11「マニオンとリーディル子爵です」④
リーディル子爵は自然と立ち上がっていた。
まっすぐにマニオンを見つめ、近づいていく。
そんな子爵に、マニオンはその場で膝をつき謝罪した。
「かつての蛮行を心より謝罪します。謝って許されることではないと承知していますが、申し訳ございませんでした」
「……立ちなさい、モニオン殿、いえ、マニオン・ラインバッハ殿」
「しかし」
「どうか、お立ちなさい。私は、今日、君に謝罪してほしくて尋ねてきたわけではない。立ちなさい」
リーディル子爵の声は、とても優しかった。
マニオンは恨みの言葉や罵声を浴びることを覚悟してこの場に訪れていただけに、顔にも動きにも出さないが驚いていた。
子爵の手が伸び、震えるマニオンの肩にそっと乗る。
「お立ちなさい、マニオン殿。君と話をしたい。目を合わせて話をしたい」
「――はい」
覚悟を決めて立ち上がったマニオンの手を、リーディル子爵は包み込むように握りしめた。
「マニオン殿、冒険者としての君の活躍と貢献、そして慈悲に心から感謝を伝えたい。ありがとう。我が領地は、君のおかげで救われている」
「しかし、僕は!」
顔を上げたマニオンを見るリーディルの瞳は優しかった。
「わかっている。君がマニオン・ラインバッハであるのはわかっている。お父上の若い頃にお顔がよく似ている。なぜ君が生き返っているのか、なぜそれほど強く成長しているのか疑問はあるが尋ねない。だが、感謝の言葉だけは伝えさせてほしい」
「――どうして」
「君が償おうとしていることがよくわかる。人間は生きていれば失敗してしまう。時には君のように取り返しのつかない失敗もあるだろう。私は、領主として君を赦すとは言えない。口が裂けても言うことはできない」
「……はい」
「それでも、感謝を伝えたい。心からの感謝を伝えなければいけない」
リーディル子爵の手に力が入る。
「君には君の何らかの理由があるのだろう。多くを語れないこともなんとなくわかる。だが、それと感謝の気持ちは別だ」
「……リーディル子爵」
「マニオン殿のおかげで毎年苦しんでいたモンスターから領地が守られた。ありがたいことに死者が出なかった。君が見返りを求めず戦い続けてくれたおかげで、領地に余裕ができた。商人が行き交い、金が回り、人が集まってきた。君の寄付のおかげで子供たちに笑顔が増えた、民に活力が出てきた。私も、君のおかげで民のために多くのことができる。――心から感謝している。どうもありがとう。ありがとう、マニオン・ラインバッハ殿」
マニオンの瞳から涙が溢れた。
罪を赦されたわけではない。なかったことにできるわけではない。
それでも、それでも、少しだけ、自分のことを認められる気がした。




