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ゲームの勇者と入れ替わりました  作者: エア


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第17話『力よ、開け/お前が、ギルゴか』

カイトサイド


 朝、机の上に良明のメモが置いてあった。

『カイトへ。

 メモを読んだ。指先が光ったなら、力が確実に開きかけている。

 お前の力を信じてくれ。

 俺はもうすぐ魔王城に入る。

 良明』

(良明……)

 カイトはメモを胸のポケットに入れた。

 窓の外を見る。

 空はまだ紫がかっているが、昨日より少し明るい。

(良明が動いている。俺も——)

 カイトは自分の手を見た。

 昨日、指先が光った。

 あの感覚を、もう一度。

 目を閉じて、集中した。

 ケイル一族の血。

 何度もカオスを封印してきた、先祖たちの力。

 両親が知らずに逝っても——血の中に宿り続けた力。

(俺は、ケイルの末裔だ)

 その言葉を、心の中で繰り返した。

 すると——。

 手のひらが、白く光り始めた。

 昨日の指先だけではない。

 手のひら全体が、眩い白い光を放っている。

(これが……封印の力か)

 光はじわじわと腕に広がり、やがて全身を包んだ。

 温かかった。

 まるで、先祖たちの存在が、自分の中に宿っているような——。

 光がゆっくりと収まった。

(……開いた)

 カイトは深く息を吐いた。

 その時、スマホが光った。

 恭介からのメッセージだった。

『良明、学校来る? なんか今日、藤先生がおかしい』

(おかしい?)

 カイトは急いで制服を着て、家を飛び出した。

 学校に着くと、廊下が騒がしかった。

「藤先生が……」

「なんか、様子が変で……」

「怖い」

 生徒たちがざわめいている。

 恭介が駆け寄ってきた。

「良明! 大変だ。藤先生が今朝から別人みたいになってて……」

「どこにいる?」

「屋上。さっき上がっていくのを見た」

 カイトは屋上への階段を駆け上がった。

 屋上の扉を開けると——。

 藤銀次が、フェンスの前に立っていた。

 しかし、その姿はもはや「藤銀次」ではなかった。

 黒いスーツは原形を留めていない。

 全身が黒い霧に包まれ、目だけが赤く光っている。

 周囲の空気が、重く淀んでいた。

「来たか、ケイルの末裔」

 声が変わっていた。

 穏やかな「藤先生」の声ではない。

 低く、反響するような、異質な声だった。

(これが……本性か)

「お前は誰だ」

 カイトは静かに問いかけた。

「名乗る必要もないが——教えてやろう」

 黒い霧がさらに濃くなった。

「我が名はギルゴ・フレイズ。カオス様に仕える者だ」

(ギルゴ……!)

 良明のメモが頭をよぎった。

『藤銀次という人物を調べたが、ゲームには登場しない。攻略サイトにも一切情報がなかった。つまり、こいつはゲームの想定外の存在だ』

(ゲームの外から来た存在……それが、こいつか)

「目的は何だ」

「目的?」

 ギルゴが低く笑った。

「決まっているだろう。この世界の人間の負の感情を集め、カオス様に届けること。そして——」

 ギルゴの目が細くなった。

「お前たちの世界の壁を完全に崩し、二つの世界を混在させること。そうなれば、我はどちらの世界でも存在できる」

(二つの世界を混在させる……! そうか。ギルゴの目的は、カオスのためだけじゃない。自分自身の存在を維持するためでもあったのか)

「それは……できない」

 カイトは一歩前に出た。

「なぜ? お前一人に、何ができる」

「一人じゃない」

 カイトは手のひらを前に向けた。

 白い光が、じわりと溢れ出した。

 ギルゴが、一瞬だけ——怯んだ。

「その光……ケイルの封印の力か」

「そうだ」

「完全には開いていないはずだ。今の力では、我には届かない」

「届かせる」

 カイトは静かに、しかし真っ直ぐに言った。

 ギルゴが黒い霧を放った。

 カイトは跳んで避け、着地と同時に手のひらを向けた。

 白い光がギルゴに当たった。

 ギルゴが、のけぞった。

「……っ!」

「効くだろう。封印の力だから」

 ギルゴが体勢を立て直した。

「小賢しい……!」

 黒い霧がさらに濃くなり、渦を巻いた。

 カイトに向かって、一気に押し寄せてくる。

(まずい、量が多い……!)

