51「扱いが困ります」①
ごとん。
バーブリン公爵の首が転がった。
首の断面から血が吹き出し、身体と地面を赤く染める。
「すみません。万が一があったらこまるので、殺しました」
「いいえ、感謝します。私では対応できなかったでしょう」
サムが謝罪するが、スレイマンは礼を言ってくれた。
つい反射的に殺してしまったのは、万が一があるというのもそうだが、最後まで悪あがきをしようとしたバーブリン公爵の言動に苛立ちを覚えた結果の「つい」であった。
サムの視界の中で、ウルが信じられないという顔をしている。
彼女の顔は「人に殺すなと言ったくせに、お前が殺すのか」と語っていた。
ウルの無言の訴えに気づかないふりをする。
「さて、どうしましょうか?」
サムが尋ねると、返事をしたのはバーザロフ公爵だ。
「サミュエル殿、ウルリーケ殿、カリアン殿、魔王様のおかげで反乱分子の主要人物は捕縛できています。この国を建て直すのであれば、殺すべきです」
「…………」
スレイマンは言葉に詰まる。
(その方が手っ取り早いし、食い扶持も減るから気持ちはわかるかな)
サムとしては、この国の貴族が死のうとどうなろうと知ったことではない。
いくら王族が死んだと誤解していたとはいえ、王を名乗り公爵家を襲ったのだ。
罪は大きい。
結果的に、王族が生きていたのだ、問題になるだろう。
主犯のバーブリン公爵はサムが殺したが、公爵の家族もいるだろうし、彼に味方した貴族たちにも家族がいる。
「どこまでやるつもりだ?」
振り絞るような声で尋ねたスレイマンに、バーザロフ公爵ははっきり告げた。
「無論。一族全てです」
「しかし、それは」
「この国を建て直すのであれば、今こそ好機!」
バーザロフの強い声にスレイマンが再び言葉を詰まらせた。
サムたちは他国の問題なので、口を挟むようなことはしない。
ただ、スレイマンは助けを求めるようにサムたちに視線を向ける。
「さ、サミュエル殿たちはどう思う?」
「……俺はスカイ王国の人間ですから、貴族の命をどうしろとは言えません。申し訳ありません」
「い、いや、そうだった。……すまない、私は情けない男だ」
サムはスレイマンにかける言葉が見つからない。
すると、友也が助け舟を出した。
「……グレゴリー殿に判断を任せてはいかがでしょうか?」
「そう、だな」
「バーザロフ公爵殿」
「……なんでしょうか」
「信頼できる兵士をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん構いませんが、なにを?」
「捕縛した者を逃して後で面倒になってもまずいので、みはりとして二十四時間体制で見張をしてほしいのです」
「……承知しました」
バーザロフ公爵としては、敵対する貴族を始末する絶好の機会だったため若干の不満が隠れているが、「否」とは言わなかった。
「サム、食料と衣類を」
「はいよ」
サムは事前にアイテムボックスに大量の食料と衣類を入れてあった。
友也曰く「投資」とのことで、彼の財布から金は出ている。
バーブリン公爵家の使っていない一室に、この屋敷に在中する予定の兵士のための食料を取り出す。
これにはバーザロフ公爵もスレイマン第一王子も目を剥いた。
「――アイテムボックス」
「まさか、そんな」
かつてウルから受け継いだサムのアイテムボックスは、持っている者は少ないレアなスキルだ。
またサムほど容量が入る者はいないだろう。
「もちろん、バーザロフ公爵家の皆さんの分も用意があります。腹が減ってはなにもできませんので、とりあえず飯にしましょう」
サムと友也の提案に、バーザロフ公爵は出された食料を見て唾を飲み込んだ。
「……ご好意をありがたくお受けします。心からの感謝を」
そして、身体を折って深々と礼をした。




