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ゲームの勇者と入れ替わりました  作者: エア


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第1話『俺がゲームの主人公になった?/誰だ、この平たい顔をした眼鏡の少年は?』

良明サイド


「おい。何、グーグー寝ているんだよ。早く起きないと、遅刻するぞ!」


 俺がベッドで、気持ちよく寝ていると、誰かが俺の身体を揺さぶってくる。あと、若い男性の声が聞こえる。


「 うーん……あと、もう少し……」


「早くしないと、遅刻しますよ」


 今度は、若い女性が俺の耳元で囁く様に声をかけてきた。

 せっかくの日曜日なんだから、もうちょっと寝かせてくれよ。

 すると、今度は別の女性の声が聴こえた。


「しょうがないわね、こうなったら……ファイヤー!」


 ファイヤー? 何だ、それは? と思ったその瞬間、


「うわっ! あちちちちちちちち!」


 頭に強烈な熱が来た……って、頭から火が出ているじゃねぇか! 俺はパッとベッドから飛び起きると、すぐさま水を浴びせられた。

 おかげで俺はずぶ濡れだ。


「やっと起きたわね!」


 先程の炎と水で眠気が吹っ飛び、


「いきなり、何をするんだよ! 人が気持ちよく寝ているっていう時に!」


 怒った俺が声をした方を振り向くと、腰に手を当てた女の子が立っていた。


「何って、そんな大事な時にグーグー眠っている方が悪いんじゃない!」


気が強い女の子は、俺に反論した。

先程俺を起こしたのは、桃色の髪のツインテールとルビー色の瞳、黒い三角帽子を被り、黒のローブを着ていて、ひときわ目立つ。

 これは何かのコスプレであって、髪はウィッグ、瞳はカラコンか?

 でも、顔は割と可愛らしく、学校にこんな女の子がいたら、かなり目立つに違いない。

 しかし、それにしても、妙だ。


「何だ、これ?」


 俺は魔法使いのツインテールの尻尾を引っ張った。


「痛っ!……ちょっと止めてよー!」


 女は痛がった。これ、ウィッグじゃなかったのか。

 ところで、ここは一体どこなんだ?

 俺は、目の前にいた三人を見た。


「誰なんだ、お前ら?」


 すると、三人の目が点になった。

「おい、どうしたんだ、カイト。お前、俺達の事を忘れちまったのか?」

 茶色いスポーツ狩りの男性が涙目で俺の肩をつかんだ。


「いやいや、俺はカイトじゃなくって、岬良明みさき よしあきと言って……」


 俺が自分の名を名乗ろうとすると、


「カイト、お前もしかして記憶喪失になったのか?!」


 スポーツ狩りの男性が悲痛な表情になっていき、目に涙を浮かべ始めた。


「ちょっと、何も泣くこと無いだろ」

「んなこと言われたってよぉ……。幼馴染である俺の事を忘れられたら、普通泣くだろぉ。村で余所者扱いされて浮いていた俺にも手を差し伸べてくれたこととか、木の棒で剣士ごっこをしたこととか、川で魚釣りをしたこととか、俺が傭兵試験で合格した時には一緒に祝ってくれたこととか、全部忘れちまったのかよ!」


 男性は俺の肩をつかみ、俺の身体をゆすって涙ながらに訴える。


「レオさん、落ち着いて。カイトさんが困っていますよ」


 金色の十字架が印象的な青い聖職者の服を着た長い黒髪の女の子が短髪の男性をなだめた。

 衣装からして、彼女は恐らく聖職者のコスプレと思われる。


「これが落ち着いていられるかよ! どうして、俺達のことを忘れてしまったんだよー!」


 短髪の男性は俺の胸元で泣きだした。っておいおい、鼻水まで出ているじゃねぇか! 服に着くから、やめてくれよ!

