56「お風呂で義父とお話しです」
「あったかいなー! しみるなー!」
「うむ! よい湯加減である!」
湯船に浸かり、ほう、と息を吐くのはサムとクライドだった。
浴室に現れたサムとクライドに、うとうとしていた子竜三姉妹は気づき、目を輝かせてもてなしてくれた。
背中を洗ってくれて、肩揉みまでしてくれた。
サムはメルシーたちを洗い返してあげて、クライドも続く。そんなクライドの目には涙が薄ら浮かんでいた。
王は孤独と聞くが、子供とこのような他愛ない時間を過ごしたことがないらしい。
王族として、何不自由ない日々を送ってきたことを不満に思うことなどないが、貴族ではない民たちが当たり前にしていることができないことを寂しく思うことはあるようだ。
「サムよ」
「はい」
「そなたはすでに辺境伯であるが、現在は宮廷魔法使い第一席の立場である」
「よくもまあ一年で一般人からここまで出世したものかと不思議ですよ」
「そなたの実力ゆえである」
故郷の男爵家を飛び出した頃、現在の想像ができただろうか。
否。
ウルと出会い、別れ。王都に訪れ、リーゼたちと出会った。
数々の敵と戦い、交流を持ち、友ができて、魔王を倒した。
魔王になったり、人間にもどったり。ウルとレプシーが復活して異世界から引っ越してきたりもした。
奥さんがいて、婚約者がいて、春には子供も生まれる。
正直、一生分のイベントを一年に満たない間に経験した気分だ。
「領地に関してはオフェーリアのおかげで回っていますし、イグナーツ公爵、ジュラ公爵も支援してくれています。宮廷魔法使いとしては、あまりお役に立てていない気がしますが」
「そのようなことはないのである。サムは十分すぎるほど、この国のために戦い傷付いた。義理の父として、叔父として、これからは静かな時間を過ごしてほしいと思っているのだが……」
「なかなかそうはいきませんよねぇ」
「そうであるな」
スノーデン王国に関しては、もうサムがどうこう言える問題で無くなっているが、戦神の存在がある。
戦神は使徒を送り込むと言った。
猶予はまだあるようだが、厳しい戦いが待っているだろう。
「戦神をぶっ殺したら、子育てを主にしてのびり暮らします」
「それがよいのであろうな。……と言いながら、このような話をするのは良くないビンビンであるのだが」
「なんですか?」
「サムを公爵にという声がある」
「いいですぅ」
「そう言うと思ったのである」
サムが王弟ロイグ・アイル・スカイの息子であることがわかったときにも、仮にも王族が宮廷魔法使いになったからと伯爵位というのはどうなのだ、と公爵の話があった。
サムは爵位など別に欲しくないので断り、突然降って湧いた王位継承権も放棄している。
「サムを一族に迎えたいという声も多くてのう。貴族たちが牽制し合っているのだよ。ならば、サムを公爵にしてしまい、手出しできなくしてしまえばいいのではないか、という提案もあるのだ」
「まさかそんな理由で公爵に……ありえないでしょう」
「資格はあるので問題はないのだが。サムが望まないというのも、わかっている」
「正直なことを言うと、領地を婚約者にほぼ丸投げで、貴族との付き合いもリーゼたちに任せてばかりです。そんな俺が公爵なんて絶対に務まりません。何度お話があっても、お断りさせていただきます」
「うむ。わかったのである」
サムはほっとした。
貴族からの縁談話は鬱陶しいが、公爵になるほうがもっと大変だ。
辺境伯でさえ持て余しているのだ。
「ところで、私のあとを継いで王になる気は」
「ありません!」




