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4.聖域化

『特殊ミッション【運命に抗いし者】が発生しました』

「ん? 特殊ミッション? クエストじゃなくて?」

「何にゃ?」


 想像とは違うアナウンスに、にゃん太郎と2人で首を傾げる。

 アナウンスは私達の疑問を置いてけぼりにしてなお続いていく。


『種の弱体化を確認。絶滅危惧レベルと推定。種の保存プロジェクトを推奨します。創造神コインを1枚消費して聖域化しますか?』

「種の保存プロジェクト? それに聖域化って何? 祭壇と違うの?」


 祭壇は乙女ゲームでも登場した。ざっくり言えば、信徒限定のセーフティーエリアのようなものだ。


 規模に応じて広さが変化し、大きな祭壇の周りなら野営も可能。小規模な祭壇であっても、回復アイテムが使用できたり、祈りを捧げることでデイリークエストの達成報告ができたり。あとはセーブポイントと、神域までの帰還装置も兼ねている。


 転生してみるとわざわざ祈りを捧げなくてもデイリークエストの報告はできるし、回復アイテムなんて好きなタイミングで使えばいいので、ゲームシステム的な意味が強いのだが。


 祭壇の多さは信者の多さや信仰力の強さとも直結する。

 神レベルによってダンジョン内に作れる祭壇数が決まり、信者レベルが高い信者は任意のダンジョンに祭壇を新設・移動できる。


 つまり物語後半までに信者レベルを上げておくと、ラスボス手前でセーブポイントを設置できるのである。またレアアイテムをドロップするボス部屋手前に設置して、セーブ&ロードをひたすら繰り返すという使い方もできる。


 そんなわけで祭壇ならゲームでも馴染みがあるし、ルートによっては祭壇を設置するイベントもあった。だが記憶を掘り返しても、聖域なんて言葉は出てこなかった。



『創造神コインを消費して聖域化しますか?』

「祭壇のでかい版ってこと? でも初心者向けダンジョンの二階層に作ったって仕方ないしなぁ」

『創造神コインを消費して聖域化しますか?』

『創造神コインを消費して聖域化しますか?』

『創造神コインを消費して聖域化しますか?』


 乗り気ではない私を責めるように同じ言葉が繰り返される。にゃん太郎も驚いて周りを見回している。だがそんなのもお構いなしに、同じ質問が繰り返される。


『創造神コインを消費して聖域化しますか?』

『創造神コインを消費して聖域化しますか?』

『創造神コインを消費して聖域化しますか?』


 まるで壊れたラジオだ。

 耳を塞ぎ「少し静かにして」と文句を溢す。


『創造神コインを消費して聖域化しますか?』『創造神コインを消費して聖域化しますか?』『創造神コインを消費して聖域化しますか?』『創造神コインを消費して聖域化しますか?』『創造神コインを消費して聖域化しますか?』『創造神コインを消費して聖域化しますか?』『創造神コインを消費して聖域化しますか?』


 息継ぎなしのアナウンスが濁流のように押し寄せてくる。

 文句を言った途端に倍速再生になるとは思わなかった。試練の間でも返事してくれてたし、意外とアナウンスにも意思や思考が宿っているのかもしれない。


 顔の前で両手を合わせて、「ごめん。ちゃんと考えるから! だから、もっとゆっくり話して。マジで酔う」と許しを乞う。


 するとピタリと質問が止んだ。

 やはり話せば分かってくれるタイプのようだ。ありがたい。


「考えるにしても、そもそも聖域がよく分かんないんだよね。神域とか祭壇と違うの?」

『創造神コインを消費することで、モスの生息地を聖域化することができます』

「なるほど。でもそれってモス達の居場所を乗っ取るってこと?」


 質問に返してくれたのをいいことに、新たな疑問を投げかける。


 聖域とは、一般的には犯してはならない神聖な場所を指す。そんな場所で魔物であるモスたちが生きられるとは思えない。


 ましてや食事をするのもやっとなほど弱っている子達だ。

 ゼリーを用意したくらいで助けられるとは思っていないが、自分たちの手で引導を渡したいとも思っていない。


「っ!? そんなのダメにゃ!」


 私の質問に真っ先に答えたのは、にゃん太郎だった。尻尾をピンと立てて拒絶の意思を示している。


「そうだね。じゃあ私達の答えは『聖域化はしない』ってことで」


 はっきり『ノー』を伝える。

 これでアナウンスは止まる――かと思いきや、新たな情報を伝え始める。


『この場の個体はすでに食神へ供物を捧げているため、排除対象には含まれません。聖域化が拒否された場合、このまま種の絶滅が進行します。本当に聖域化をしない、でよろしいでしょうか?」

「えー、めっちゃ聖域化ゴリ押してくるじゃん……」


 機械的な声とは裏腹に、人間のような説明だ。


 モス達がした供物とは、おそらく私が先ほど神様に紹介した桑の実のこと。

 ゼリーに調理すると伝えておいてきたのだが、あれでも捧げたカウントになっていたらしい。


「聖域化はいいことなのかにゃ?」


 大事なアイテムを間違って捨てないように何回も出てくる警告文のようなアナウンスに、にゃん太郎の心は揺れ始める。


 私も正直どうするのが正解か分からない。腕を組んでうーむと悩む。

 するとこれ以上ない名案が浮かんだ。


「そうだ! 一旦保留にしといて、神様と相談してくるのはどうかな」

「それはいい考えにゃ!」


 こういうのは分かる人の意見を聞くに限る。


「じゃあもっかい帰ろう」


 意気揚々と通路に出ようと一歩踏み出した。


「いてっ」

「にゃにゃ!?」


 私とにゃん太郎はほぼ同時に何かにぶつかった。何かを確認しようと手を動かしてみる。すると通路と部屋との間に透明な壁のような物が発生していた。


「こんなのさっきはなかったのに……」

『特殊ミッション発生中は対象エリアからの離脱ができません』

「この場で選べってことか……」


 神様への相談は認めない、と。


 振り出しに戻ってしまった。

 ぶつけた額を押さえながら部屋の真ん中に移動し、にゃん太郎と顔を見合わせる。


「聖域化したらこいつらは嬉しいのかにゃ?」

「確かに絶滅とか種の保存云々言われても、結局は当人の意思が一番大事だよね」


 にゃん太郎の質問に、モスたちが一斉に鳴き出した。


「これは、どっちの意味?」

「任せると言ってるにゃ」

「一番困る答えじゃん……」

「でも我が輩は、助かるなら、助けてあげたいにゃ」


 にゃん太郎はゆっくりと、けれどはっきりと自分の意思を伝える。


 そもそも聖域とはなんぞ? と同じところでグルグル悩み続ける私とは違い、一貫してモス達のことを考えている。


 清々しい決定に私は全力で乗っかるだけだ。


「そっか。じゃあ聖域化する、でお願いします」

『聖域化を進めます。イエスorノー』

「イエスで!」

「イエスにゃ!」


 元気よく返事をする。

 すると先ほど追加情報を出してきたのが嘘かのように、シュルルルと音を立てて処理を開始する。


『聖域化を開始します。壁や通路から離れてお待ちください』


 駅のアナウンスっぽいのが流れると、四方の壁がドロドロに溶けていく。

 通路とモスの巣の境目には新たにドアが発生する。今度は透明な壁ではなく視認できるタイプ。それも神域に入る時のドアと同じ見た目だ。


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