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19/19

#19~それでも世界はドMっている

紗土香が全人類ドM化計画を人類側へ委ねてから1年。

そこにはこれまでと変わらない光景が流れていた。


人々はいまだにSだのMだのと言い争い、相変わらずMは虐げられ、

イジられる存在で、Sはちょっとカッコ良い、という立ち位置だった。


それでもSはSなりに、MはMなりに生活を送り、

それぞれの悩みや喜びが当然のようにあった。


あれから紗土香達支配管理側の存在達は、それぞれの道を選んだ。


ディアドロは森へと還り、時々訪れた人間を襲ったりもしているらしい。


リリスは日々の食料分としての人の性エネルギーを摂取している。

決してその対象となる事は気持ち良いだけで終わると言う事は無く、

エネルギーを吸われるとそれ以降の人生、何事にもやる気が出ず、

ただリリスの再訪だけを待ち続ける事になる。しかしもう彼女は来ない。


ハデスは世界のバランス調整役を担っており、

今では随分とバランスが均衡している為、平穏に暮らしている。


ルシフェルは必要以上に人々の運命に関わる事を避け、

逆に人々の運命について、どのように過ごすのかを観察している。


四拝は自分の国へ戻り、支配管理の中にも一定の自由を認めた。

しかし一度完成した支配管理はそう簡単には覆らず、

国民はいまだに支配管理される事を良しとしている。


板目は時々反社会的な人間を対象にして暴力を振るう。

そして、紗土香の元へも時々訪れている。


まぞ子は、ファン達に支えられながらも被虐的な日々を過ごしており、

本人もそれがある事に安心出来ているようだ。

もう死ぬ事も出来ないゾンビの体となっているが、

彼女からすると終わりなき絶望すら被虐心が受け入れたらしい。


紗土香は、しばらく部屋に籠る生活が続いた。


自身が打ち立てたあの計画の、何が問題だったのか、

そして自分はあの計画を通じて本当に人類愛を目指していたのか。

紗土香は今一度、自身の出自についてを考えた。


丸木戸財閥は古来より宇宙存在と交信を続けて来た。

そこで得た知識や技術を用い、国家から報酬を受けていた。

それは全体への奉仕と言う、ドM的な発想であった。

そうした中で、宇宙存在側から提示された一つの案。


人類とうちゅ存在の橋渡し役として、

ハイブリッドの子供を作らないかと言う誘いだった。


そうして生まれた、超常的な存在としての紗土香。

しかし人類達はいつまでも変わらず争いを止めず、

攻撃性が無くなる事も無かった。


彼女の中でいつしか一つの思想が芽生えた。

それが、全人類ドM化計画の発端だった。


彼女は、街を眺めた。


いつもと変わらない光景、見慣れた海と空。

そこを笑顔で歩く人、落ち込んでいる人。

Sがいて、Mがいる。ノーマルもいる。

こんな美しい多様性を、自分は壊そうとしていたのか。

彼女は少しだけ、自分の過去を恥じた。


そしてその恥という感覚に、心がトクンと鳴った。


何だコレは、とても気持ちが良い。


彼女はその心の源泉を辿るために、資料を読み漁った。


マゾヒズムは、愛の一片である、と、

ある書物に書かれてあった。

それでは、その対概念とは何なのか。


それは、容易に考え得るサディズムでは無かった。


マゾヒズムのもう片側の愛の一片。

それは他ならぬ、マゾヒズムであった。


互いに痛みを分かち合いながらも、

許容と赦しの中に身を置きながら、

全てを愛へと変える力。


しかしそれは、圧政や管理、支配によっては生まれない。

自由で本当に人々が自分を生きた時に初めて芽生えるもの、

それこそが真のM性であった。


あの時、再び支配管理側として結束を固めて世界を支配しようとした時、

まぞ子の献身的とも言えるマゾヒズムが世界を救った。

誰かが言っていた、コレはまるで救世主のようである、と。


マゾヒズムが世界を救うなんて、最初は信じられなかった。

だが、そこに愛があると言うのなら、それは真実の一片だ。



革命者達は変わらず自由に人々を導き、

しかしそんな中でもディアドロの悲劇のような事も再び起こるだろう。


人類はその度に深い悲しみに暮れ、そしてそれを乗り越える。

こうした自浄作用、辛くともそれを乗り越えて、自分達で幸福を作る。

こうした人類の生き様の中にこそ、マゾヒズムが光り宿っている。




紗土香はある時、SMクラブの女王様体験に参加した。

そこへやって来た、みぎゃーと名乗る中年男性豚がいた。


紗土香は尋ねる。


「あらぁ、だらしない豚さんですこと。

 ねぇ、私に何をして欲しいのかしら?」


すると、みぎゃーは答えた。


「お美しい女王様・・・煮るなり焼くなりお好きに、

 貴女様になら、何をどうされても構いません!!」


紗土香は内心ドン引きしながらも、聞いた。


「あのね、煮るなり焼くなりとか言って、

 もし私が本当にあなたを鉄板の上で焼いたらどうするのかしら?」


みぎゃーは答えた。


「貴女様の本当の心の底からやりたい事がそれであるならば、

 私はそれを受け入れます。

 私の生きる意味は、貴女様が自らを解放出来る事なのです。」


紗土香はハッとした。

人は生きる意味を探すが、それは決して見つかる事は無い。

それはそのように意図して作られているからであるが、

ただ一つ、仕組みの中にはバグがあった。

それは、生きる意味を見出す時に他者を介した時、

そこに自分の生きる意味を投影出来てしまうのだ。


「あなたの、生きる意味・・・。

 私の、生きる意味・・・。」


紗土香はボゥーっとしながらも、

その大きな体躯を用いてみぎゃー豚を締め上げた。


「あぁっ、女王様、イイ!!」


苦しそうにしながらも嬉しそうにしているみぎゃーを見て、

紗土香は思った。


何だ、こんな事なんだ。

案外人類は愚かしく、そして賢く、醜くも美しい。

どこまでも飽きない、単調な生物なのだと。


その夜、彼女は自らのルーツとなる星へと還る事を決めた。

最後に板目に挨拶をし、心で四拝にも気を向けた。


故郷の星で彼女は、地球という星に住む奇妙な生物、

人類についてを伝えるつもりだ。


どこまでも愚かしく、どこまでも美しい。

汚く、清廉で、我儘で、謙虚な、そんな生き物。


そこから数年後、地球へ向けてある星からメッセージが送られた。

そこにはこう書かれていた。


「全人類ドM化計画、完全完了。」と。


ーおわりー

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