51「ヘルミーナの怒りです」②
激情のランドルフは、「ふん」と鼻を鳴らした。
「勇者日比谷綾音はよく戦った方だが、嘆き始めたヘルミーナの相手はもう無理だろうな。今はまだ余裕があるが、少しずつ、少しずつ、苦しくなるだろう」
「おい、こら! 劇場で踊るランドルフ!」
「激情のランドルフ、だ。どうした、サミュエル・シャイト?」
腕を組み、余裕な顔をして綾音とヘルミーナの戦いを見守っているランドルフに、サムが問いかける。
「あの人、嘆いている? 俺は、憎しみ包まれている気がするんだけど! 嘆きよりも、憎悪なんだけど!?」
「何を言っている、サミュエル・シャイト? 彼女は胸が痛くなるほど嘆いてるではないか。嘆けば嘆くほど強くなる。それが嘆きのヘルミーナ。――そんな彼女が愛おしい」
「……なんかキモい! 友也のラッキースケベくらい気持ち悪い!」
「意義あり! 僕のラッキースケベよりももっともっと気持ち悪いと思います!」
友也も会話に割って入ってきた。
ランドルフはサムと友也に鬱陶しそうな顔をした。
「戦いを黙ってみていろ。私は愛するヘルミーナを、お前もお前の愛する女の戦いを見届けろ。それが――愛だ」
「よくわからないけど、わかった! でも、どうせ勝つのは綾音さんだし!」
「何を言う! ヘルミーナだ!」
「この野郎」
「貴様ぁ」
「どうして急に子供みたいな口喧嘩始めるんですか?」
「こいつが!」
「貴様が!」
「どっちもどっちですね。さあさあ、戦いを見守るんでしょう。ほら、睨み合ってないであっちを向く」
友也が呆れた声を出すと、サムとランドルフは渋々視線を外し、綾音とヘルミーナの戦いを見守った。
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「許さない、許さなぃ! お前、お前は!」
「腕潰されたのに気づきもしないのね」
綾音はヘルミーナの腕を離し、腹部に蹴りを入れた。
口から泡だった唾を垂らしながら綾音を瞬きもせずに睨みつけるだけのヘルミーナは蹴られたことに気づかず、吹き飛んで転がる。
「だんだん怖くなってきたわね。夜中にトイレに行けなくなる前に、終わらせましょう」
「うるさい、うるさい、うるさいっ! 子供を捨てた女が! 母親失格の女が、私に偉そうなことを」
「うっさいわねぇ。あんただけって同類じゃない」
「―――――――は?」
ゆらりと立ち上がったヘルミーナの顔が勢いよく上がり、綾音を見た。
感情のこもらない顔をしながら、目だけが怒りに満ちている。
綾音の一言次第では、また何も考えずに襲いかかってくるだろう。
「私が、なに?」
「親が子を捨てたとかなんだとか言うけど、あんたも同じだって言ってんの!」
「意味が、わからない」
「あのねぇ、あんたさっき、自慢の子供たちって紹介した子たちがいたでしょう? 使い捨てにしておいて、私だけ責めるなんてちゃんちゃらおかしいのよ! あんただって、子供を使い潰したじゃない! 命を奪っておいて、自覚もないなんて、私以上のクズよ!」




