81「ヘイゼルの過去と継承魔法です」①
ヘイゼル・アイル・スカイは、王妃になる前はグレン侯爵家の令嬢だった。
生まれた時からロバート・アイル・スカイに嫁ぐことが決まっていた、許婚だ。
未来の王妃として、スカイ王国のために、ロバートを支えるために物心ついた頃から多くを学び、誰もが王妃に相応しいと声を揃えるようになった。
一方で、ヘイゼルはなんでもそつなくこなす才女だった。
勉強も、マナーも、魔法も、特別難しいと思ったことはない。
努力せずとも「それなりに」できてしまうことが、ヘイゼルの悩みだった。
しかし、それだけ。
努力しなくていいという悩みも、さほど大きなものではない。
ただ、退屈というだけだった。
だからといって、家を飛び出すような真似はできない。
自分がそんなことをすれば、家に家族に迷惑がかかると理解していた。
そもそも、家を飛び出してやりたいこともない。
ヘイゼルは、望まれるまま生きていたのだ。
――そう。ロバート・アイル・スカイの本性を知るまで。
幼少期は聡明ながらも冷たい子だと思っていたが、成人を迎え本格的に許嫁から婚約に話が動いた頃、ヘイゼルはロバートの秘密をしった。
彼曰く、妻となる女性に嘘偽りなく誠実でいたい、そうだが、死ぬまで隠していて欲しかったような本性というか、性癖だった。
スカイ王国には「癖」のある人物が多い。
目立ってはいないが、こっそり隠れている。
ヘイゼルの父も、なかなか「癖」のある人物だが、尊敬はしていた。
王族貴族になると気苦労が多いので、発散が必要なのだろうということで思考が落ち着いた。
ヘイゼルはロバートの趣味趣向を調査した。
本人からも念入りに聞き取りをした。
結論として、「まあ、仕方がない」となった。
ロバートは母に愛されない子だった。
王妃はロバートの病弱な弟を溺愛しており、彼に「母」としてまともに接したことはない。
挙げ句の果てには、健康なロバートを排除して弟を王にしようと企んでいるのだ。
兄弟の仲が良いことも、不幸だったのかもしれない。
兄は弟を可愛がり、弟は兄を慕っている。
しかし、ふたりが一緒にいることを母はひどく嫌った。
そんな日々を何年も過ごしたロバートが「母性」を求めることは仕方がないことだった。
ロバートにしても、自らの歪みを暴露した結果、婚約破棄されることも覚悟していたらしい。
だが、ヘイゼルは受け入れた。
むしろ、言いたくないことを言ったことを誠実であると受け取った。
無論、知りたくなかったという気持ちもあったが。
正式に婚約者となったヘイゼルに、彼女の母は「今のあなたであれば託すことができる」と言い、代々グレン侯爵家の女性に受け継がれてきた「アイテムボックス」を継承魔法を使用し、受け継がせた。
そのアイテムボックスの最初の持ち主は、ルーシェル・カイト。
継承魔法を創り出し、未来の母に「想い」を残した日比谷綾音の息子だった。




