23「イーディス・ジュラは思う」
「――素晴らしいわ、サミュエル。あんなに男の子な顔をして、そっちの趣味がある輩なら攫って監禁陵辱コースね」
とんでもないことを言い出したのは、娘をウォーカー伯爵家に残して自宅に戻ったイーディス・ジュラ公爵だった。
彼女は帰って早々、シャワーを浴びると、執務室でワインを飲んでいた。
「あのままサミュエルに会ってしまったら……きっとはしたない言動をしていたでしょうから、帰ってきて正解だったわね」
イーディスは興奮に包まれていた。
サムとダグラスの喧嘩は、戦いに関して疎い自分でさえ昂らせた。
強者が弱者をいたぶるのではなく、敵を始末するのでもない。
認め合ったふたりが、拳で言葉を交わすという、野蛮ながらも美しい光景だった。
魅入ったのは自分だけではない。
サムの妻であるリーゼたちはもちろん、娘のオフェーリア、遠くで見守っていた使用人たちもだ。
ジョナサンでさえ、胃痛を忘れて食い入るように見ていた。
「きっと今頃、ちょろい娘は惚れているでしょうね」
オフェーリアに、同世代の友人や気になる異性がいないのは、ジュラ公爵家の立場のせいもある。
貴族派貴族筆頭だったイーディスの娘の取り巻きといえば、同じ貴族派貴族の子供たちばかりだ。
控えめに言っても、親同様に欲深く品のない子だったので、少々潔癖なオフェーリアにはひどく不快に映っただろう。
「でも、きっとサミュエルならオフェーリアの気難しい一面や、隠しているけどわがままなところを含めて受け止めてくれるでしょう」
もともとオフェーリアには、優秀な男性を当てがうつもりだった。
同世代に幻滅している娘には、年上の優れた男性がいいと思っていた。
だが、今のオフェーリアならば、サムに恋し、感情を育て、愛となるだろうという確信がある。
それだけの魅力がサミュエル・シャイトにはあるのだ。
今日はその一端を見られただけでよしとする。
「問題は私のほうね」
イーディスは、不安だった。
「あの若く荒々しいサムと一晩を共にして、体力気力が持つかしら?」
まだまだ女盛りであるが、夫を亡くしてから数年経つし、そもそも夫との営みは世間一般程度しかないので経験豊富、というわけではない。
そう言う意味ではリーゼたちも同じなのだが、イーディスは気付いていない。
「あれよね。未亡人が経験不足で少年に導いてもらう――オフェーリアの本棚の奥に隠してあった本にも書いてあったし、きっとサミュエルも好きでしょう」
いえ、待って、と悩む。
「勉強すべきかしら? 最近、王都のマンネリ夫婦たちがひとりの少女の助言と実技指導によって救われていると聞くわ。詳細は把握していないけど、愛の伝道師を名乗る少女だとか……サミュエルとの初夜を前に勉強しておくのもひとつかもしれないわね」
イーディスの中では、自分がサムに嫁ぐのは決定事項なので、あとはいかにどう夫婦生活を円満に過ごすか、と考えることに専念するだけでいい。
「やはり、親子丼……オフェーリアとも相談してみましょう」
火照った身体を持て余したイーディスは、珍しく深酒をして、翌朝寝過ごすのだった。
後日、オフェーリアに「親子丼するつもりはないかしら?」と尋ねたところ「ありません!」と断言されたのはまた別のお話。
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