35「長女と次女の会話です」①
ウルリーケ・ウォーカー・ファレルはスカイ王国王宮の一角にある鍛錬場にいた。
身体を鍛えたかったわけではない。
ただ静かに考える時間が欲しかっただけだ。
「………………殺すべき相手の場所がわからないというのも問題だな」
紅のグリムレンとの二度にわたる激闘、戦神ディーオドールとの戦いで魔力を大きく消耗したことにより、成長させた肉体も元の幼い肉体に戻っている。
そんなウルが鍛錬場で殺す殺さないとブツブツ言っている姿は異様だ。
ウルがわざわざ王宮の鍛錬場にいるのは、昔から自分がいると誰も近づいてこないことを知っているからだ。
「まあいいさ。どうせ、いずれ戦うことになるのは間違いない。それにしても、グリムレンの魔法は美しい。いくつか習得してみたが、私の使う魔法より強さはないが滑らかだ」
継承魔法によってグリムレンのすべてを継承したウルは、知識として彼女の魔法、そして歩んできた道を知った。
彼女の人生は過酷だった。迫害と戦い。血と炎に塗れた赤い人生だった。
対し、魔法は美し、優しく、鮮やかだ。
殺伐とした時間しか過ごせなかったグリムレンは、きっと魔法が好きなだけの心優しい女性だったのだろう。
ウルはグリムレンの人生に同情はしない。するわけがない。彼女は誇り高く生きたのだから。
そして、一度見た記憶は封じた。興味深いところは数多あったが、あまり他人の記憶を見るものではないし、見すぎると自分の記憶と混ざる危険性もある。
「――――ウルお姉様」
名を呼ばれ目を開けると、動きやすい格好をした妹リーゼロッテ・ウォーカーがいた。
「リーゼか……お前のズボン姿を見るのは懐かしいな。よく若い令嬢たちがお前の鍛錬姿を見てきゃーきゃー歓声をあげていたのを思い出す」
「……男装したわけではないのに、男装の麗人と言われていた時代が私にもありました。あれですか、私の胸部がやや平に近いだからでしょうか」
「安心しろ、リーゼ。私も平だ」
「お姉様はアンチエイジングの結果、若返っているだけであって! また成長したらばーいんとなるのでしょう!」
「だからアンチエイジングじゃねえよ! このやりとりっていつまでするの!?」
「無論、お姉様の年齢が私を上回るまでです」
「一生じゃねえかよ!」
ウルが死んだ年齢よりも若いのに、なぜそう年齢を気にするのだとため息をつく。
「それで、なんだ。鍛錬でもしにきたのか? 子供を産んだばかりであまり無理はするなよ」
「本格的な鍛錬は流石に自重します。少しずつ身体を動かしたいので、お姉様がここにいるだろうと思い歩いてお呼びに来たのです」
「変態大魔王か準魔王を使って転移でくればよかったのに」
「歩きたかったのです。サムったら、お腹が大きい頃は過保護でして。季節も冬だったので、転んだら困ると泣くんで」
「泣くのか」
「ええ、泣きました。甘えん坊さんですもの」
「そうか。うん、まあ、そういうところはあったな」
「ふふふ。ところで」
「なんだよ」
「こちらに来る前にレスリー様にお会いしたのですが」
「誰だ、その変態は」
ウルは首を傾げてみるが、変態、と言っている時点で知っているはずだ。
「お姉様のお兄様です」
それもそのはず、レスリー・ファレルはウルの転生後の兄なのだ。
兄の名を聞いたウルは悲しげな顔をして、遠くを見つめた。
「私の兄は死んだ」
「活発な少年だったレスリー様が、すっかり可愛らしい魔法少女になっておいでで」
「やーめーてー」
「エヴァンジェリン様の祝福関係なく、あんなにもお可愛らしくなるとは……すごですね、魔法少女って」
「……レスリー兄上は、その辺にいるちょっとスケベな田舎のやんちゃな子供だったのに、都会の悪い奴らに染まってしまってあんな風に」
「都会というか、スカイ王国ですね」
「んなことはわかっているよ! 魔法少女になったことで、まさかミシャパパの血が覚醒するとはさすがに思わねえだろ!」
レスリー・ファレル。
ウルの兄であり、家族思いだが異性に興味津々な思春期の快活な少年だった。
しかし、宮廷魔法少女キャサリン・ドミニク・ジョンストンによって魔法少女の素質を見出されると、その隠れていた才能は一輪の華の如く咲いた。




