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【電子書籍化】悪役令嬢(!?)の鑑なんてごめんです! だから殿下、ついて来ちゃダメです。  作者: 氷雨そら
破滅なんてゆるしません。だから殿下、一緒に抗ってください。

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92 災厄の足音。幸せな時間。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 なぜか、アレス殿下に強引に乗せられた、馬車の中は沈黙が支配していた。

 怒っているのだろうか、顔色が悪いままのアレス殿下は、押し黙っている。


 ――――それとも、調子が悪いのかしら。


 私は、心配になって、胸の前で組まれた腕にそっと手を添えた。


「――――あの」


「ルル……。もしもだけど」


「アレス殿下?」


 怒っているのではなかったらしい、真剣な表情のままアレス殿下は私のことを見つめてきた。

 その青い瞳が、何かを決めかねているようにゆらゆら揺れている。


「災厄を未然に防げなかった時には」


 あまり想像したくない話だ。

 小説の中では、災厄の原因は自然現象のように描かれていたけれど、実際は違う可能性が高いという。


 でも、王国だけではない、世界中で犠牲者が出るのだ。


 その災厄は、もう起こり始めている。そんな予感で胸が締め付けられる。

 そして、次に続く言葉なんて、私は聞きたくなかった。


 アレス殿下が言いそうな言葉なんて、もう想像がついている。

 そんなときに、保身のために目を瞑るタイプではない。


「いいですよ。今度こそ最後まで一緒に抗いましょう。前回みたいに、途中であきらめたりしないので……。全力で」


「そう、全力で……ね」


 多分その時に、なんだかんだ言ってもアレス殿下は、私のことを守ろうとする気がした。

 それは、今までの出来事すべてが証明してしまっている。


 前の人生で知らなかった私は、ある意味幸せだったと思う。

 でも、それではいけない。


「まあ、災厄なんて起こらないほうがいいに決まっている。未然に防ぐために、全力を注ぐべきだな。……弱気になった」


 でも、結局のところ、世界にとっては最悪の結末だとしても、私個人という枠組みであれば、幸せなのかもしれない。


「アレス殿下と、最後の瞬間まで一緒にいられたことは、実は人生最高の幸せだったんじゃないかと思うんです。だから、そばにいてください。そうすれば、私はどんな結末でも幸せだと思うので」


「うん……最後に見るのが、ルルの笑顔だとしたら、俺も最高に幸せだ」


 それでも、それは私たちが、おじいちゃんとおばあちゃんに、なってからがいい。

 たくさんの家族に囲まれて、アレス殿下のことをもっと幸せに……。


 たくさんの……家族。

 笑顔のアレス殿下と、ほほ笑む私。

 たぶん、幸せそうに、愛しそうに撫でたおなかの中には……。


「今、何を想像したの? 俺に教えてほしいな、ルル」


「なっ、何も考えていません。白昼夢も見てません! アレス殿下と結婚した後の生活なんてっ」


 ――――ん? ポロリと思ったことが、零れ落ちてしまった。


 とたんに私の頬は、真っ赤なリンゴに負けないくらいになっただろう。

 いたたまれなくて、ぎゅっと目を閉じる。

 静かなところを見ると、アレス殿下は、余裕の表情で私のことを、見ているに違いない。


「あ、アレス殿下?」


 それなのに、いつまでたっても、私の言葉に対する返答はない。

 私は、次の瞬間にはパチリと開いた瞳を瞬いていた。


 大きく見開かれた、海よりも青い瞳。

 わなわなと震える、形の良い唇。

 悪かった顔色が嘘みたいに、赤く染まった耳元。


 ――――なにそれ。


 あまりに可愛らしい無防備な表情が、私の目の前にさらけ出されていた。


「そ……だね。それは楽しみだな」


 次の瞬間、私の上にはアレス殿下がのしかかってきていた。

 馬車の揺れの中、しゃべることもなく、お互いを見つめあう。


 その瞬間、微かに地響きが聞こえた気がした。


「死神に今が、人生の最高に幸せな瞬間だ。後は下るしかないと言われても、幸福の中で納得してしまいそうだ」


「えっ、さすがにもっと上はありますよ」


 災厄の足音は、すぐ近くまで近づいている。

 そのことはわかるけれど、明日の心配ばかりしていても、私たちは生きていけない。


「私、もっとがんばりますから」


「そう? じゃあ、俺もうかうかしてはいられないな」


 アレス殿下が、うかうかしていたことは、一度もないのに。

 忙しすぎるし、努力家だ。努力する天才の隣に立つために、私はどれほど頑張ればいいのだろう。


 不思議なことに、それはとっても難しいことに思えるのに、絶望的にも思えなくてとても楽しいことみたいに感じてしまう。そのことがおかしくなって、いつのまにか私は笑ってしまっていた。


 

最後までご覧いただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アレス殿下の無防備な表情(〃ω〃) と二人の可愛らしい様子にほっこりしました 二人が寄り添いあった幸せな未来が来ますように〜
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