 でも、この三人。どこかで見たことある気がするな。

 そんな時、ふと壁に掛かった鏡に映った自分の姿を見た。

 そこに映っていたのは、ゴールドブラウンの短い髪に茶色い瞳、日本人離れした端正な顔立ちの少年だった。

 こんなイケメンがテレビに出てきたら、女子からの人気は間違いナシだろう。

 まぁ、俺を含め男子からは嫉妬の対象でしかないが。

 でも、何だか違和感がある。


「これ、俺の顔か?」


 俺は自分の頬に手を当てた。

 そもそも俺は黒髪黒目、ここまでイケメンではないけど、かと言ってブサイクでもない平凡な顔をした日本人の男子高校生である。

 

「カイト、お前自分の顔まで忘れてしまったのかよ?」

 驚愕するのは、短髪の男性。

「カイトさん、自分のことまで忘れてしまったのですか?」

 心配そうに声を掛けるのは、聖職者の女の子。

「じゃあ、自分が何で旅をしているのかも忘れちゃったの?」

 魔術師の女の子も、話しかける。

 でも、どこかで見た事がある様な顔だな……。

「きっと、これは悪魔に憑りつかれているんじゃないの? イズ、ちょっと退魔の術は使えるの?」

「さすがに、そこまでの魔法は……」

「俺のカイトがー! うわああああ!」

 三人は、口々に相談し合っている。というより、混乱している。

 んなこと言われても、俺が一番困惑しているんだよ。

 そもそも、何でこんな事になったんだ?

 ここに至るまでの経緯を今一度思い返してみよう。

 レッツ、プレイバック。


***


 岬家・自室。


「よーし、これならどうだ!」


 俺がEnterキーを押すと、カイトはラスボス・カオスに必殺技・シャーニングソードという一撃を与えた。

カオスに大きなダメージを与えられた。これで、エンディングが迎えられるだろう。

 今、俺がやっているのは、『ディスティニークエスト』という新作のフリーゲームである。

 このゲームは、世界征服によって魔族の勢力拡大を目論む魔王・カオスを倒すべく、冒険者・カイト・ケイルが仲間達と共に冒険をするという王道ファンタジーRPGである。

 内容は、シンプルながらも壮大なストーリーと、美麗なるグラフィックデザイン、個性的なキャラクターで、絶大な人気を集めている。

 俺も、発売日と同時にダウンロードして、只今絶賛プレイ中である。

 最初からハラハラドキドキの連続しっぱなしで、キーボードを操作している間は手に汗を握った。

 そして、購入してから一週間後。

 レベルと装備、回復薬を万全にして、いよいよラスボス戦に挑む。

 最初はこちらが有利だったと思う。

 回復役は専ら仲間の体力回復に徹し、他はひたすら攻撃を繰り返すパターンで攻めていった。

 会心の一撃を何度も与えた。

 だが、やはり相手はラスボス。

 そう簡単にやられてくれない。

 しかし、ラスボス戦開始からざっと三十分くらい経過している。もうそろそろ倒されても良い頃だ。

 一向に倒れない魔王に俺はだんだんとイラ立ってきた。


「くっそー! せっかく大ダメージを与えられたと思ったのに、まだ倒れないのかよ。コイツのHPヒットポイント、あといくつ残っているんだよ?」


 俺が画面に向かって文句をぶつけると、今度は魔王が大技を繰り出してきた。


『カオスの攻撃! 強大な闇が包み込む!


カイトは、9999のダメージを受けた。カイトは、戦闘不能になった。

レオは、9999のダメージを受けた。レオは、戦闘不能になった。

マリアは、9999のダメージを受けた。マリアは、戦闘不能になった。

イズは、9999のダメージを受けた。イズは、戦闘不能になった。』


 おいおい、何なんだよ。この強烈な技は! 完全に反則じゃねぇかよ!

 俺は画面に向かって口を尖らせたが、機械がプレイヤーの文句を聴き入れてくれる訳が無く、無情にも画面には、『パーティーは、全滅した……。』という文字が表示され、その後、大きく『GAME OVER』の文字が表示された。

 俺が怒りをキーボートをぶつけると、文字の下に文字が表示された。


『コンティニューしますか? はい いいえ』


 そりゃ、そうだろ! これでおしまいじゃ、今までの努力が水の泡だ。

 このゲームをクリアする為に、一体どれだけの時間を費やしてきたことか。

 翌日が休日の時は、徹夜でプレイしていたんだぞ。

 ここで、『はい』を押せば、ラスボス戦直前でセーブした時点から、やり直せる。

 迷うことなく俺は『はい』を選択した。


『分かりました。では、あなたが代わりに世界を救ってください』


 えっ? それって、どういう意味なんだ? 今まで、そんな文章は、一切表示されなかったのに。

 そう思っていると、ディスプレイが突如画面がパアッ……と真っ白に光り輝き始めた。

 うわっ、眩しい……!

