エピローグ「神界の動きです」②
きっと、他の神々はサミュエル・シャイトを「たかが人間」と軽視するだろう。
だがヴァルレインはそうは思わない。
不完全ながら無理やり地上に降臨した戦神ディーオドールを倒したのだ。
まず、人間では無理だ。偉業である。
笑えることに、まだサムは自分の本当の強さと存在理由に気づいていない。
鋼の一族、鋼の力?
そんなものは彼の力の一部でしかない。
――サミュエル・シャイトはまだ自分の力を知らないのだ。
だからこそ、早く対処したい。
眷属にしたマニオン・ラインバッハとの戦いを途中で止めたのも、マニオンを案じたこともあるが、サムが能力に目覚めるのを阻止したのだ。
――サミュエル・シャイトは強者と戦えば戦うだけ、順応し、強くなる。
伸び代が大きいため、自分の限界を平然と超えてくるのだ。
人から吸血鬼に、魔王になった。
しかし、その力を捧げて人間に戻った。
彼が多くの経験をして強くなったように思えるが、そんなもの大したことではない。
彼の力の一部の中で、力が行ったり来たりしただけの話だ。
ヴァルレインにとって、強さとは生まれ持った力と才能。そして努力だ。
力に胡坐をかく者は、血の滲むような努力をした者にあっさり殺される。
それが戦いだ。
百の力を、百使うことができる者こそ勝者であるのだ。
そこに、想いは関係ない。
だが、時には「想い」によって強くなる人間がいる。
神にはない「想いの力」が人間には間違いなくあるのだ。
サミュエル・シャイトにもある。
「思いの力」と生まれ持った力、そして努力。
――ゆえに恐ろしい。
人の身でありながら神に匹敵する力をいつ発揮するのか、気が気ではない。
仲間であれば、頼りになっただろう。
我が子のように慈しみ、大事に育てたはずだ。
しかし、残念なことに、彼はヴァルレインを受け入れなかった。
いや、受け入れようとはしてくれたが、唯一絶対の神としては受け入れてくれなかった。
この辺りは、ヴァルレインの方がわがままであることは承知している。
だが、それが神だ。
傲慢でいいのだ。
ヴァルレインは傲慢に生まれ、傲慢に育ち、傲慢に戦い、傲慢に死んだ。
それがヴァルレインなのだ。
今更変えられない。
「世界の意思も我々と同じ神だ。ゆえに、いらぬ。だが、殺してしまうと世界が脆くなるので、封じるだけにしよう。そなたの代わりに私が世界で唯一の神となれば、世界限定で力を増す。戦神ディーオドールも余裕を持って倒すことができる」
ヴァルレインは現状でも戦神ディーオドールと戦うことができる。
だが、同格ゆえ、勝敗はわからない。
どちらが勝ってもおかしくないのだ。
「私は、これでも平和主義だ。世界の意思が私を受け入れ、エヴァンジェリン・アラヒーが私に神の座を譲れば誰も傷つくことなく、幸せだったのに。残念でならない」
ヴァルレインの瞳から涙が溢れた。
「無用な殺生は好まないが、巡り合わせがわるかった。本当に、残念だ」
彼女の中ではみんなで笑い合う世界もあったと考えられている。
しかし、女神エヴァンジェリンを排除する以上、残念だが、戦うしかない。
ヴァルレインが指で涙を拭った。
「……誰だ?」
空間の外へ声をかける。
誰もいなく、近づいてもいないが、気配があった。
誰かがヴァルレインと接触したいと意思を伝えてきているのがわかった。
長い睡眠のため、空間を閉ざしていたヴァルレインが尋ねたことで「その者」が空間に招かれた。
「――大変お久しぶりでございます、愛情と戦いの女神ヴァルレイン様」
恭しく礼をした姿で入ってきたのは、戦神ディーオドールに仕える神だった。
物語は少しずつ動いていきます。