 カイトは両手を広げた。

(良明、お前が向こうで戦っているなら——俺もここで負けるわけにはいかない)

 全力で光を放った。

 白い光と黒い霧が、正面からぶつかった。

 屋上に、眩い閃光が走った。

 しばらくして——霧が晴れた。

 ギルゴが、数歩後退していた。

「……ケイルの血め」

 ギルゴの声に、初めて焦りが混じった。

「完全には倒せなかったか。だが——」

 ギルゴが黒い霧の中に溶けていった。

「カオス様が復活すれば、我も完全体に戻る。その時を楽しみにしていろ」

 霧が消えた。

 屋上に静寂が戻った。

 カイトは荒い息をつきながら、その場に膝をついた。

(倒しきれなかった……。でも、退けた)

 空を見上げると——紫がかっていた空が、少しだけ青みを取り戻していた。

(良明……向こうは大丈夫か)

***

良明サイド


 魔王城の内部は、ゲームで見た通りだった。

 黒い石造りの廊下。不気味に揺れる松明の炎。

 壁に刻まれた魔法陣が、禍々しく光っている。

「……本当にゲームそのままだ」

 俺は思わず呟いた。

「ゲーム?」

 マリアが眉を上げた。

「いや、なんでもない。気をつけろ。強い敵が多い」

 城の内部を進むにつれて、次々と魔族の兵士が現れた。

 しかし——今の俺たちには、余裕があった。

 レオが先頭で薙ぎ払い、マリアが炎で援護し、イズが回復を絶やさない。

 俺は全体の動きを見ながら指示を出す。

(ゲームで何度もクリアした攻略が、ここでも通じる)

 城の奥深くへ進んでいくと、広い部屋に出た。

 部屋の中央に、人影が一つあった。

 紫色のローブをまとった、中肉中背の人物。

 顔の半分が影に隠れているが、その目だけが赤く光っている。

(カオスの手先だ……ゲームで言うと、カオスの前座ボスか)

「ケイルの血筋の者か」

 人影が静かに言った。

「随分遠くまで来たものだ。しかし、ここから先へは行かせない」

「どいてくれ」

「断る」

 人影が手を上げた。

 黒い魔法陣が展開される。

(大規模魔法だ……! 散れ!)

「全員、散れ!」

 四人が左右に跳んだ。

 黒い炎が、床を焼き尽くした。

「マリア、反撃! イズ、光魔法で魔法陣を打ち消せ! レオは俺と一緒に前へ!」

「分かった!」

 マリアの炎とイズの光が同時に放たれた。

 人影が後退する。

 俺はレオと並んで一気に間合いを詰めた。

 剣を振り上げ——。

「あなたは、岬良明ですね」

 人影が静かに言った。

 俺の手が止まった。

「……なぜ、その名を知っている?」

「カオス様から聞いています。別の世界の者がケイルに成り代わっている、と」

(カオスは知ってたのか……!)

「それが、どうした」

「カイトではないあなたに、カオス様は封印できない。ケイルの血がなければ、封印の力は使えない」

(それは……分かってる)

 俺は剣を構えたまま、静かに答えた。

「俺はカオスを封印しに来たんじゃない」

「……何?」

「俺は——カイトが封印できるように、道を開けに来た」

 人影が黙った。

「カイトは向こうの世界で、今まさに力を開花させている。カオスが封印されれば、俺たちは元の世界に戻る。カイトがケイルの力でカオスを封印する」

「……戯言を」

「信じなくていい。でも——」

 俺は剣を力強く握った。

「道は、開ける」

 レオが横から叫んだ。

「良明、行くぞ!」

「ああ!」

 二人で一気に踏み込んだ。

 激しい戦闘が続いた。

 人影は強かった。

 黒い魔法を次々と放ち、俺たちを翻弄する。

 何度か吹き飛ばされながらも——。

 イズの回復が、俺たちを立ち続けさせてくれた。

 マリアの炎が、人影の動きを封じた。

 レオが体を張って、俺を守ってくれた。

 そして——。

 俺の剣が、人影の核心に届いた。

 人影が崩れていく。

「……ケイルの……」

 最後の言葉を残して、人影は消えた。

 部屋に静寂が戻った。

 俺は荒い息をつきながら、仲間を見回した。

「全員、無事か」

「なんとか……」

 レオが肩で息をしている。

「ギリギリね」

 マリアが壁に手をついた。

「カイトさんのおかげです」

 イズが微笑んだ。

(カイトさん、か。もうすっかり俺のことをそう呼ぶようになったな)

「少し休もう。その先に、カオスがいる」

 部屋の奥に、巨大な扉があった。

 黒い扉。魔法陣が刻まれている。

 俺はその扉を見つめながら、静かに思った。

(カイト、準備はいいか? 俺はここまで来た)

 そして——扉の向こうから、低い声が聞こえてきた。

「ようこそ、ケイルの血を引く者よ」

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