38「魔法王と戦います」③
「――女神の使徒になって力を与えられたようだけど、俺には呪いに見えるよ」
血と肉の海に倒れ、身体中を赤く染めたルルカス・シューレンに、サムは憐れみを込めた声をかける。
千を超える斬撃はすべてルルカスを斬った。
斬り刻んだと言ってもいい。
本来ならば、細切れになって死んでいるはずの彼の肉体は、回復魔法によって斬られた場所から回復されていった。
そして、また斬られることを繰り返す。
地獄のような苦しみが、襲っただろう。
刹那の時間であっても、ルルカスにとっては長い時間だったはずだ。
「女神から与えられた力だけは本物のようだね。その回復力は、木蓮様の叔父上だけではなく、魔王の再生能力を遥かに上回っている。正直、厄介だと思うよ」
魔王であった時のサムならば、自分の攻撃で十回は死んでいる。
しかし、ルルカスは生きている。
これは、驚くべきことだ。
もしも、ルルカス・シューレンという男が、魔法に長けた魔法使いであり、戦士であれば心踊る戦いをしていた可能性だってある。
だが、彼は違う。
ルルカスは、魔法王を名乗るだけの、痛みに耐性のない、ただ弱者を踏み躙ることしかできない愚王だった。
「…………お……れ」
血溜まりの中にいる、ルルカスが憎しみを込めてサムを見た。
肥えていた王は、今は痩せこけた中年男性となっている。
虐げた民と同じ、枯れ木のように痩せてしまった。
サムの斬撃から命を守るため、神に与えられた力を、蓄えていた魔力をすべて消費してしまったのだ。
「私は、私は、魔法王だ!」
「それだけ叫べるのはすごいよ」
ルルカスの左腕が飛ぶ。
「ひぎぃあぁあああああああああああああああああああああああ!」
続いて、右腕を斬り飛ばした。
サムは動いてもいない。
指一本動かしてもいない。
ルルカスは、膝をつき額を地面に擦り付ける姿になっていた。
彼の意思ではない。
両腕を失い、再生もできない。
それでも、倒れたら終わりだと思ったのだろう。
もしかしたら、最後の意地だったのかもしれない。
倒れなかった。
代わりに、サムに向かい首を垂れる姿勢となってしまった。
「ここまでしても、女神は助けに来ないのか。本当に、使徒はただの使い捨てか。それとも、神によって使徒に対する想いが違うのか。少なくとも、愛情と闘いの女神ヴァルレインはあんたのことをなんとも思っていないのがよくわかった。――なら、もうあんたには用はない」
サムの声はどこまでも冷たい。
「まだ、魔法王としての矜持が少しでも残っているのなら、顔を上げろ」
冷たいながら、最後にサムは温情をかけた。
「魔法王として死にたいのなら、顔を上げろ。戦えるなら、かかってこい。腕がなくとも魔法は使える。魔力がないなら、噛みつけばいい。俺なら、そうする。それもできないのなら、睨みつけるくらいしろ」
サムの声に、ルルカスは顔を上げた。
涙を流している。
彼の瞳には、闘志などかけらもない。
「たすけ」
――魔法王ルルカス・シューレンの首が斬り飛ばされ、宙を舞った。
「最後まで、あんたは魔法使いでも、王でもなかった。残念だ」




