6.女王候補の繭玉
「ここは……小屋の真横か!」
聖域のドアは普段私達が利用している小屋の真横に新設されていた。
てっきりダンジョンに向かうドアの横、もしくは、神域の端っこにくっついているものだと思った。
これだけ近ければ、畑の水やりくらい気軽に行き来ができる。
「壁にくっついてるのに、小屋の中じゃなくて別空間に飛ぶの凄いなぁ」
聖域のドアを開きながら、結合部分に触れる。
ドアを閉めたら、完全に小屋の勝手口だ。場所もキッチンの辺りだし。
「ロゼよ」
感心していると、表の入り口から神様がやってくる。
大股で距離を詰めてくる様子から静かな怒りを感じる。腕を組み、完全にお説教モードである。
「この状況を説明しろ。なぜ我が神域にドアが新設されている。神獣もどうやって登録した! 我は把握しておらんぞ!」
怒っているというより、混乱しているようだ。
だが私だってこの状況を正確に理解しているわけではないのだ。
「私もよく分からないんです。聖域化ってやつを了承したらこうなって」
「聖域とは何だ」
「え、神様も知らないんですか? 私もミッションのアナウンスが来てから初めて知って」
「ミッション? 新たな空間に繋がるドアが出現することなど今まで一度もなかった」
一瞬、神様の眉間に皺が寄った。
神様もミッションの存在を認識していない様子。だが今は聖域の方が気になるようだ。新たに生まれたドアをぺたぺたと触っている。
「中はこんな感じで。ダンジョンからは切り離されて、今は神域と結合している状態らしいです」
聖域に続くドアを全開にして、中の様子を見せる。
神様は首を伸ばして聖域内を確認する。そしてドアの中に向けて手を伸ばした。
「ふむ、我も入れるようだな。となると、神域が拡張されたということになるのだろうか」
「私もよく分からないんですよね。中にモス達がいるので、是非会っていってください。聖域化する途中で、神様の支配下に入ったようなんですけど、みんな外に連れ出すのはちょっと大変なので」
「食神のモスとやらだな。種全体に名付けるにしても、もっとマシな名はなかったのか」
「私が付けたんじゃないですよ!?」
「そうなのか?」
あらぬ疑いをかけられながら、聖域の中に進んでいく。
「こっちにゃ~」
一足先に進んでいたにゃん太郎がモス達を集めていてくれた。
アナウンスにあった通り、八体のモスがズラリと並んでいる。
「こやつらが、にゃん太郎が助けたいと言っていたモス達か」
「元気になったにゃ!」
「ふむ、そのようだな」
神様はその場にしゃがみ込み、モス一体一体の様子を確認する。
するとモス達がモゾモゾと動き、中心から巨大な繭玉が現れる。
胸の前で抱きかかえられそうなほど大きい繭が三つもある。今までどこに隠していたのだろうか。
モスはそれらをずいっと自分達の前に押し出す。
「殊勝な心がけだが、お主らからの供物はロゼを通して受け取っておる。それはロゼにやるといい」
モス達は身体の方向を変え、私の方に繭玉を差し出す。
おそらく彼らにとって大切なものだと思うのだが、断るのも悪い。
「ありがとう。神様に何か作るときに使わせてもらうね」
「釣り竿を作る時に使えるぞ」
「さすがに絹を釣り糸に使うなんて勿体無いことは」
「女王候補の作った糸ともなれば、かなりの強度があるだろうな」
「女王候補?」
「話を聞いた時は滅びを待っている状態だと思っていたが、女王個体を抱える群れだったとはな。ロゼの行動はやはり想像できん」
神様は「あやつが女王候補だ」と群れの中心にいる小さな個体を指さす。
他の個体との違いがイマイチよく分からない。ひとまずあの子が群れのボスという認識でいいのだろう。
「モスを助けたいって言ったのも、行動を起こしたのもにゃん太郎ですよ。私はゼリー作ったくらいで特に何も……。なので、この繭玉で神様が使いそうなもの作りますね。先にここから糸や綿に加工する方法を調べなきゃですけど」
「その程度であれば、釣り竿と同じく念じればできるぞ」
「え、マジですか?」
「嘘などついてどうする」
ひとまず繭玉の一つを抱きかかえ、布になれと念じる。
すると腕の中にあった球体が平たい布へと変わっていく。
「うわああああ、めっちゃシルク」
「絹だからな」
「量も結構あるし、残りの二個で真綿と絹糸作れば半纏でもできちゃうかも!? 神様、100%シルク半纏とかどうですか! 半纏自体作ったことないので、先に練習しないとですけど、大事にすれば長く着れますし! 半纏作るなら赤いのがいいな~。着色ってどうやるんだろう?」
「半纏というのはよく分からぬが、布の着色ならそれに適した素材と布を一緒に持って念じればいい」
「結構お手軽な感じなんですね!」
そうと決まれば、練習用にゴブリンの布を大量に確保しなければ。
先に神様の採寸をして、型紙も作らなきゃだし、やることはいっぱいだ。
「寒くなるまでに間に合わせるので待っててくださいね!」
「神は寒さなど感じぬが」
「楽しみだなぁ」
絹の布を抱きしめながら、思いを馳せる。
足元で動くモス達もまた喜びを表しているようだった。
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