56「彼女もついにデビューです」③
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや」
「まてまてまてまてまてまてまてまてまて」
サムとウルが後退りながら、ありえないと手を振る。
事前に聞いていないし、聞いていたとしても受け入れるはずがない。
幼くなったウルはさておき、男の子であるサムは魔法少女になりたくない。
恥ずかしそうにモジモジしているミシャとレスリーのようになってしまったらと考えただけでゾッとする。
「サムちゃんはまだピッチピチの十五歳。しかも、成長途中なのでお声も高いし、背も小さめ。ほっそりとしていて、まさに魔法少女になるために生まれてきた存在よ!」
「んなわけあるか! おい! スカイ王国の変態ども、なにうんうん頷いてるんだよ! ぶった斬るぞ!」
キャサリンは誉めたつもりのようだが、サムとしては成人したのに声変わりをしても高めの声と、いまいち伸びてくれない身長を気にしているのだ。できれば、妻たちよりも大きくなりたいと思っている。
そんなちょっとしたコンプレックスを魔法少女になるためなどと言われれば、不機嫌にもなる。
「ウルリーケちゃんは、以前はいいお歳だったけど、今はあらやだすっかり可愛らしくなったわね。まさに魔法少女になるために若返ったのねん! よい決断よ!」
「誰がいい歳だ! ぶっ飛ばすぞ! このっ、クソ貴族ども。なにこっちを見て、あーって頷いているんだよ! 特にお前とお前! 絵に描いたような悪巧みをする貴族だったくせに、なに魔法少女になったゾーイにお小遣い渡そうとしているんだよ! もっと、最後まで悪党しろよ! いらねーよ! 誰が小遣いよこせって言ったんだよ!?」
『いい歳』とはっきり言われたウルが犬歯を剥き出しにして怒るが、キャサリンはどこ吹く風といった様子だった。
サムはつい頷きそうになって、すべての魔力を身体強化に注ぎ込んで耐えた。
(個人的には、かっこいい大人のウルが魔法少女になるのは……アリだな!)
まさかサムがそんなことを考えているとは露ほど思わないウルは、好々爺の顔をしてお小遣いを渡そうとしてくる貴族たちに文句を言う。
「ふ、ふふふ、まさかお前たちも地獄に堕ちた私に付き合ってくれるとはありがたい」
「ぞ、ゾーイさん」
むんず、と虚な笑みを浮かべたゾーイに掴まれてサムは退路を失ってしまう。
「……ゾーイ、ほどほどにね」
「レプシー様……汚れてしまった私を見ないでください。あと、アイリー様とデイジー様も拍手するのを止めてください。心にきます」
「あ、うん。でも、ほら、ゾーイがみんなと仲良くなったようで私としては嬉しいよ」
「仲良くといいますか……なんといいますか……私が言えることは、ひとつだけです。毎日がツッコミばかりで大変です!」
「……頑張ってね」
「……ふふふ、レプシー様。人ごとのように笑ってはいられませんよ。今のレプシー様も立派なスカイ国民。スカイ王国を覗き込む者は、スカイ王国に覗き込まれてもいるんです」
「そんな、深淵みたいに」
「では、失礼します。サムとウルには魔法少女に変身してもらわなければいけませんので」
「ちょっと、ゾーイさん! あたし、嫌よ! またサム子になりたくないの!」
「ええいっ、半分なりかけているではないか! キャサリン! サムは確保したぞ! ウルを確保しろ!」
「ちょ、待て、おいこら、ふざけんな! ぶっ飛ばすぞ! うわ、力つっよ! このおっさん、身体強化した私の膂力でもびくともしないんだけど!?」
サムとウルは無事に捕獲されると、控室に連れて行かれて、王宮で働くメイドに一瞬で魔法少女にジョブチェンジさせられると、再び会場に戻ってきて拍手喝采を浴びるのだった。
■
「うむ。よきビンビンである」
こっそり会場入りしていたクライドがワイン片手に満足そうだ。
「いや、なんだこれ」
遠藤友也は展開についていけず唖然としていた。
「えー。スカイ王国って、えー?」
そして、スカイ王国初心者の魔王ヴィヴィアンこと白雪は、魔法少女ひとつで大盛り上がりをするスカイ王国に、ただただ驚くばかりだった。
サムとウルも無事に魔法少女にジョブチェンジしました!
なお、ヴァルザードくんたちもお留守番です。教育に悪いからね!
クリー様「……ギュンギュン様は魔法少女にジョブチェンジしないのですか?」
ぎゅんぎゅん「ふっ、愚問だね。僕はみんなの心で魔法少女なのさ!」
クリー様「さすがですわ!」
友也くん「どういう意味!?」
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