44「デライトの出番です」③
「素敵でしたわ、デライト様! 凛々しいお姿を見ていたら、わたくし、わたくしぃ! 発情してしましたわぁああああああああああああああ!」
「なんでレイチェルがいるんだよぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
戦場ではないとはいえ、戦いがあったばかりの王都の外に護衛もつけずにすっ飛んできてデライトに抱きついてきたのは、スカイ王国第二王女のレイチェル・アイル・スカイだった。
彼女はデライトと結婚している身だが、手続きの問題でシナトラを名乗っていない。
本人は名実ともに夫婦になりたがっているので不満のようだが、順序があるのでしかたがない。
そんなレイチェルはマーキングするようにデライトの胸板に頬擦りすると、内股になってくねんくねんし始めた。
「夫の戦場は妻の戦場ですわ! 勝利を収めた夫を労いたく思いますわ。今日はたっぷりご奉仕致しますね!」
「……きっと明日は干物だな。今さらか」
毎晩身体中の水分を奪われる勢いで夜の生活が続いているデライトは、求められることを嬉しく思う反面、手加減して欲しいと思っている。
デライトも四十すぎだ。男として枯れているわけでなく、体力面でも鍛えているのだが、ところどころでガタがきている自覚があるため、ある日突然腰が壊れるのではないかと恐れていた。
控えさせている部下たちはレイチェルの言動に驚きはしない。
むしろ、相変わらず熱々ですね、と微笑ましい視線を送ってくるので、居た堪れない気分だ。
デライトの部下たちは、かつて部下だった者を再起用し、他にも魔法軍の許可を得て新人を数人引き抜いていた。
魔法面ではデライトが、人格や背後関係ではレイチェルが目を光らせたので、信頼できる部下たちだった。
「あの」
「おっと、別に放置したわけじゃねえよ。あんたに頼みがあるんだが、他に隠れている馬鹿がいないか確認してくれねえか?」
「も、もちろんです」
「そうしたら、とりあえず飯にしようや」
「え?」
「……しばらくまともに飯も食ってねえだろう? 少し時間をもらうが、炊き出しくらいしてやるさ。ただし、降伏って形をとってくれるとありがてえんだが」
青年が瞳を輝かせるが、すぐにおずおずとした声で訪ねてくる。
「よろしいのですか?」
「ま、降伏って条件を飲んでくれれば、腹減っている奴に飯を食べさせてやるくらいはさせてもらうさ」
監視はつくし、良からぬ行動をすればそれ相応の対応をさせてもらうが、痩せ細った人間たちを放置するよりはマシだ。
スカイ王国は優しい国だ。甘いと言われることもあるが、優しさがない国など住みたくない。
「どうする?」
デライトの問いかけに、青年が改めて膝をつき頭を下げた。
彼に続いて、騎士たちが、魔法使いたちが同様に膝をついた。
「あなたのお心遣いに、スカイ王国に心より感謝致します」
◆
二時間後。
城下町に兵をいれることこそしなかったが、炊き出しのスープとパンが配られていた。
よほど腹が空いていたのだろう。
涙を流して食事をする者までいる。
「ったく、兵の腹を満たすのは基本だろうに。腹減って戦えないとは笑えねえだろうに」
レイチェルを貼り付けたままのデライトが大きく嘆息する。
結局、兵の中にはティサーク国側の人間が十人ほどいた。とはいえ、戦力そのものは大したことなく、他の兵たちに簡単に取り押さえられる程度だ。
すでに捕縛してティサーク国の兵が用意したテントに放り投げてある。
炊き出しの匂いを嗅いで、食事をさせてくれと懇願してきたが、さすがにスカイ王国が甘くとも最後まで降伏しなかった者にまで寛容ではない。食事はおあずけだ。
「旦那様がお忙しい間、王宮からティサーク国の使者が捕縛された旨の連絡がありましたわ。宮廷魔法使いと騎士団長が一緒だったようですが、ウォーカー伯爵一人で無力化できたそうです」
「あの方も十分なほどお強いからな」
どちらかというとウォーカー四姉妹の父として有名なジョナサン・ウォーカーだが、若い頃から魔法使いとして優れた人物だった。
少々やんちゃな一面があり、問題を起こしたこともあったが、今では問題を起こされては胃痛を覚える繊細な中年になってしまった。それでも、戦闘面の技量が衰えていないことは知っている。
本人がその気になれば、宮廷魔法使いになっていただろう。
「しかし、サム様を呼ばなくてもよかったのですか?」
「あいつばかり働かせてもあれだしな。それに、今日は休暇中だろう。城下町で嫁さんたちと飯食ってるから、こっちのごたごたには気付いているんだろうが、休日中はなんもするなって言ってある。なのにこっちが呼んだらカッコつかねえだろう。もっとも、サムを呼ぶまでもないがな」
ティサーク国にどれだけの実力者が待機しているのか不明だが、少なくともスカイ王国にやってきた奴らは大したことがなかった。
周辺諸国にちょっかいかけていながら失敗が続いているなどから、国に戦力はそこまでないと思われるのだが、ならばなぜそんなことを続けているのかも不明だ。
「ま、それを考えるのは陛下のお役目だからな。俺はただ戦うだけさ」
「素敵ですわ、旦那様! ではさっそく夫婦の戦いを!」
「……そうじゃない」
「――あ、そうでしたわ。ティサーク国の宮廷魔法使い筆頭に関してですが」
「ギュンターたちに捕縛されたんだろう?」
「はい。現在は、ギュンターとダニエルズ様たちのご指導のもと、立派なお姉様になるよう奮闘中のようです」
「……なんだそりゃ!?」
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