エピローグ「神界の動きです」③
「……淑女の部屋の前でうろちょろしているのは感心しないな。殺戮の神ユージーンよ」
「これは手厳しい。ですが、ご安心を。私はあなたのような傲慢な女性には微塵も興味がございません。むしろ、気高く誇り高い戦神ディーオドール様のような方に愛しさを覚えます」
白い鎧を身につけた二十歳ほどの男だった。
白髪を伸ばした、女にも見える整った容姿をした青年だ。
「その愛も一方通行なのにご苦労なことだ」
「ふふふ、愛に見返りは求めません」
「それで、貴様は私の前に何をしにきた?」
「戦神ディーオドール様からのご提案を」
「なぜ本人が来ない?」
「戦神ディーオドール様は現在戦いを前に体調を整えております。よく食べ、よく眠り、鍛錬をする。久々の戦いに喜んでおいでなのです。どうかご容赦を」
「ふん、いいだろう。それで、提案とはなんだ?」
ヴァルレインは殺戮の神ユージーンを嫌っている。
その理由は、かつて戦神であったユージーンが、ディーオドールに敗北し戦神としての神格を奪われながら、復讐するわけでもなく戦神ディーオドールを崇めているからだ。
新たな神格を得るために、とある神を殺し、その神の世界で殺戮を繰り広げた。
とある神、はヴァルレインの良き話し相手だった。
本来ならば、ユージーンを八つ裂きにしているところだが、他ならぬ管理神に「ユージーンを殺してはいけません」と釘を刺されたので我慢しているが、隙あれば殺したい相手だった。
「先陣は、戦神ディーオドール様の眷属にお任せして欲しいとのことです」
「――ほう。我が眷属マニオン・ラインバッハでは不満か?」
「いいえ、戦神様は人の身ながら短期間で弱者から強者と育ったマニオン殿を大変評価しております。それこそ、私が嫉妬するほどに」
「では、なぜだ?」
「数の問題です」
「……ふむ。確かに、マニオン・ラインバッハだけでは私が地上に降り立つために世界の楔を破壊するには少々数が足りぬか」
「その通りです。サミュエル・シャイトという愚かにも戦神様を傷つけた人間がいる以上、マニオン殿は戦いに専念するしかありません。その間に、楔を破壊する者が必要です」
「なるほど、一理ある」
心情的にマニオンにはサミュエル・シャイトと存分に戦って勝利してほしい。
だが、それではヴァルレインが神として地上に降りることはできなくなる。
世界に無理やり干渉して降りることもできるが、それでは神としての力が半減した状態での権限となる。
たとえ半減しようと神の中でも上位の力を持っていることは間違いないが、何かと未知数の世界だ。できれば弱体化は避けたい。
「それで、戦神はどれだけの使徒を作った?」
「いいえ、誰も」
「…………なんだと?」
「残念ながら、戦神ディーオドール様はあの世界の人間をお気に召しませんでした。カリウス・ラインバッハを非常に気に入っていましたが、断られてしまいましたので、仕方がないので戦神ディーオドールにお仕えする我々が地上に降りましょう」




