魔王といえ、もう足掻けまい! 僕の勝ちだ!」
「どこからそんな自信がくるんでしょうねぇ!」
「お黙り! 今日から王都は、いいや、スカイ王国は、ひいてはこの世界はサムのハーレムとなるのだ!」
「まだそんな野望を! ――あれ? えっと、あの、ちょっといいですか?」
声高々に野望を吐露するギュン子に、ふと疑問を思い浮かべた友也が訪ねる。
「なんだい?」
「サムのハーレムはいいんですけど」
「うむ?」
「サム以外を女性にしたら、ハーレムにはなるんでしょうけど、ローテンション的なものは大丈夫なんですか?」
下世話な話だが、仮にサムのハーレムが出来上がったとして、何千、何万を超える妻がひとりの夫とちゃんとコミュニケーションをとれるのか疑問でしかない。
それではギュン子自身もサムとの交流が薄くなる。
彼女なら自分を優先させるかもしれないが、それならばハーレムなど作らなければいい。
「あ」
「あ、じゃないですよ、あ、じゃ。なんで気づかなかったんですか」
「サムに喜んでもらうことしか考えてなかった!」
「嫌がらせの間違いでは?」
すべてが善意で動いていたとしたら、あまりにも怖い。
どんな狂信者でもドン引きだろう。
「あとですね、サムのハーレム計画は奥さまたちに話しているんですか?」
サムには、心から愛する妻たちがいる。
そして、彼女たちのお腹には子供もいるのだ。
ハーレムを作る前に、まずは彼女たちにお伺いを立てるべきではないか、と思う。
いくらギュン子が妻だと振る舞っても、他の女性陣を蔑ろにしていい理由はない。
「あ」
「――だそうですよ」
「え」
少し離れた場所に友也が視線を向ける。
ギュン子もつられて顔を動かした。
すると、そこには木刀を持ったリーゼをはじめ、武装した女性陣たちがにっこり。
「あ、あわわわわわ」
ギュン子は、一番話を通しておかなければならな相手にちゃんと報告をしていないことを思い出したようだ。
「あのね、ギュンター。サムを驚かそうといろいろ考えてくれたのは嬉しいわ。ええ、本当にそのことにはお礼を言いたいの。でもね、女体化計画はさておき、サムのハーレム計画はよくないわね」
「あ、あの、違うのだよ。誤解だ。僕は君たちを仲間はずれにしようとは」
「誰がそんなことを言ったのよ! サムが側室を増やすのはさておき、大ハーレムは駄目よ! というか、女体化させた男をハーレムに入れてまでなにがしたいの!?」
「サムが喜ぶかと思って、つい」
「……つい、じゃないでしょう。つい、じゃ!」
呆れた様子を見せるリーゼが、とりあえず木刀を構えた。
「一応言っておきますが、皆さん妊婦なのでほどほどに」
「お気遣いありがとうございます。ですが、軽い運動なら問題ありません」
「あ、はい」
にっこり微笑むリーゼたちに、友也はそれ以上言わなかった。
次の流れを把握した友也は、彼女たちの邪魔をしないようそっと道を譲った。
「お、落ち着きたまえ。話し合おう。僕たちは分かり合える。サムを愛する妻たちではないか?」
「クリーが、かつてないお仕置きを準備中よ」
「のぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「その前に、私たちがお仕置きよ!」
ギュンターはボッコボコにされた。
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