 俺は思わず腕で視界を遮った。それでも、光の輝きは更に強くなり、もう目も開ける事も出来なくなってしまった。その直後、突如頭の中がボーッとし始めて、俺はそのまま倒れた。


 そして、目を開けたら、ここにいたという訳である。

 とりあえず、ここに来るまでの記憶は大体思い出せた。

 つまり、ここにいる連中は、俺がプレイしていたゲーム『ディスティニークエスト』に登場するカイトの仲間か。

 それにしても、どうしてこんなことが起きたんだろう?

 もしや、これがいわゆる異世界転生というヤツ? ……いやいや、突然テレビの画面から発せられた光を浴びて死亡した話は、前代未聞だ。

 だとしたら、これは一体どういう事なんだ?

 確かに、これまで数多くのゲームをしてきて、『一度で良いから、俺も異世界に行ってみたい!』と思ったことは何度もあったけど、よりによってこんな形で実現してしまうとは……。

 しかし、いざ勇者として活動することになってしまうと、プレッシャーがある。

 何せ俺は、大した才能も無い平凡なゲームオタクの高校生なんだぞ!

 でも、ここで本当のことを言っても、かえって皆を混乱させるだけだしな。ここはとりあえず、思い出したフリをして皆を安心させよう。


「あぁ、思い出した。僕の名前は、カイト・ケイル。確か魔王を倒す為に旅に出る事になったんだよな」


 そして、俺はそれぞれ自分の仲間を指差して答えた。


「君はレオ・ウィリアム。君はマリア・ランゼ。君はイズ・ヴィンセントだな」


 俺の記憶が確かなら、スポーツ狩りをした茶髪の男の子がカイトの幼馴染で傭兵のレオ。

 魔法使いのコスプレをした桃色ツインテの女の子がマリア。

 聖職者の恰好をした黒髪ロングの清楚な女の子がイズだ。


 名前を当てると、先程までパニックになっていた3人の顔が笑みに変わった。


「良かった……やっと俺達の事を思い出してくれたんだな」

「全く、心配させないでよね」

「突然おかしな事を口にしたから心配しましたよ」


 それを聞いて、ほっと胸をなでおろす仲間達。良かった、信じてくれた。

 でも、さすがに「実は君達のいる世界は、ゲームであって本当の俺はゲームオタクの高校生・岬良明なんだよ」と告げることは出来なかった。

 言ったところで、また皆を混乱させるだけだろうし。


「ところで、今日はいよいよ魔王討伐に挑むんだよな?」


 俺が確認の為に質問すると、皆は口を揃えて「えっ?」と尋ねた。


「あ、あのな。カイト。確かに俺達はこれから魔王を倒すことだ。でも、ここから魔王がいる城にたどり着くには長い距離があるんだ」

「えっ?」


 レオの発言に俺は驚きを見せた。

 そこへマリアが説明を続けた。


「そうよ。それに今のアタシ達は昨日から旅を始めたのよ。今のアタシ達のレベルじゃ敵いっこないわ」

「えぇっ? だって、俺達って確か魔王討伐直前でいったんセーブしたんじゃ……」


 俺がそのことを話すと、再び皆の顔から表情が失われた。


「……どうやら完全に思い出した訳ではないみたいね」


 マリアが冷めた目で俺を見つめる。お願いだから、マジでやめて。


「ご、ごめん……じゃあ、レベルとかステータスってどうすれば分かるのか教えて」


 俺が両手を合わせながらお願いすると、イズが説明した。


「私達は今から冒険者ギルドというところに登録しに行くところです。そこで発行されたライセンスから自分のステータスが分かるそうです」

「へぇー。そうなんだ」


 ゲームをやっている時はEscキーを押せば一発でパーティーのステータスが分かったけど、ゲームの中ではライセンスをもらわないといけないのか。

 現実の世界とゲームの世界では、違うんだな。


「それじゃあ、まずはギルドに行かないとな」


 こうして、俺達はまず冒険者ギルドへ向かうことになった。


カイトサイド


 魔王に倒されて真っ暗な意識に落ちた中、僕はゆっくりと目を開けた。


 真っ暗な意識の中、誰かが僕の身体を叩く。

