16「民もお怒りです」
最後には殴り合いとなり、ウルによって全員が叩きのめされたことで会議は終了となった。
ヒールを施してもらい元気になった貴族から帰路について行ったのだが、陛下が処置されたのは最後だった。
「恥ずかしいところを見せてしまったのであるな」
「……お気になさらずに。陛下たちはいつも通りでしたので問題ありません」
クライドの執務室に、サムたちは集まっていた。
と言っても、ジョナサン、ローガン、デライト、友也、ゾーイ、カリアン、ギュンターといったいつもの面々である。
「では、改めて世界の意思殿のお姿を拝見した以上、我々のやる気もビンビンマックスであるゆえ、戦神ディーオドールも愛情と闘いの女神ヴァルレイも怖くはない」
貴族と殴り合ってもまだクライドの興奮は冷めていないようだった。
「ただ、実際問題として――我々が相手になるかどうか、という問題もある。正直なことを言うと、サムの足を引っ張らないか心配ではある」
ローガン・イグナーツ公爵の懸念も最もだった。
貴族たちが神々に臆することなく戦おうとしてくれていることはサムとしてもありがたく思っているが、それと実際に戦えるかどうかはまた違う問題だ。
神々の数も戦力も不明だ。
漠然と強いと言うことだけがわかっている。
その状況下で、被害を大きくすることはサムは望んでいない。
「……戦う者は選ぶべきです。騎士、兵士の皆さんには、国を守ってもらいたいと考えています。でも、それ以上に、いつも通りの日々を送ってほしいと思うんですよね」
「……ふむ。サムよ、続けるのである」
「はい。敵は神々ですし、そのあとにももっと大きな力持つ神も待っているわけなんですけど、俺は負けるつもりはありません。だから、いつも通りの生活をそのまま送ってほしいって考えています」
神々と戦わなければならい。しかし、民を不用意に怯えさせてしまうこともよくない。
もちろん、危険が迫っていることを教えないということも、危うい。
どちらがいいのか悩ましいことだった。
「……すまぬができぬのである」
「陛下?」
「すでに回覧板を回してしまったのである」
「そんな!?」
「愛の女神エヴァンジェリン様の座を奪おうとする傲慢な神々と戦うと――」
「あー、なんだ、サム。補足しておくと、一週間に一回発行しているスカイ王国便りでも愛の女神エヴァンジェリン様のために戦うことをすでに書いてあった。受け取った時に、お茶を吹き出してしまったよ」
クライドだけではなく、ジョナサンまでもがそんなことを言い出した。
「スカイ王国便りなんてあるんですね……初めて知りました」
「サム、サム! 回覧板にも突っ込みましょうよ!」
「ごめん、友也。そこは大した問題じゃない。スカイ王国だ、回覧板くらいあるさ」
「ないでしょう!? いや、あるんですけど! いろいろおかしくありませんか!?」
「スカイ王国がおかしくなかったことなんて一度もないよ」
「そりゃそうなんでしょうけど!?」
まさかすでに民に神々の脅威が通達されているとは思わなかった。
「えっと、みんなの反応は?」
「偉大なる愛の女神エヴァンジェリン様を脅かすような輩はぬっ殺せ、と民が静かに怒っているのである」
「……さすがエヴァンジェリンさん、マジ女神!」
エヴァンジェリンの民からの愛されように、サムも苦笑するしかなかった。




