80「綾音っちとヘイゼルです」①
出産の助けに来てからヘイゼル・アイル・スカイは滞在している。
産後、何かと大変だろうということで孫娘のフランと、孫娘同様に幼い頃から知っているリーゼたちの面倒をみてくれているのだ。
おかげで、普段は緩い雰囲気のウォーカー伯爵家はぴりっとした緊張感があった。
だが、それも一日くらい。
すぐにいつもの雰囲気に戻っている。
ヘイゼルとしても、ウォーカー伯爵家の空気にどうこう言うつもりはなく、テキパキとメイドたちに指示しながら、自分も動いていた。
「お忙しいのに申し訳ありません」
「いえ、そんなことはないんだけど」
ヘイゼルのために用意された客室の中。
綾音とヘイゼルはテーブルを挟んで椅子に座り、お茶を飲みながら話をしていた。
「隠さずとも、あなたがメイドたちに混ざって掃除や洗濯をしていることは存じ上げています」
「あー。それは、まあ、神殿でもやっているし。今はちょっとこっちに出向している感じだから」
サムたちは、綾音のことを受け入れてくれた。
そのお礼に、何かをしたいと思うのは当たり前のことだ。
だが、貴族である彼女たちには世話をしてくれる者がいる。
ならば、と綾音もメイドたちに混ざって頑張って仕事をしていたのだ。
「みんな気づいていますよ。言わない方がよいかもしれませんが、あなたの頑張りが伝わっていることは伝えておくべきかと思いました」
「あはは、お気遣いに感謝しまーす」
「無論、あなたが生まれた子供たちから一定の距離をとって見守っていることも」
「――っ、えっと」
ヘイゼルの指摘通り、綾音は子供たちに会いに行くことはあっても、抱っこはしない。
頬を突いたり、頭を撫でたりするし、声もかけることはする。
しかし、抱き抱えることはしない。
「……まあ、私にも思うことはあるのよ。聞いているかもしれないけど、私にも子供がいてね。ただ、私は当時、自棄になっていたし、望んで結婚していたわけじゃないから放置よ放置。我ながら最悪な親よね」
「……いえ、初耳です」
「あら?」
綾音は顔色を変えた。
サムの祖母と一対一で話すことに緊張してしまったせいで、彼女に隠していた元勇者、元女神であることを隠していたことを忘れてしまっていたのだ。
ついうっかり口を滑らせてしまったことにようやく気づいた。
「あ、やべっ」
「ふふふ、気にしていませんよ。あなたの過去が元勇者でも元女神でも気にしません」
「すでに知ってるぅううううううううううううううう!」
「王宮での話は私の耳に入ってきますからね。クライドたちが綾音っちやべーと言っていることも、まあ、耳に届くのです」
「ビンビン陛下が私をどんな風に言っているのかきになるけど、まあいいわ。黙っていたことはごめんなさい。私は、かつてこの世界に勇者として召喚され、聖女として召喚された妹と殺し合って、女神になった末に封印された馬鹿な女よ」




