間話「古い知り合いと再会です」
レプシー・ダニエルズは、かつて大陸中に恐怖を轟かせた魔王だった過去を持つが、現在は愛妻家であり子煩悩なひとりの人間だ。
レプシーも最初から魔王だったわけではない。
人間として生まれ、吸血鬼になり、魔王となったという波乱万丈の人生を送っていた。
最初は家族のため、最後も家族のために戦い、死んだ。
そして、再び人として生を受けても家族のために生きている。
レプシー・ダニエルズは、家族のために生きるのだ。
「……今日はなかなか寒いね」
家族と一緒に買い物に来たレプシーだったが、さすがに女性服専門店に入ることができず近くの喫茶店で待つことにして雪の積もった道を歩いていた。
妻アイリーンと、娘のデイジー、そしてファレル家長女のエミリーの賑やかな声が店の外にも聞こえ、くすり、と笑う。
かつて人間であった頃は貧しく、魔王になってからは立場上買い物などできなかった。
長い時間を経て、当たり前の幸せを手に入れることができて、レプシーは喜んでいた。
喫茶店の中は暖をとってあるため、冷えた身体を温めてくれる。
コートを脱ぎ左手にかけると、空いている席を探す。
「――おや」
レプシーの目に、懐かしい人物が映った。
「……あら、レプシー様じゃないないですか」
「これはこれは、レプシー・ダニエルズ様。サムぼっちゃまがお世話になっております」
眼鏡をかけたメイドと上品な佇まいの老執事がレプシーに気付き、立ち上がり挨拶をする。
「久しいね、ダフネ。そして、デリック。相席してもいいかな?」
「どうぞ」
「もちろんです」
許可を得てテーブルにつく。
給餌に紅茶とクッキーを頼む。
「話には聞いていたが、サムの親代わりが君たちだったとはね。世間とは広いようで狭いようだね」
準魔王であるダフネとレプシーは付き合いこそ頻繁にあったわけではないが、お互いに顔は知っているし、何度か言葉も重ねたことはある。
「サム坊っちゃまがお世話になっているようですね」
「私の方がお世話になっているよ」
「さすが私の坊っちゃまです!」
「……人のことは言えないがダフネは随分と変わったようだね」
「坊っちゃまのおかげです」
我が子を、いや、弟を自慢するように胸を張るダフネに、レプシーの頬が緩んだ。
魔王も準魔王もサミュエル・シャイトに影響を受けていることが面白かった。
「デリックも久しいね。生きていることは知っていたが、まさかダフネと一緒に働いているとは思ってもいなかったよ」
「こっそり生きていたのですが、巡り巡った地で腰を据えようと思いましたら、ダフネと再会してしまい驚きました。とはいえ、ぼっちゃまがみなさまと出会ったことの方が驚いたかもしれませんね」
「違いない」
デリックとレプシーは苦笑する。
デリックは、数多の魔王が君臨し、戦いばかりが起きていた時代の魔王だ。
かつてのレプシーやサムのように「至った」わけではないが、準魔王を超える力を持っていた。
当時は、少し強く徒党を組んだだけで魔王を名乗る者が多かった時代だが、デリックだけが唯一の強者として君臨していたのだ。
しかし、彼は一度して魔王を名乗ったことはない。周囲が彼を魔王と認め呼んでいたのだ。
「至った」魔王たちは、大陸から戦いを減らすために争いの原因となっている魔王たちを排除することを決めた。
無論、デリックもその対象だった。
だが、デリックは敗北すると潔く負けを認めた。結果、殺さずに置かれたのだ。
その後、デリックは魔族でありながら、人の中で生活をし、各地を転々として妻と子供に出会い、サムと出会った。
「ダフネ、そしてデリック。今の君たちが幸せそうでよかったよ」
レプシーの言葉に、ダフネとデリックは笑顔で頷いた。




