エピローグ2「世界の意思とまた会いました」③
世界の意思の言いたいことがまったくわからないわけではない。
サムだって、被害が少なくなるのであればそちらを選択すべきだと思う。
――しかし、そもそもの話として、前提がおかしい。
愛情と戦いの女神ヴァルレインは、この世界を欲しいと言った。
それはあまりにも身勝手だ。
この世界に住みたいのであれば、わかる。一緒に住もう。
共に手を取り合えるのであれば歓迎しよう。
だが、自分が一番がいいと言ってすでにいる女神エヴァンジェリンをどうにかしようとするのはおかしい。
世界の意思に拒まれているからと封じようとするもおかしい。
――ゆえにサミュエル・シャイトは愛情と戦いの女神ヴァルレインを信用しない。
彼女が本当にこの世界に害を与えないという保証もない以上、戦うしかないのだ。
向こうも戦うつもりなのだから、戦いは止まらない。
「我ながら愚かだと思うけど、もう戦いは始まったよ、世界さん」
「そう、だな」
「どちらにせよ、女神ヴァルレインのことを抜きにしても、戦神は放っておいてくれない。戦神の手下どもがくるのなら、戦いは否応なく始まるんだ。戦うしかないよ」
サミュエル・シャイトは自身が戦闘狂であることを自覚している。
強い相手と戦うと高揚するし、どれだけ鍛えた自分の力が通用するのかわくわくもする。
誰かを傷つけるのではなく、お互いを高め合う戦いを好んでいるのだ。
ゆえに、このような神の勝手に振り回される戦いなど好まない。
「俺は戦うよ、世界さん。世界さんのことも、エヴァンジェリンさんのことも、この世界を守るよ」
「そうか。……ならば、サミュエル・シャイト」
「――はい」
「世界の意思として、頼む。奴らを止めてくれ」
「もちろん!」
世界の意思の訴えに、サムは親指を立てた。
■
戦うことが決まったので、世界の意思から話を聞くこととなった。
その内容は、世界の楔に関してだ。
「――世界の楔、または世界の柱、呼び方はいくつもあり、なんでもいい。要は、この世界を外部から守るため必要なものだ」
「うん」
「世界の楔は、物であったり、土地であったり、人であったりもする」
「そうなの?」
「私は、楔に相応しい存在が生まれると、世界の楔を託している」
「定期的に変えているってことかな?」
「そうだ」
(……金庫の隠し場所を定期的に変えているようなものか)
適切かどうかわからないが、サムはそう考えた。
同じものが常に楔として存在すれば、リスクも生まれるだろう。
定期的に変更していることは良い判断だと思う。
「えっと、それで、俺にその楔を教えてくれるってことで良い、よね?」
「無論。私はサミュエル・シャイトを信頼しているゆえに」
「ありがとう」
「何よりも、サムの近くに楔はひとつある」
「……そうなの?」
「楔の中で最も重要な楔だ」
「へぇ」
正直、驚いた。
世界の楔など知り得るはずがなかったのだが、実際にその存在を知ると身近にあることをただ驚くことしかできない。
同時に興味が湧く。
「俺の近くにある楔って?」
「――――クライド・アイル・スカイだ」
「…………今、なんて?」
「クライド・アイル・スカイだ」
「…………」
「クライド・アイル・スカイだ」
「…………」
「クライド・アイル・スカイが世界の楔のひとつだ」
「…………もうびっくりしすぎて叫ぶことも突っ込むこともできない」




