62「リーゼに報告です」
「――俺、ゾーイと結婚することにしました。彼女を正式な婚約者にします」
「あら?」
編み物をしていたリーゼの部屋に訪れたサムの第一声に、彼女は目を丸くして驚いた。
結婚することに反対などするわけがない。
リーゼにとってゾーイは友人であり家族だ。彼女のサムへの想いも十分に承知しているので、身重でなければ万歳三唱したいくらいだった。
「ウルともなあなあではなく関係を進めたいと思っていますし、婚約者となっているオフェーリアとも関係をちゃんとしたものにしたいと考えています。もちろん、ちゃんとふたりの時間を作ってしっかり気持ちを伝えます」
「とてもいいことだけど……どうしたの、急に?」
リーゼにしてみると、サムは結婚というものから逃げ回っている気がしていた。
まだ若いから遊びたいという感覚ではないことはわかっている。
サムが結婚を嫌だと本気で思っていたら、自分たちとも結婚していなかっただろう。だが、してくれた。
愛のない結婚は嫌だ、と貴族らしくないことを言うことを面白くない人間はいるだろうが、リーゼとしては賛成だ。やはり夫婦となるのなら、愛し、愛されたい。
サミュエル・シャイトは刹那的に生きている。
戦闘者あるあるではあるが、強い者こそ、敗北が死であることを本能的に理解しているのだ。
ゆえに、大事なものを作らない。作っても最小限にしている。
例えば、サムが実父の屋敷を受け継いでもウォーカー伯爵家で暮らし続けているのは、この屋敷に人たちがサムにとって大切な存在であることはもちろんだが、新たな大切なものを作らないように無意識にしているせいだと思っていた。
このことに関しては、リーゼだけではなく、共に過ごした時間が長いウルも同意見だ。
ウル曰く、先の見えない自分が手本になったせいだ、と気にしていた。
スカイ王国に来て大切な人たちを作ったサムは、それ以上を求めなかった。
友人は増えた。仲間も増えた。家族も増えた。
だが、それ以上を求めていない。
そんな中、婚約まで漕ぎ着けたオフェーリアは運がいいと思うし、かなり頑張ったと思っている。ゾーイだって、こつこつ頑張った結果だろう。
だが、今までのサムとは違う今回の決断に、リーゼは歓迎こそしても不安にもなった。
「まさかとは思うけど、なにか病になったとかではないのよね?」
「違いますって。あれー? なんだか変な誤解をさせちゃってます?」
「え、ええ、少し、いえ、とても心配だわ」
困ったな、とサムは頬を描く。
その様子はいつものサムと変わりない。
しばらくして彼は口を開いた。
「なんというか、気付かされたんです」
「気づいた?」
「ほら、俺って魔王になったじゃないですか?」
「そうね」
「長い寿命を得て、やりたいことたくさんできるぞーって思ったんです。大変さはあるんでしょうけど、短絡的にやったーって思ったのも事実としてあるんです」
「気持ちは、わかるわ」
「ですが、俺は代償魔法を使ったことで人間に戻りました。そのことに関しては後悔もなにもないんですが、時間が有限になったことで、後悔したくないなって思ったんですよ」
「――そうだったのね」
無限とは言わずとも、長くなった寿命が再び人間と同じ時間に戻ったのだ。サムの中で価値観が変わったのは納得できた。
「相談しなくてすみません。でも、自分の中で折り合いをつけてから話をしたほうがいいかなーって」
「いいえ、話してくれて嬉しかったわ。最近、あまりサムとなかなかあっちもちゃんとできていないし、みんなとそろそろねと話をしていたの」
「……あ、あははは」
サムが恥ずかしそうに笑ったので、リーゼも微笑む。
「お姉様とオフェーリアのことお願いね。私たちは何もしないから、ゾーイと同じようにちゃんとサムがしてあげてね」
「もちろんです」
リーゼとサムは笑顔で頷き合った。
妻が増えることを良しと思わない人間は、自分たち家族にはいない。
サムが幸せなら、リーゼたちもまた幸せなのだから。
「みんなで幸せになりましょうね」
「はい!」
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