 他人に迫られて、僕はゆっくりと目を開けた。

 すると、そこに見えたのは中年女性だった。年齢は40代くらい。

 黒髪黒目でシワが入っているが、街でよく見かけるおばさん達と比べると、体型は細身である。

 もしかしたら、この人は僕のことを知っているのかもしれない。


「良明、ごはんよ。早く出て来なさい」

 向こうから声が聴こえた。

「部屋の中でゲームをつけっぱなしにしたまま、こんな所で寝るなんて、だらしないわよ! アンタはもう高校生になったんだから、いい加減しっかりしなさいって何度も言っているでしょ」


 謎の女性は、僕が起きた瞬間僕に叱りつけた。

 でも、僕はこの女性に見覚えはない。

 もしかして、彼女が僕を助けてくれたのか?


「すみませんけど、あなたは一体誰なんですか?」


 僕の言葉が意外だったのか、女性はギョッと目を丸くしながら尋ねた。


「アンタ、お母さんのことを忘れちゃったの?」

「お、お母さん……? 僕の母は12歳の頃に亡くなっています。父さんもいなくて、独り身です」


 僕が正直に打ち明けると、女性は呆れながら言った。


「……全く、ゲームのやりすぎで、遂に頭がおかしくなっちゃったのね。こうなったら、今度病院に連れて行って、先生に診てもらわないと!」


 と言って、その場を去って行った。

 何なんだ、あの人は?

 でも、カオスの一撃から守ってくれたのだから、決して悪い人ではないはずだ。


 しかし、何で僕がこんなところにいるんだ?

 ここに至るまでの記憶を一回思い出してみよう。



 カオス城


 長い旅を経て、ようやく魔王・カオスが住む城・カオス城に到着して、僕達は城門を開けた。

 襲い掛かる手下のモンスターや罠を幾度も乗り越えて、ボスがいる部屋までたどり着いた。

 扉を開けると、そこにいたのは魔王・カオスだった。


「フハハハハハハハハ……遂にここまで辿り着いたか!」


 最初から僕達がここに来るのを待っていたと言わんばかりの余裕の笑みだった。

 でも、ここに至るまで何度も戦って来たのだから、今の実力ならきっとヤツを倒せる。

 そう信じて武器を構えた。


「お前の野望はこれまでだ! お前を倒して、僕達が世界に平和を取り戻す!」

「フン、我らの野望を阻止するとは、生意気な人間め。今ここで始末してやる!」


 互いに罵り合った後、最後の戦いが始まった。


 戦いは、最初こちらが有利だった。

 イズには専ら回復魔法を使ってもらい、僕、レオ、マリアはひたすら魔王への攻撃に徹した。

 通常攻撃では歯が立たないと思ったので、専ら技やスキル、魔法を使って攻撃する作戦に出た。

 途中で精神力が減ってきたら、アイテムを飲んで回復させ、再び攻撃した。

 しかし、相手も魔王なだけあって、圧倒的な魔力で僕達に迫ってくる。

 途中、瘴気を当てられることが何度もあったが、それもアイテムで回復してどうにかピンチを脱した。

 その後も接戦が続いたが、一向に終わる気配が見えなかった。


「ぐぬぬ、貴様もなかなかやるな……」


 僕達の攻撃に魔王は感心しているが未だに余裕を崩さなかった。

 だからと言って、こちらも引き下がる訳にはいかない。

 カオスを倒して、世界に平和を取り戻さないといけないのだ。

 僕がカオスにとどめの一撃となるだろう必殺技を披露しようとした時である。


「だったら、これならどうだ?」


 不敵に笑うカオスが右手から黒くて巨大なビームを放ってきた。

 それは一直線でこちらに向かい、僕達はそれをモロに受けてしまった。

 そして、目を覚ましたら僕だけがこんな所にいたという訳である。


 どうにか命だけは助かった。

 それにしても、どうして僕だけが助かったのだろう。

 他の皆はどうしているのか心配だ。一刻も早く皆と合流しないと。

 それにしても、ここはどこなんだ。しかも、部屋がとても汚い。こんなに雑多な部屋は見たことがない。


 僕だって、毎日部屋を掃除しているのに。

 

