100「祖母と祖父と魔王とサムです」②
サミュエル・シャイトは十五歳にして数々の戦いを潜り抜けてきた強者だ。
最強と呼んでも過言ではない師匠に育てられ、魔王を倒し、魔王となるなど、戦いに戦いを繰り広げてきた。
そんなサムが、逃げ出したい状況が今だった。
ひとつのテーブルには、ラッキースケベ大魔王と名高い魔王遠藤友也と、ばぶばぶ王こと祖父のロバート・アイル・スカイ、そして祖母ヘイゼル・アイル・スカイがいる。
魔王遠藤友也はラッキースケベ大魔王の名にふさわしくラッキースケベの申し子だ。
魔王としてかなり強いのだが、ラッキースケベしか印象に残らないのが不思議だ。
また、希少な転移を使える便利な人物でもあるのだが、やっぱりラッキースケベしか印象に残らない。
実を言うと、サムと友也の前世は友人であったという事実が最近わかったのだが、やはりラッキースケベしか印象に残らなかった。
祖父ロバート・アイル・スカイはひとことで言えばばぶばぶだ。
かつては氷の王と呼ばれていたが、ばぶばぶだ。
本人もばぶばぶをこよなく愛し、ばぶばぶするために初老のはずが女神エヴァンジェリン・アラヒーの祝福によって赤ん坊の姿になっている徹底ぶりだ。
しかも、孫ほど歳の離れたメイドとの間に娘をひとり設けており、一緒にばぶばぶしているのだ。
もうひとりの祖父カリアン・ショーンがロマンスグレーな人物に対し、あまりにもロバートは個性的だった。
そして、祖母ヘイゼル・アイル・スカイだ。
スカイ王国では珍しく「常識人」である。さぞ苦労してきただろうと思う。
現国王クライド・アイル・スカイと、サムの父であるロイグ・アイル・スカイの母親である。
最近まで、国を出奔して亡くなったロイグの死を引きずっていたのだが、サムとの出会いと、ロイグの復活をきっかけに表舞台に立つことこそないが、精力的に貴族の子女に教育をしていた。
先ほど聞いたばかりだが、元勇者にして元女神である日比谷綾音の直径の子孫らしく、綾音の子供からの手紙を継承魔法で託したそうだ。
「サミュエル」
「はい!」
「改めて、子供が無事に産まれたこと、おめでとうございます」
「どうもありがとうございます。おばあちゃんにはたくさんお世話になって、感謝してもしきれません」
「いいのです。私にとって大事なひ孫たちですもの」
「……あの、ボクちんは、まだその大事なひ孫に会っていないのでちゅが」
「ロバート、あなたの発言はあとで聞きます。今は、私がサミュエルと話しているでしょう?」
「ご、ごめんないちゃいでちゅ!」
視線を向けることなく、ぴしゃり、と言ったヘイゼルにロバートは震えていた。
もしかしたら、漏らしているのかもしれない。
「先ほども言いましたが、綾音殿に関して託すものを託しました。あとは婚約者であるあなたが支えて差し上げなさい」
「――はい。もちろんです」
「良い返事です。どこかの男と違って、女性との縁は多くとも不義理ないことはしないとしんじていますよ」
「は、はい!」
気のせいか、胃がキリキリする。
いや、気のせいではない。
胃が痛い。
視界の端では、友也も張り詰めた空気の中、お腹を押さえている。
「あの、実は、今、竜のお友達がきていまして。凍えていたのでお風呂に入ってもらっているんですけど、そろそろ出るかなぁって」
玉兎は長湯すると言っていた。
残念ながら、しばらく戻ってこないだろう。
玉兎にとって残念なのは、現在、浴室を占拠していた子竜三姉妹は赤ちゃんたちに付きっきりであり浴室にはいないことだろう。
「そこまで長く話をするつもりはありません。では、簡潔に。――あなたと綾音殿の子供をグレン侯爵家の子と結婚させたいのですが、いかがでしょうか?」
「――き、気が早いよ!? 気が早いよおばあちゃん!? まだ綾音さんとの間に赤ちゃんいないんですけど!?」
唐突すぎるお伺いに、さすがにびっくりした。




