40「再会です?」②
兄、と呼ばれサムは驚いた。
いつの間にか、そこに同い年ほどの少年がいた。
「――誰だ?」
すらりとしながら引き締まった体躯を持つ、茶色い髪の少年だ。
どこかで見たことがあるような既視感を覚える。
「嫌だな。まさか、僕を忘れちゃったのかな?」
「……悪いけど、知り合いにあんたみたいな人はいないかな」
「そうか。残念だよ。じゃあ、思い出してもらおうかな」
少年は、どこかいたずらをするような子供のように笑った。
「――僕は、マニオン・ラインバッハ」
「……へ?」
「サミュエル・ラインバッハ。いや、今は、サミュエル・シャイトだよね。僕はあなたの弟だよ」
――マニオン・ラインバッハの名を聞き、サムは思い出した。
サムの腹違いの弟。
実際は、血の繋がりのない、弟だ。
カリウス・ラインバッハの唯一の実子であったが、母親に甘やかされたせいで剣の才能がありながら、堕落してしまった。
さらに、魔剣に取り憑かれ、蛮行の限りを尽くし、死亡している。
「えっと、俺の知るマニオン・ラインバッハってデ……もう少しふくよかだった気がするんだけど。あと年齢も違うかな」
「気を使ってデブをふくよかと言ってくれてありがとう。でも、僕は僕だよ。愛情と戦いの女神ヴァルレイン様によって使徒に選ばれ、鍛えられた。身体は痩せ、成長し、力をつけたんだ」
「やればできる子だったんだな」
「ははは、やればできる子だったみたいだよ」
サムとマニオンが声を上げて笑った。
不思議と、サムはマニオンに対して思うことはない。
幼少期は魔法と外の世界に興味津々だった。
突っかかってくるマニオンを鬱陶しいと思ったことはあるが、どちらかといえば彼の母親の方がねちねちと嫌味を言う人だったので、嫌いだったことを思い出した。
「ていうか、兄さんなんていうから混乱するだよ。俺のこと兄って呼んだことないじゃん」
「あはは、そうだった。でも、ほら、心も身体も子供だった僕も少しは成長したんだよ」
「それで兄さんって呼ぶのか。違和感しかないなぁ」
「実は、僕もだったり」
「あはははははは」
「ははははははは」
笑う。
サムにもマニオンにも敵意がまったくない。
ふたりを見守っていた綾音たちも、マニオンの存在をどう扱えばいいのかわからないようだ。
女神の使徒でありながら、フレンドリーに会話をしているのだ。
混乱するのは仕方がないことだ。
「それで。不良を通り越して女神の使徒なんかになっちゃって。――俺に復讐でもしたいのか?」
「最初はね、力を得てぶっころしてやるーって思ったよ。頑張った原動力は復讐心だった。でもさ、僕は自分が思っていたほど兄さんのことを恨んでなんかいなかったんだよね」
「あら」
「意外でしょ?」
「とっても意外」
「僕自身もびっくりだったよ。ちゃんと頑張って、努力して、まあ、悪いこともしたけど、強くなって自分のことを冷静に見ることができたときに気づいたんだよね」
どこか、恥ずかしそうにマニオンは頬をかく。
「僕は、兄さんが羨ましかったんだって」




