46「マニオンとヴァルレインの反省会です」①
自身の管理する世界にマニオンを連れて戻った愛情と戦いの女神ヴァルレインは、楽しそうにくすくすと笑っていた。
マニオンはなぜそうも機嫌がいいのか疑問に思ったが、問うことはしない。
いくらヴァルレインが機嫌が良くとも、なにかのきっかけで不機嫌になる姿はよく見てきた。
「――お姉様!」
「……ああ、神様」
その不機嫌になる一番の原因が、突然現れたのだ。
マニオンは神に祈ってしまう。
だが、マニオンの神はすぐそこにいるヴァルレインだった。
「これはこれは妹殿。いつもいつも飽きもせずに、ご苦労なことだ」
「数年も放置しておきながら……よくそんなことを……私たちのことなどもう飽きたと言うのなら」
ヴァルレインの妹の名前は知らない。
知る必要がないと言われたので聞くこともしない。
妹君は何度となくマニオンに名乗ろうとしたし、言葉を交わそうとしたが、拒んだ。
情で訴えようとしているのがわかったから、拒否したのだ。
「おっと、またバラバラにしてしまった。しかし、死ねないとはいえこれだけボロボロにされてもなお接触を図るとは、感心する。私の視界に入らぬよう、息を殺して隠れていることが一番頭がいいと思うのだが、どうだろうか、妹殿?」
もちろん、肉塊となった妹から返事はない。
「再生までに時間がかかる。マニオン、茶でも飲み休憩しよう」
「では、僕が支度を」
「よい。私がやる」
「はい。いつもありがとうございます」
「気にすることはない」
ヴァルレインが軽く手を振ると、虚空から椅子とテーブルが現れた。
温かいお茶の入ったティーポット、ティーカップと焼き菓子がテーブルの上に並んだ。
(――これは、酷だ)
この世界の人間は飢えている。
そんな世界で、堂々とお茶と焼き菓子を食べることが、どれほどの意味があるのか。
マニオンも生きているので飲食は必要だ。
与えられた食事をしていたが、こっそり食べていた。
食事の匂いを嗅ぎ、襲ってくる人間がいたからだ。
「さあ、飲め。戦いの後は甘味も必要だ。食事の前だが、遠慮することはない」
「ありがたく、いただきます」
「うむ」
ヴァルレインは遠慮を嫌う。
むしろ、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
そのヴァルレインの好意を素直に受け入れることを好むとマニオンは知っている。
「ついでだ、反省会をするとしよう」
「はい」
「マニオン、お前は十分すぎるほど強くなった。本当の意味で全ての力を出せば、神々に匹敵するとは言わぬが、天使程度の力はあるだろう」
「ありがとうございます」
天使は神々の使用人だ。
使徒よりも上の位である。
戦いから身の回りまでする、忙しい存在だった。
功績を遺した使徒が、神々によって天使にされるらしい。
すべてが戦いに秀でているわけではないが、強い天使はいる。
それこそ、戦いを得意としない神より強い場合もある。
そんな天使と同等の力を得たというのことは、マニオンにとっても嬉しいことだ。
マニオンは、使徒として命と力を与えられた。
だが、ここまで強くなったのは自身の努力の結果だ。
生前、努力などしたことがなかったマニオンにとって、努力し、結果がついてくることが何よりも嬉しい。
――それ以上に、「頑張ったな」と褒めてもらえるのが嬉しかった。
「しかし、サミュエル・シャイトはそれ以上だ。ただ、普通に戦えばマニオンが勝つだろう」
「え?」
「先ほどの戦いも、サミュエル・シャイトは無駄に高揚していた。あのような状態は、戦いの中でよくあることだ。力を得て、使い、学び、更に強くなる。危険だ。ゆえに、止めた。まあ、あの世界に介入するには、力をかなり消耗してしまったが」
「僕のせいで、申し訳ございません」
「何を言う。お前は私が選んだ使徒だ。大事にするのは当たり前だ」
愛情と戦いの女神ヴァルレインは怖い。
これほど優しく、慈しみのある女神なのに、この世界の人間に対しては震えるほど残酷なのだ。
ヴァルレインの二面性が、マニオンには怖くて仕方がなかった。




