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12.デイリークエストと神様のお世話

「ところでクエストってどこかに表示残しておくことはできないんですか?」


 今日は2つ、それも簡単なクエストだから忘れることはない。

 だがクエストは信者レベルの上昇や信者歴に応じて徐々に増え、複雑化していく。そうなるとド忘れしてしまう可能性がある。


 こういうのは早めの確認が重要なのだ。


「今の我では無理だ。神力が足りん。だが聞いてくれたら答えるぞ。今日はゼリーが食べたい」


 神様はどこからかスプーンと皿を出し、左右に構える。

 昨日よりも積極的だ。よほど昨日のゼリーが気に入ったのだろう。


「なら探索開始する前にゼリー作りましょうか。スライムの核なら昨日確保した分があるし」


 神様はスッとテーブルセットに移動した。早い。おやつの時間の子供のよう。


 昨日と同じ要領で2種類のゼリーを作り、固い方を平たい皿に、ドロリとしたものをコップに注ぐ。


 神様の前に置くとピコンっと音がした。

『デイリークエスト【固さの違うスライムゼリーを2種類供えよう】を達成しました』


 神様の前に出す=供えるという認識らしい。

 当の神様はデイリークエスト達成通知を気にした様子はない。コップを持ち上げながら、中を覗き込んでいる。


「ここまで差を出してくるとはな。ドロドロのは初めてだ」

「飲むゼリーを意識してみました。本当はストローでもあれば良かったんですけど……」

「すとろー?」

「飲み物を飲むための管みたいなやつです。それがあったらもう少し固さを出して、自分で好きなところまで崩してもらえたんですけど……。代用品になりそうなものが見つかったら出しますね」

「うむ」


 神様はコップを両手で持ち、ごくごく飲んでいく。

 相変わらず味はないはずなのに、いい飲みっぷりだ。早めに横道の奥にあるオレンジも収穫したいものである。



「神様、実は聞きたいことがあって。言いたくなかったら『黙秘する』って言ってもらって全然構わないんですけど」

「前置きが怖いが、昨日のようなことをされても困る。聞くだけ聞こう」

「その爪、何か理由があって伸ばしてますか?」

「爪?」

「スプーンを握りにくそうにしてるのが気になって。今もゼリー飲む時に爪同士が当たりかけてましたし、特別理由がないなら切った方が安全かなぁと。慣れてるならいいんですけど、ほっぺ掻く時とかガリっといったら痛いじゃないですか」


 その言葉に神様は自分の爪を眺める。そして小さく「言われてみると長いな……」と呟いた。


 私は基本、本人が困らず他者に迷惑をかけないのであれば、長い爪を見ても長いなぁと思う程度である。前世でもネイルをする機会は少なかったが、爪を綺麗にしている人達を見ると可愛いなぁと思うくらいの興味はある。


 だが長い爪に慣れている人とそうでない人とでは、危険度や日常生活でのストレスが異なる。長い爪の攻撃力は高く、同時に脆いのである。


「今日は爪切りも持ってきたのでよければ使ってください」

「ん」


 爪切りを取り出すより先に、神様が両手を差し出してくる。

 一瞬意味が分からずに固まる。


「私が切るんですか?」

「神たる我が自分の身を削ることなどできん」

「その考えだと、私が切ったら神を害したってことになると思うんですが」

「信者が神の世話をしたことになるだけだ。信者ポイントも上がるぞ」

「人の爪切るの怖いんですけど……。ちょっと長めに切って削ろ」

「人ではなく神だがな」

「ますます失敗を許されない感が強いじゃないですか。頑張るので、何かお役立ち情報ください」


 ゴミを持ち帰るように持ってきていた、メモ用紙を机に敷く。以前父からもらった封筒を解体したものだ。その上で爪切りを始める。


 私の軽口に神様はしばらく考える。

 静かな小屋にパチンパチンと小さな音が響く。メモ用紙の上に少しずつ爪が溜まっていく。切れた爪を見ると改めて、相当伸びていたなと実感する。


「昨日おぬしが帰った後も考えたのだが、やはり猫とやらに関する記憶はなかった」

「あ、それなら兄から聞きました。猫の亡霊って呼ばれていて、にゃーんって声が聞こえたら煮干しを投げて逃げるといいらしいです」

「ゴースト系の魔物は第1階層には出現しない」

「それが、どうもゴースト系の魔物ではないらしいです。外から迷いこんだ猫がお腹を空かせてるんだったら可哀想ですよね……」

「その可能性はない」


 神様は私の考えを即座に否定する。


「猫ちゃんだってお腹が空いたら鳴きますよ?」

「我が否定したのは、猫が迷い込んだ可能性だ。ダンジョンにはいくつもの誓約が存在し、その中には地上の動物が住みつかないようにするためのものもある」

「ということは捨て猫か……。わざわざダンジョンに捨てていくなんて、こっちの世界でも酷いことする人がいるんですね」

「いや、人間が持ち込むこともできない。……いや、待て、こっちの世界とはどういうことだ?」


 指摘されてハッとした。言われるまで、自分の口からぽろっと出ていたことにさえ気づいていなかった。


 かといって相手は神様だ。下手に誤魔化したところで意味はないのだろう。

 今は見逃してくれても、答えが出るまで今日の話を覚えていそうだ。私がまた口を滑らせないとも限らない。


 なにより、今の私が気楽に話せるのは彼だけなのだ。

 神様とはいえ、こうして普通に話してくれる相手に嘘を吐くのも不誠実というものだろう。


「あー、信じてもらえないかもしれないんですが、実は別の世界で死んでこの世界に転生したんです」


 我ながら怪しさ満載の説明だ。

 ちょうどいい言葉が浮かばなかったのだから仕方ない。転生者ならではの気の利いた話とかなかったかな~と頭の中を探る。


 だが神様の反応は意外にもアッサリしたものだった。


「そうか、おぬしは果物が入ったゼリーがある世界から来たのだな」

「それだけ? 納得の仕方はともかく、飲み込むの早すぎません!?」

「入信初日で髪を切った衝撃に比べればどうということはない。それに異世界で育ったということは、異世界の料理に関する知識もあるということだろう? 我は美味い食事が食べたい。デイリークエストに慣れてきたら、食材だけ指定して当てはまる料理を作らせるのもありだな」


 神様は早くも未知の料理に思いを馳せる。

 転生者発言より食い気が圧勝したようだ。怪しいやつだと思われなくてよかった。いや、神様にとって私はすでに変な奴だ。


 変な奴だからこそ、特に疑われず受け入れられたという謎の状況に立たされている。


「誠心誠意作らせていただきますね」

 爪を切り終え、今度はヤスリで長さを整える。手が終わったら、足も同様にさっぱりと。


 ダンジョン探索2日目。

 神域でせっせと神様のお世話をしているうちに、気づけば信者レベルは2に上がっていた。




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