 僕は辺りを見渡した。

 そんな時、タンスの隣に置かれた姿見に人の姿が映っていた。

 その人は僕と同い年くらいの少年で、黒髪黒目。平たい顔をしている。しかも、眼鏡を掛けているが……このフレームは何という素材なんだ? 見た目からして、金属でも木でもない、妙につるつるとした感触だ。

 しかも、この少年はかつての世界では見かけない服を着ている。異国の服だろうか。


「誰だ、この少年は?」


 どうやら、僕はカオスの魔力で、こんな地味で平たい顔をした眼鏡の少年に姿を変えられて、見知らぬ世界に飛ばされてしまった様だ。

 そこをさっきの女性に拾われたのかもしれない。

 僕が意識を失っている間に何が起きたのだろう。

 何としてでも、元の姿に戻って、元の世界に帰る方法を探して、魔王を倒さなくては。

 それにしても、ここは、一体どこなんだ?

 床は何やら物で溢れかえっていて汚く、薄暗いとはいえ本や謎の機械が散らかっていることが分かる。


 そんな中、薄くて黒い額縁が視界に入った。

 額縁はかなり大きくて、中に、『Destiny Quest』と書かれ、背景には空に白い雲が映っており、しかも雲がゆっくりとではあるが、動いている。

 更に、音楽まで流れている。

 絵画が動く上に音楽が流れるとは、一体何という技術なんだ……新たな魔法か?

 そして、次に机の上に置かれた無数のボタンが気になる。

 そこにはアルファベットと共に謎の言語が書かれたボタンがきれいに整列されている。

 これは一体何に使うのだろう?(後にこれがパソコンであることを知る)

 ボタンは敵のアジトで何度か見た事があるが、これも何か仕掛けがあるのか?

 試しに、Enterと書かれた大きなボタンを押してみた。


 チャラリーン♪


 ボタンを押すと、高い音が鳴った。この音はどこから流れているんだ?

 すると、今まで青空の動く絵と文字が消えて、黒くなり別の文字が出てきた。


『Now Loading…』


 Loading? 何かを読み込んでいるのか?

 そう考えている間に、再び文字は消え、再び別の文字と青い絵と白い枠で囲まれた四角がいくつも出てきた。


『ファイルを選んでください』


 何だ、この言語は? 異国の言葉かな? それにしても、初めて見る言語だけど何故だかすらすらと頭に入ってくる。

 えーと……ファイルを選ぶだと? どういう意味なのだろう。


 しかし、その下にDataと書かれた単語と、日付と日時が書かれたものが並んでいるが、これは、何かを記録しているのか?

 しかも、一番上に書いてある枠が点滅している。もしかすると、この中に、僕が元に戻る為の手掛かりがあるのかもしれない。

 だが、これはどうすれば良いんだ?

 これも、さっきと同じボタンを押せば良いのか?

 そう思って、赤いボタンを押すと、再びNow Loading…の文字が表示された。そして、しばらくすると、また絵が真っ暗になり、額縁の下に長方形の枠が現れて、文字が浮かび上がってきた。


『?:……おい、カイト。何、グーグー寝ているんだよ。早く起きないと、遅刻するぞ!』


 また、変な言語が出たな。何が書かれているのか分からないが、声が出ているので、聞き取ることが出来た。


『カイト:うーん……あと、もう少し……』

『?:早くしないと、遅刻しますよ」

『カイト:うーん……むにゃむにゃ……』

『?:しょうがないわね、こうなったら……ファイヤー!』


 そうすると、突如、絵がパッと真っ白に切り替わった。


『カイト:うわっ! あちちちちちちちち!』


 男の髪が燃えて、パニックになり、慌てふためいている。直後、すぐさま水を浴びせられた。

 その瞬間、目の前に絵が現れた。どうやら、場所は宿屋だな。それにしても、今まで見てきた絵とは大分変わっているな。

 立体的で、表面がツルツルとしているし、しかも絵の中の人物が全員動いている。一体どうやって描いたんだ?


