94 災厄と竜の魔力 1
レティは、いつのまにか、フリーディル伯爵家の一室を自分の部屋にしている。
レティの部屋は、植物だらけで、まるで小さな森の中みたいだ。
「えっと、床から直接、植物が生えているような気がするけど?」
「土魔法の応用よ!」
「えっと、戻せるの?」
「半永久的に、お手入れ要らずで生え続けるわ!」
……戻すことは、半永久的に出来ないらしい。
恐る恐るその話を父にした。
「部屋はたくさんあるから、一つくらい構わない。リリーベルは、植物が好きだったから、喜んだだろう」
父は笑っていた。フェイが住み始めた時もそうだったけれど、冒険者をしていたせいか、元々なのか父は懐が深い。
その時、ピクッと、レティの耳が動いた。
認識阻害魔法は、私と父相手は解除しているらしい、レティの耳は尖っている。
「あら、そろそろ師匠のところに行ってくるわ」
「え? どうしたの急に」
「二人の邪魔をしないように、言われているの」
その意味は、レティと入れ替わって入って来た人物を見た瞬間に分かった。
……先触れもなしに、王太子殿下が訪れるなんて。
常識的に考えたら、あり得ない。でも、おそらく転移魔法を使って、今日も公務の合間に来てしまったに違いない。
「アレス殿下……。また、無理して」
アレス殿下は、無理ばかりする。
私に会いになんて来ないで、呼び出してくれればいいのに。
「ルル。たまに魔力を使わないと、溢れるから」
それが、事実なのか言い訳なのか、私には判断できないけれど。
会いに来てくれて、嬉しいって素直に言えたらいいのに。
「それに、今日は内密な話だ。ルドルフ殿の屋敷の方が都合が良い」
その言葉に、フェイのお腹の上にいたクロが、ピクリと反応した。
「竜の卵……。見つかりましたか?」
「やはり、シュルツ侯爵家元嫡男、ディルクが持っていったようだ」
「そうですか」
「キュウウウ……」
哀しげなクロの鳴き声が聞こえる。
生まれたばかりでも、竜の知性は高く、確実に難しい会話も理解している。
私は、思わずクロを抱き上げる。
「クロの家族。見つけるから」
「キュ!」
どちらにしても、災厄には竜の魔力が関係している線が濃厚だ。それならば、私たちは、近いうちに向き合うことになるだろう。
その時に、なにができるかは分からないけれど、今もまだ私が生きている意味は、きっとあるに違いない。
「アレス殿下……」
「ああ、おそらく実験施設があるはずだ。ルルーシアは、災厄がどこで初めに発生したか、覚えている?」
小説の中には、災厄は自然現象として描かれていた。おそらく、情報は秘匿されていたに違いない。
「分かりません。でも、物語では、冒険に出ていたカトルが、アイシラをピンチから救うんです。それが、災厄の始まりでした」
そういえば、物語ではA級だったカトルは、竜の力を手に入れて、S級冒険者になっている。
アイシラは、今は、聖女を目指して修行の旅をしているという。
連絡が途絶えているけれど、カトルは今、どこにいるのだろう。
「そうか。まず、アイシラと接触するべきだな」
宙ぶらりんの、私のS級冒険者ライセンス。もしかしたら、私だけでも、S級になれば、極秘で行動しているカトルの行方もわかるかもしれないけれど……。
「……ルルが、S級冒険者になって、もし緊急依頼が発動されたら、絶対俺も行くから」
戦えば、体への負担が大きすぎるアレス殿下のその言葉。どちらにしても、災厄の時には、アレス殿下は、迷うことなく力を使うのだろう。
それならせめて、今から負担をかけたくはない。
「……まずは、アイシラに会いに行きましょう」
「俺も行くからね?」
「……仕事どうするんですか」
「優秀な弟がいるから、平気だよ」
王位争いを降りても、リベラ殿下は、働かされるらしい。
「それに、レイチェル嬢のためにも、二人に実績を作らせた方がいいから」
たぶん、私の考えが及ばないところまで、アレス殿下は考慮しているのだろう。
私のことを逃すまいとでもいうように、強く握られた手と、少し澱んだ瞳に気がつかないふりをして、私はそう結論づけた。
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