43「変態の恨みを買っていたそうです」①
「変態って、ギュンターが?」
恐る恐る尋ねてみると、執事が首を横に振った。
とりあえず荒ぶるギュンターが降臨したわけでは無いということに、サムは安堵する。
「いいえ、そこまでの変態ではありませんが、なかなか癖のある変態が廊下で剣を振り回しています」
「酔っ払ってんのかなぁ?」
癖があろうとなかろうと変態は変態だ。
変態と関わりたくなかったが、誰かに被害があっては困る、と考えたサムは、廊下に出た。
「待ちなさい、サミュエル・シャイト」
「うわぁ」
ジュラ公爵の制止を聞かなかったことにして癖のある変態を見つけたサムは、心の底から関わろうとするんじゃなかったと後悔した。
三十歳ほどの容姿の整った長身の青年が、なぜか金色の魔法少女の衣装に身を包んで剣を振り回している。
「――うわぁ」
これにはジュラ公爵もサムと同じような声を吐き出した。
「目が汚れたわ。誰か、回復魔法を用意させて。治療が必要よ」
「気持ちはわかりますけど、あれはどうしましょう」
「殺していいわ。私が許可するから」
「えー」
つまり、自分になんとかしろと言うジュラ公爵に、サムは嫌そうな顔をした。
よく見れば、彼の身につけている魔法少女の衣装はキャサリンのものだ。そのせいか、微妙にサイズがあっておらず、衣装の隙間からチラチラと見たくもない肌色が露出してくるのが実に気持ちが悪い。
そもそもなぜキャサリンの衣装を、見ず知らずの人間がきているのかも理解の範囲を超えている。
「えっと、もしかして魔法少女ってこの国に何人もいるとか」
「そんなわけがないでしょう」
「キャサリンさんの弟子とか」
「ドミニクに弟子はいるけど、女の子よ」
「……いるんだ。じゃなくて、じゃあ、あれ、誰!?」
サムが叫ぶと、ジュラ公爵だけではなく、執事とメイドも驚いた顔をした。
「あなた、気づいていないの? あの変態は、ユング・レロード伯爵よ」
「…………んー?」
「ほら、魔王様に下着をずり下ろされて汚い尻と粗末なものを披露した」
「ああ! あの運のない奴か!」
ようやく廊下で荒ぶる変態が誰だかわかってすっきりした。
しかし、なぜ魔法少女の姿なのかがやはり理解できない。
「もしかして、さっきの一件で目覚めちゃったんですかねぇ」
「だとしたら魔王様には責任をとって殺してもらわないといけないわね」
「やっぱり殺すんですか……物騒だな」
「あの男は、最近、貴族派貴族らしい過激なことを企てていてね。他国ともつながっているし、複数人の女性も弄んでいるわ。その女性の親も脅して金を取っているの。ただ、被害者がことを公にしたくないから証拠が掴めずにいるのよね。つまり、あんな屑が死んでも、悲しむ人間はいないの。むしろ殺してくれてありがとう、と感謝されるでしょうね」
「それはそれはお手本のような屑ですね」
どうも王族派貴族と貴族派貴族は根本が違うらしい。
王族派貴族は問題のある人間はいるものの、仲間意識が強く、また王のため、国のために、民のためにが前提だ。対して、貴族派貴族は、王族派貴族と違う問題を持つ人間がいると同時に、基本的には自分本位らしい。
「――見つけたぞぉっ、サミュエル・シャイト! イーディス・ジュラぁ!」
変態に近づきたくないので距離を開けて会話をしていると、レロード伯爵がこちらに気づき、血走った目を向けた。
「ジュラ公爵はわかるけど、どうして俺まで!?」
「ロイグもそうだったわ。知らない間に巻き込まれて、関係ないのに一番恨みを買うのよね。きっと才能よ」
「いらない才能ですねぇ!」
今は父親のことはどうでもいい。
レロード伯爵は、長剣を構えると「きえぇええええええええええええ!」と奇声を上げて突進してくる。
なかなか速いのだが、同じ剣士として水樹には数段劣る。
それでも、戦闘経験はそれなりにあるのだろうと推測できるのだが、魔法少女の衣装のせいで変態が荒ぶっているようにしか見えないので、やっぱり気持ちが悪い。
黄金の魔法少女の衣装が灯りを反射させ、キラキラ輝いているのがレロード伯爵の今の姿の変態性を引きあげていた。
サムは、あまり近づいてほしくなかったので、軽く手を叩く。
――ぱんっ。
軽い音とともに、サムたちとレロード伯爵の間に障壁が生まれ、剣を握りしめ突進してきた彼は、不可視の壁に激突し、そのままひっくり返った。
その際、ちらり、と見えたのだが、レロード伯爵は女性用のピンク色のショーツを身につけていた。
「――おえっ」
サムとジュラ公爵、そして執事とメイドは揃って口を押さえ、込み上がってくる吐き気を耐えた。
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