45「変態の恨みを買っていたそうです」③
顎を砕くつもりで蹴ったつもりだったサムだが、「あれ?」と感覚がおかしいことに違和感を覚える。
本気でなかったとはいえ、魔王に至り強化された肉体の一撃を受けて、血を流して痛みにのたうちまわるくらいで済んでいるのが不思議だった。
「――あんた、なんか変なものやっているよね?」
ドーピング、薬物、呪物、魔道具、なんでもいい。
レロード伯爵は、間違いなくなんらかの力を得ているように感じた。
「何のことだぁ! くそっ、くそっ、俺の顔を蹴りやがって! 一番の武器だぞ! この恵まれた顔をしていたからこそ、俺は伯爵になり、後ろ盾も得ることができたんだ!」
「情けない自慢だな。もっと他に言うことないの?」
(無自覚でなにかやっているなんてことはあるのかな? 本人に自覚はないようだけど――まあいいか)
違和感があろうと、なにかしていようと、その自覚をレロード伯爵がしていようとどうでもよかった。
もうここまで激昂している男の怒りは治らないだろうし、放置しても悪いことが起きるのは目に見えていた。
ならば、始末するのが自然の流れだった。
「俺が、俺が伯爵になったのも――」
「別にあんたの話に興味はないんだ」
サムはレロード伯爵の言葉を遮った。
変態の昔語を聞いても、どうせ覚えられない。
それよりも早く片付けて、パーティーの続きなり、家に帰るなりしたかった。
思い返せば、吸血衝動を起こしてから、魔王に至り、竜と喧嘩して休みなどなかったのだ。
パーティー前に休息を入れたが、できることなら泥のように眠りたい。
「き、貴様! 貴様のその傲慢な態度が、俺以外にも敵を作っているのだ!」
「全員でかかってこい。平等に公平に殺してやる」
「――っ、その態度! まるで強者のような傲り! すべてが忌々しい! ガキが、魔法ができるからと調子にのって、ならば決闘だ! 命をかけて、殺しあいだ」
「いつでもどうぞ」
「お前を殺したら、そこの年増を犯して殺したあと、ステラたちを俺のものにしてやる! そして、俺は王になるのだ!」
「――遺言はそれだけでいいの?」
いい加減、鬱陶しかった。
犯罪予告を堂々とし、ステラの名を気安く呼び、代々の王家が守ってきた玉座まで手に入れると抜かしたのだ。
完全に、サムはレロード伯爵を敵として認識した。
「なにが遺言だ! 貴様こそ遺言を残すといい! 俺の剣は貴様を切り刻み――」
「話が長い!」
決闘を申し込みながら、挑んでくる気配がないレロード伯爵にしびれを切らしたサムが、もう面倒だとばかりに指を鳴らした。
――刹那、円を描いたようにレロード伯爵の右半身が消失した。
顔から、肩、胸、腹部が円形に抉り取られ、血すら流れない。
すでにレロード伯爵は絶命している。
長ったらしい口上の間に、何が起きたのかわからず、自身が死んだことさえも理解できないまま命を失った。
「……なるほど、これがレプシーの十八番の吸収能力か。思っていたのと違うっていうか、吸収じゃなくて食らいついた感じだな」
身体の四割を失い絶命したまま、倒れることなくそのまま立ち尽くしているレロード伯爵の亡骸に見向きもせず、サムは初めて使用した魔王レプシー・ダニエルズの力の強さを実感していた。
「あーあ、もっと強い相手で試したかったよ」




