↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時の虜  作者: 古都麿
PR
1/28

第1話 失恋

僕は誠、中学2年生。

僕のクラスに気になる子がいる。

気になる子というのは、中野詩織さん。

特に美人というわけではなく、どちらかというとあまり目立たない地味な女の子。

背が低くて華奢で。

小学校の頃から知ってるけど、中学に入るまではあまり興味がなかった。

2年生になってすぐ、彼女は一週間ほど学校を休んだ。

その後から、雰囲気が柔らかくなったというか、ふと見せる表情が可愛いなと思うようになった。

僕は、気がつくと彼女を目で追っている。それを自覚した時、気づいてしまった、

僕は恋をしている。詩織さんに。

心の中で「詩織さん」と呼ぶだけで胸がドキドキする。

あまり接点はないけど、たまに話すときは「中野さん」。

最初は、見ているだけだった。

だけど、胸が苦しい。

この想いを伝えたい。

だけど、勇気が出ない。

どうしたらいい?

そうして、一歩踏み出せないまま、月日が過ぎていく。


そんなある日。

梅雨空で雨が降り続いてる。

午後の授業が始まる直前。

「中野さん」

教頭が慌てた様子で教室にやってきた。

「今すぐ校長室に来て」

そう呼び出されて、教頭と一緒に教室を出て行った。

「何があったんだ?」

「何かやらかしたのか?」

クラスのみんながざわついている。

僕もなぜ彼女が呼び出されたのか気になる。

家族に何かあったのか?

何か事件に巻き込まれたのか?

悪い想像だけが膨らんでいく。

その時。

「ねえ、これ!」

スマホを見ていた女子が声を上げた。

「何?」

周りの女子が覗き込む。

「うそ!?」

「えー?」

「うそでしょ!?」

次々と上がる驚きの声。

でも、その後、声が続かない。

「何だよ、言えよ」

男子から声が飛ぶ。

「中野さん、皇帝陛下の婚約者に指名されたって」

「うそ?人違いじゃないの?」

「だって、中学生だよ?」

「そんなバカな」

「でもこれ、お相手は常和中学に通う中野詩織さんって書いてあるよ」

「マジで?」

「どういうこと?」

「なんで?」

クラスが騒然となっている。

うそだろ?

そんなこと。

中野さんがそんな。

信じられない。

彼女が手の届かないところへ行ってしまう?

現実感がないまま、僕は席に座ってじっとしているしかなかった。

始業時間になっても先生が来ない。

何が何だかわからないまま、5時限目が終わったところで。

「おーい、着席!」

担任が入ってきた。

「先生、中野さんのこと」

女子が担任に詰め寄る。

「その話は後でな」

「学校でも確認中だ」

「今日は6時限目は中止する。みんな下校するように」

「部活も禁止な!」

そうして教室から追い出されるように帰路についた。

中野さんは結局その日は教室には戻ってこなかった。

一体何が起こっているんだ?


この国は、帝政を敷いている。正確には、連邦帝国のうちの一つ、日本。

そして、日本の上位にある大日本帝国の皇帝が、僕が想いを寄せていた中野さんを婚約者に指名した。


その日のメディアはこの報道一色に染まった。そりゃそうだ。帝政において、世継ぎが重要なことはわかる。だから、相手が誰であれ、皇帝の相手が決まることが重要とされる。

世継ぎを産むための相手。

中野さんが。

皇帝の子供を産むために選ばれた?

そんなこと、認めたくない。

だって、まだ中学生の女の子だぞ。

ロリコン皇帝。

そんな言葉が頭をよぎる。

そんな悍ましい事……


その日、僕は眠れなかった。


翌日の学校。

やはりざわついている。

でも、特に混乱はなかった。

帝国が婚約者が中学生であることを鑑みて、学校関係者への取材を厳に禁止したからだ。

そんななか、中野さんは登校しないだろうという予想を裏切って、普通に登校してきた。

でも、誰も声をかけない。

どう話しかけていいかわからない。

僕だってそうだ。

だけど。

昨夜から気になっていたことを聞かずにはいられない。

中学生の女の子が婚約者に指名されるなんて、普通はありえない。

とすれば、権力によって無理やり……

そんなことはさせない。

許せない。

僕が中野さんを守りたい。

だから。

「中野さん、放課後時間もらえる?」

声が震えたが言えた。

「うん、わかった」

中野さんは感情のこもらない声でそう言った。


その日は、授業が全く手につかなかった。

何も考えられないまま、放課後になった。


「吉田くん、話って何?」

中野さんから声をかけてきた。

「ここではちょっと」

僕たちは校舎裏に移動した。

「それで、何?」

あまりにも普通の話し方に、僕は不思議な感覚になっていた。

「中野さん、皇帝の婚約者に選ばれたって」

「うん」

「どうして?」

「どうしてって……」

「無理やり?」

「えっ?」

「権力か何か、無理やり……」

「ちょっと、何言ってるの?」

「えっ?」

「何か勘違いしてない?

私、陛下のこと、好きだよ」

「へっ?」

「今回のこと、私の望んだことなの」

「そんな、うそだ!」

「いや、嘘じゃないし」

そんな……

「心配してくれてありがとう

でも、吉田くんが考えてるようなこと、全然ないから」

中野さんの表情は少し照れたような幸せそうな。

「もしかして、皇帝陛下とは2年生になってから?」

「うん」

そうか、そういうことだったんだ。

僕が惹かれた表情は、幸せの表情だったんだ。

好きになった時から、失恋してたのか。

「話ってそれだけ?」

「うん」

「それじゃ、もう行っていいかな?」

「うん」

それ以上何も言えないまま、僕は彼女の背中を見送った。

でも、彼女が幸せなら、それでよかった。


なんとなく分かってた。

吉田くんみたいな誤解をする人が出てくること。

だって、私、中学生だし。

普通の中学生は皇帝と知り合う機会なんてない。

あるとすれば政略結婚か力尽くで手に入れようとするか。

だから、吉田くんが誤解したのもわかる。

彼が悪いわけじゃない。

むしろ心配してくれてた。


カバンを取りに教室に戻ったところで。

「詩織」

声の方を見ると志保と歩美がいた。

「ごめんね、知っていたとはいえ、声かけにくくて」

志保が決まり悪そうに。

「やっと公認になってよかったね」

歩美が微笑む。

「うん、ありがとう」


その時。

「ちょっと、あんたたち、やめなさいよ」

何やら男子が揉めてる。

「なんだよ、お前」

「どうせ、金か権力目当てだろ」

「中野さんはそんな人じゃない!」

吉田くん?

「本人の希望って、そういうことじゃねーのかよ」

話の流れから、多分また誤解されてる。

「あんた、それ本気で言ってる?」

私の悪口だと気づいた志保が怒気を含んだ声で突っかかる。

「詩織のこと何も知らないで勝手なこと言わないで」

歩美も怒ってる。

二人の圧に怯んだ男子が舌打ちして帰っていった。

「吉田くん、大丈夫?

怪我してない?」

座り込んでいる吉田くんに手を差し出した。

吉田くんは私の手をじっと見た後、自分で起き上がって。

「なんともない」

そう言って、目を逸らした。

「吉田くん、詩織のために怒ってくれてありがとう」

歩美がお礼を言ってくれた。

「別に」

ちょっと困った顔をしてそう言うと、ふいっと踵を返して帰って行った。

志保と歩美は目を細めながら吉田くんを見送ると。

「男の子だねぇ」

そう言って意味深な視線をこちらに向けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。