『マリア:よし、やっと起きたわね!』

『カイト:いきなり、何をするんだよ! 人が気持ちよく寝ているっていう時に!』


 ベッドから飛び上がる様に起きた少年が、魔法使いの少女に怒鳴りつけた。

 それにしても、この魔法使いの女の顔、マリアと似ているな。おまけに名前も同じだし、気が強くて過激な性格もそっくりだ。

 実際、僕がすやすやと寝ている時も、同じ様なことを仕掛けてきて宿が火事になりかけたことがあった。


『マリア:何って、人がせっかく起こしているのに、グースカ寝ている方が悪いのよ!』


 魔法使いは少年を叱りつけている様だ。つまり少年はなかなか起きないから、彼女が魔法で頭に火をつけられたという訳か。確かに寝坊は良くないが、火を付けられたらたまったものではない。

 もし火傷したら、どうするんだ。

 それにしても、何だか少年の様子がおかしい。


『カイト:誰なんだよ、お前ら?』


 すると、三人はしんと静まり返った。


『レオ:おい、どうしたんだ、カイト。お前、俺達の事を忘れちまったのか?』


 スポーツ狩りをした茶髪の兵士の少年が涙目で少年の肩をつかむ。

 彼は、レオというのか。僕の幼馴染と名前が同じだな。心配性なところもそっくりだ。

 あと、この少年。僕と瓜二つの顔だ。


『カイト:いやいや、俺はカイトじゃなくって、ミサキ・ヨシアキと言って……』


 少年は自分の名を名乗っている様だ。ミサキ・ヨシアキだと? この辺りでは聴かない名前だな。

 だが、少年が名前を名乗った瞬間、レオの顔が青ざめていった。


『レオ:カイト、お前もしかして記憶喪失になったのか?!』


 レオが涙目になっている。

 どうやら、このミサキという少年がおかしくなってしまった様だ。


『カイト:ちょっと、何も泣くこと無いだろ』

『レオ:んなこと言われたってよぉ……。幼馴染である俺の事を忘れられたら、普通泣くだろぉ。村で余所者扱いされて浮いていた俺にも手を差し伸べてくれたこととか、木の棒で剣士ごっこをしたこととか、川で魚釣りをしたこととか、俺が傭兵試験に合格した時には一緒に祝ってくれたこととか、全部忘れちまったのかよ!』


 恐らくレオは、仲間の身に起きた突然の異変にショックを受けているに違いない。

 記憶喪失ということは、この少年は過去の記憶を完全に失ってしまったのか。

 確かに仲間が何らかの理由で、記憶を失ってしまったら、僕も悲しくなる。


『イズ:レオさん、落ち着いて。カイトさんが困っていますよ」


 聖職者の服を着た長い黒髪の少女が男性に声を掛けてきた。

 この聖職者の少女もイズにそっくりだな。


『レオ:これが落ち着いていられるかよ! どうして、俺達のことを忘れてしまったんだよー!』


 レオは、少年の胸元で泣きだした。

 それにしても、この三人どこかで見た事ある様な気がするな。

 そんなとき、ミサキはふと壁に掛かった鏡に映った自分の姿を見た。


『カイト:この顔、俺の顔か?』


 そこには、茶髪茶目の少年の顔が映っていた。しかし、この顔は間違いなく見覚えがあった。


「あれ? これ、ひょっとして僕じゃないのか?」


 僕は絵を見ながら、そう呟いた。

 その後も、絵の下に描かれた謎の言語(何故か文章は読めたが、意味は理解出来なかった)は表示されたり消えたりした。

 どうやら、この小さな機械を操作しないと、進まない様だ。

 早速僕は小さなボタンを手に取り、ボタンを押した。

 すると、僕とよく似た少年が動き出した。

 何なんだ、この絵は。凄い技術だな。

 僕は未知なる絵画の技術に目を奪われていた。


 とりあえず、まずはこの場所から出よう。

 そして、僕の身に起きた事態を調べて元に戻る方法を探さなくては。

 でも、これ……一体どうやって操作するのだろう?

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