36「マニオン側の事情です」③
「さすが兄さんだね。誇張でも、口先だけの強がりじゃない。言葉から強い意志を感じ取れるよ」
「マニオンには負けるさ」
サムはケーキを口に運ぶ。
クリームの甘い香りと味が口の中に広がっていく。
ふう、と思わず吐息が漏れた。
難しい話をしていると糖分が欲しくなるが、それを抜きにしても美味しい。
「……実を言うと、せっかく王都に来て兄さんに会えたなら聞きたいことがあったんだ」
「うん?」
「――共闘は可能かな?」
「――っ」
正直、驚いた。
可能性として一度として考えたことがないと言ったら嘘になる。
マニオン・ラインバッハは強い。
使徒を超えて天使となったこともあるが、長い時間努力し続けた強さがあった。
一度手を合わせれば、彼の強さが自力で手に入れた強さであることくらいわかる。
いずれ死闘を繰り広げる日を楽しみにもしている。
だが、その前に、共闘を持ちかけてくれたことは意外だった。
マニオンが仕える愛情と戦いの女神ヴァルレインとサミュエル・シャイトたちは相容れることはない。
ヴァルレインが世界の意思と女神エヴァンジェリンを排除してこの世界の神になろうというのなら、サムたちは戦うだけだ。
何よりも、世界の楔はクライド・アイル・スカイ国王陛下だ。
スカイ王国を象徴する王である以上に、サムにとっては伯父であり義父でもある。
守らないという選択肢はないのだ。
つまり、絶対的にマニオンとサムは敵なのだ。
「一時的に、だよ。もちろん、神々がお行儀よく楔を見つけて破壊をするのであれば僕は何もしない。兄さんたちの力で倒すしかない。だけど、この世界の民を一人でも傷つけるのであれば、僕は神々を殺すと決めているんだ」
「そして、マニオンが楔を破壊する、と」
「そうなるね。僕としても、兄さんたちと敵対することは望んでいないよ。最初は戦って倒すことを目標にしていたけど、こうやって話をして、もっとこんな時間が続けば良いと思っているんだ」
「――マニオン」
弟の言葉が本心だとわかった。
サムもマニオンと同じく、戦いを楽しみにしている一方で、こうやって仲の良い兄弟として関係を続けていくことができれば良いと思ってもいた。
矛盾しているのはわかっている。
戦えば、どちらかが死ぬ。そんな戦いを求めていながら、もう一方でかつてできなかった兄弟としての時間を取り戻したいとも思っていた。
「ごめんね、兄さん。余計なことを言ってしまったよ」
「いや、いいんだ。俺も同じことを思っているよ」
「ありがとう。でも期間限定の共闘を申し込みたいというのは本気なんだ。限定的で都合のいいことだと思っているけど、僕には仲間がいない」
共闘の理由がわかった。
いくらマニオンが強くとも、数には勝てない。
百や二百の神が来るとは思わないが、神が複数人くるだけで大きな問題がさらに大きくなる。戦力的な意味でも同じだ。
「何も手を取り合って一緒に戦いたいなんて都合のいいことは言わないよ。その代わりに、敵をそれぞれ分けて戦いたいんだ」
「少なくとも、神をひとり相手をしてくれるってことか」
「もちろん。可能であれば、ふたりでも、三人でも。ただ、同時に戦うことは難しいんだ。順番に戦いたい」
「それは同感だ」
クライドたちに相談すべきことなのかもしれないが、サムはこことで返事をすることを決めた。




