7.キューちゃんと赤くなったトマト
「何かを作るのもいいが、ゼリーも作るのだぞ」
「今から作りますね。ちゃんと桑の実もたくさん採取してきたんですから!」
バッグを広げ、大量の桑の実を見せる。神様は満足げに「そうか」と頷く。
すると視界の端で何かが動くのが見えた。ゆっくりと顔だけ移動させると、モス達がパタパタと飛んでるではないか。
一同揃って桑の実に飛んでいき、糸を吐き出して採取している。そして採取した実を私達の周りに置いた。
「これも神様の料理に使ってほしいってこと?」
「バッグの中身と合わせれば特大サイズが作れそうだな」
神様は小さく笑う。
先ほど繭玉を差し出された時より嬉しそうだ。さすが食神。素材より食べ物の優先順位が高い。
「いや、これ使うならバッグの中のは明日分に回しますよ。いっぱい食べたらお腹壊しちゃうじゃないですか」
「聖域も我が神域の管轄となった以上、ここで採れた物が我に害を成すことはない」
「そうじゃなくて。食べ過ぎでも胃もたれするんですってば」
「神は胃もたれなどしない」
故に問題ないと、胸を張って主張する神様。
半分でも結構な量ができるのだが、作れるなら作れるだけ食べたいのだろう。
実際、神様と同じ大きさのゼリーを作ってもぺろっと平らげてしまいそうで怖い。何事も限度は大切だ。
「なにも今日は作らないってわけじゃないんですから、分割くらい我慢してください」
「待ってたのに」
むうっと唇を窄ませる神様は可愛い。みかんをあげたくなる可愛さだ。
だがここで許したら、今後要求されるサイズが大きくなっていく一方。可愛さに屈してなるものかと心を強く持つ。
「明日なんてすぐ来ますから。畑の野菜もそう遠くないうちにできますし、そうしたらゼリー以外も」
「ふむ、確かにトマト料理というのも悪くないな。今日はそれで手を打とう」
「いや、今日はまだ緑なのでまた今度」
「もう赤くなってるぞ」
「へ?」
確かに朝見た時にも実は付いていたが、こんな短時間で赤く変わるものでもない。だが神様は「もう食える」と続ける。
「神レベルが上がったことで、神域への影響も強くなったのだ」
「え、マジですか? 聖域化の恩恵大きすぎません?」
「それに関してはロゼとにゃん太郎の活躍で食神の力の一部が戻ったにすぎん。まぁ実際に見てみるといい」
もらった桑の実をバッグにしまい、聖域の外に出る。
畑まで走ると畑には野菜がどっさり実っていた。芋を植えた場所でしゃがみ、ツルを引っ張る
「芋もできてる! ジャガイモだ! 小麦はまだっぽいけど、豆は枝豆かな? なら少し取って、残りは大豆にするのがいいかも。モヤシも欲しいなぁ〜」
「それは美味いのかにゃ?」
あとから追いかけてきたにゃん太郎は、感動で震える私と芋を交互に見て首を傾げる。芋を初めて見たのだろう。前世のジャガイモと同じ味の確証はないが、芋の食べ方はだいたい決まっている。悩む必要はない。
「美味しいと思う。とりあえず蒸して食べよう! トマトは魚と一緒に煮るとして、枝豆はやっぱり茹でて塩だよね! 塩あってよかったぁ〜。今日の食事は超リッチになりそう」
「ゼリーと名付けも忘れるでないぞ」
「もちろん! って名付け?」
はて? と首を傾げると、神様は聖域から一緒に出てきたモスを指差した。
「こやつには種族名はあっても、個体名がない。群れの長であるこやつに早く名を与えてやれ」
「名付けってここでいいんですか?」
「神獣登録は済んでいるから問題ない」
「ちなみに本人の希望は」
「ロゼに決めて欲しいと言ってるにゃ。我が輩とおんなじだにゃ」
「モスはダメ?」
「種族名だからな」
「ならモスのもっさんとか、蛾のガーさんとか」
モスは糸を吐き、宙にバツ印を作り出す。他の名前にしろと言うことか。
「種族名とは違う名前がいいらしいにゃ」
モスの言葉が分からない私のために、にゃん太郎がモスの言葉を代弁してくれる。
「うーん、もふもふだからモフちゃん?」
目の前の糸は形を変え、歪な丸になった。
悪くはないが微妙だと。通訳してもらわなくとも、これが遠回しの却下であることはなんとなく分かった。
「なら女王個体からクイーン、トランプのクイーンから取って、キューちゃんっていうのはどう? クインでもいいけど。どっちも可愛くない?」
「クインよりキューちゃんがいいと思うにゃ」
「クイーンはそのまますぎるからな。キューちゃんの方がよかろう」
にゃん太郎と神様はいい名だと褒めてくれる。
だが肝心なのは本人の意見である。悩むモスの様子にゴクリと唾を飲み込む。そして糸を吐きながらパタパタと浮遊するモスが作り出したのは、大きな丸だった。
「じゃあ『キューちゃん』で!」
名を呼ぶと、キューちゃんがピカッと光った。
光が収まると、首元には緑のスカーフが巻き付いていた。
モッフリとした白い毛によく似合う。
あのスカーフが信者の証なのだろう。にゃん太郎の首輪と同じだ。
「よろしくね、キューちゃん」
手を伸ばすと、キューちゃんのちっちゃな手が指先に触れた。モスって手あるんだ。にゃん太郎ほどではないが、もっふりしていて可愛い。
「じゃあ他の子の名前も……」
「その必要はない。あやつらの名は群のボスであるキューちゃんより個別に与えられることとなる」
「そうなんですね」
キューちゃんは早速聖域に向けて飛び立つ。ドアの開け閉めも器用に糸で行っている。私が手助けする必要はなさそうだ。
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