エピローグ「神界の動きです」④
「――待て」
気づけばヴァルレインの口から勝手に言葉が出ていた。
「楔はどうする?」
「ですから、我々が」
「違う、そうではない。お前たちは神だぞ!」
世界を守る楔によって、神々の干渉は最低限に留められている。
無理をして地上に降りようとすれば、それ相応のリスクを負うことになるのだ。
ゆえにヴァルレインはマニオン・ラインバッハを使徒にしたのだ。
「ご心配なく。私は戦神ディーオドール様のためならばなんでもしましょう。たとえ、神としての力を失おうと、地上の人間どもを殺すことくらい問題ありません」
殺戮の神ユージーンの言葉は間違っていない。
神としての力の大半を失おうと、神は神だ。
サミュエル・シャイトのような規格外の一部の人間以外は、本来ならば神を相手になどできないのだ。
「……しかし」
「愛情と戦いの女神ヴァルレイン殿。あなたが気遣ってくれることに感謝しますが、私は戦神ディーオドール様の戦いの場を整えることができるだけで嬉しいのです。あの方が、長い時間私たちに頼ってくださいませんでした。初めて、あの方が、我らの力を頼ってくださったのです。その結果、惨めに大地に堕ちようと、無惨に死のうと、後悔など一切ありません」
ヴァルレインには、ユージーンの気持ちはまるで理解できなかった。
同時に、あの戦神ディーオドールが、誰かを頼るだろうかとも思う。
むしろ、力を失おうと気にせず嬉々として地上に我先にと出向くはずだ。そもそも、今も我慢できていることが奇跡のように思えた。
「マニオン・ラインバッハ殿にお伝えください。我々の邪魔をした場合は、容赦無く殺します。いくら地上に無理矢理降りことで弱体化したとしても、使徒程度相手ではない。我々が仕事をするまで、黙って見ていると良い――そうお伝えください」
「……その驕りが死を招かぬと良いな」
「驕りではありません。我々が強者であることは事実なのです。――では、お伝えしました。楔は我々が破壊しましょう。その後、戦神ディーオドール様の前座として戦いください」
「…………。さっさと消えろ」
ヴァルレインは、ユージーンの無礼な態度に怒りを覚えたが、飲み込んだ。
これから世界に挑む戦士を感情に任せて殺すことは無粋である。
「ご不快でしたら申し訳ない。私は戦神ディーオドール様以外へ忠誠もなにもございませんので。では、失礼します」
殺戮の神ユージーンは、ゆるりと姿を消した。
「かつて人の身であったはずが、なぜ人を舐めるのだろうな。いや、それは私も同じか」
ヴァルレインはゆっくりベッドに横たわった。
「戦士の邪魔をすることは私の美学に反する。ならば、お前たちが楔をどうするのか楽しみに見ていよう」
使徒にして天使であるマニオンに、殺戮の神ユージーンが他の神々と共に地上に向かうことを念話で伝え、再びヴァルレインは目を閉じるのだった。




