47「ヴァルレインとマニオンの反省会です」②
「サミュエル・シャイトは面白い。いや、あの世界にいる者たちは、誰も彼もが面白い」
ティーカップに口をつけ、足を組んで優雅な姿をしながら、ヴァルレインは微笑む。
「私は、生まれた時から、求められてきた」
「……求められてきた、とはどういうことですか?」
「少し話したと思うが、私は生まれながらにして神だった。厳密に言えば、神として力を持った人間だ。本当の意味で神になってから知ったが、さほど珍しいことではないようだがな」
マニオンにすれば、神としての力を持って生まれた時点で珍しいどころの話ではないと思うのだが、幾つもある世界という規模で言うならば、珍しくないのかもしれない。
「この世界は、かつて戦いに溢れていた。憎しみと怨嗟ばかりだった。そこそこ良い家に生まれた私は、両親からそれはもう愛されていた。愛されていた、と思っていた」
悲しげに目を伏せたヴァルレインは、神ではなく、人に見えた気がする。
「両親が愛したのは、私ではなく私の力だった。戦うために英才教育を受け、十歳で戦場に放り込まれたよ。強かったのがいけなかったのだろうが、幼かった私は人を殺した悪夢に何年もうなされることとなった。それは、まあいい。私だけが通る道ではないのだから」
焼き菓子を口に入れて、咀嚼する。
満足したように、頷くと、ヴァルレインは話を続けた。
「家族のために、国のために戦うことは苦ではなかった。むしろ、誇らしかった。無論、戦いなど好きではないが、どうしてか才能があった。戦いを重ね、戦場を渡り歩き、気づけば勇者や英雄と呼ばれていたよ」
それは当然のことだと思う。
勝利をもたらす戦士に相応しい呼び名だ。
「知らぬ間に決まっていた、王子との結婚。私の意思などまったく考慮されなかった。そんなものか、と思っていたが、なぜか知らぬが、妹殿と王子が相思相愛になっていた。聞けば、戦場にいる私と蝶よ花よと育てられた妹殿では比べるまでもないと言われたが、それはこちらの台詞でもある。顔だけしか取り柄のない阿呆な王子などいらぬよ。敵国の王子は前線に自ら立ち、私に殺される最後まで国を憂いていた。あれこそ、王子だ」
マニオンは、ヴァルレインの婚約者を彼女の妹が奪ったことを初めて知った。
ただ、本人はまるでそのことを気にしていない。
「ぐだぐだと話をするつもりはないが、私は戦場に身を置き続けた。仲間もいた。それだけでよかった。しかし、それを良しとしない人間がいた。妹殿と王子殿だ」
「なぜ、でしょうか?」
「さあな。妹殿と王子殿は私が危険だと言った。戦争が終われば、今度は敵になると言った。終わりの見えない戦争の先を憂う暇があれば、さっさと戦えと思ったが、どうやら貴族の子女とはそういった囀ることが好きなようだ。それに同調する貴族、王族、そして我が両親たち。まったく、私が誰のために戦っているのだと。私は嘆き、悲しみ、見限った」
マニオンが息を呑む。
「なに、殺そうと思ったわけではない。裏切ろうと思ったわけでもない。ただ、彼らのために戦わないと決めた。自分のために戦うと決めただけだ。そして、私は王となった。数人の仲間と共に戦い続け、土地を得て、国を興し、時間をかけて支配した」
ヴァルレインにはそれだけの力があった。
「大陸を統べた。祖国は、私の力を知っていたので降伏した。なので属国として残してやった。私を散々罵った奴らが手を返してきたが、相手にしなかった。だが、家族には情が残っていた」
自分を危険視した家族には、家族の情があったのだ。
そして、それが間違いだった。
「家族は謝罪したよ。涙を流し、過ちを悔いた。私も許し、受け入れた。そして、毒を飲まされた」
「…………」
「信頼していた仲間は死んだ。のたうち回って死んだ。私は神の力を持っていたゆえに、苦しみながらも生きていた。なんとか、生きていた。そんな私を笑い、剣で首を刎ねたのが、妹殿だ」
「それは」
生前、過ちを繰り返したマニオンには、妹君を責める資格はないだろう。だが、酷い話だと思う。
「私の髪を掴んで、高々と掲げ、悪魔を殺したと高笑いした妹殿のことは鮮明に覚えているよ。結局、私は誰にも愛されていなかったのだと思い知らされた。だから、復讐した」
ヴァルレインはまっすぐにマニオンを見た。
「いまだに私がなぜそのような目に遭わなければならなかったのか、わからぬ。妹殿に聞いても言い訳ばかりでよくわからん」
マニオンの身体が緊張で強張った。
「マニオン、お前はどこか妹殿と似ていた。なので、使徒にして力を与えてみた。だが、驕らなかった。私を恐れていたせいか、妹殿たちを見て何か思うことがあったのかわからぬが、お前は過去を悔い、努力した」
ヴァルレインはすべて見ていた。
「よくよく考えれば、マニオンと妹殿は似ているが違う。お前は、母親という絶対的な存在の支配下にあった子供だった。ああいう親のもとにいては歪む。したことは罪だが、もう罰を受けた。今のお前は過去を悔いている。ならば、よしとしよう。もう自分を責めることをする必要はない。――私はお前を認めよう。よく頑張った」
マニオンの瞳から涙が流れた。
「誰も許さずとも私が許そう。罪は消えぬだろうが、この愛情と戦いの女神ヴァルレインが許そう」




