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48話


 連合の解散。

 怯える群臣達は大いに落胆しながら、董卓を褒め称えた。


 解散の報を聞いてから、どこか張り詰めた糸が切れたように、董卓は驕った振る舞いを繰り返すようになる。

 まるで、天下は自分のものだと言わんばかりに。


 その一例として、天子しか乗れない馬車を乗り回し、また長安と同じ高さの壁を持つ城塞を築き、そこに三十年以上の食料を備蓄し始めた。

 更には宮廷で働く侍女や宮女の内の美女は、全て董卓に召し上げられた。


 城塞は名を郿城びじょうと呼び、極めて堅牢な作りになっている。

 大軍に囲まれても、少数の兵力で何十年も耐えられるような堅牢さであった。


 涼州兵は長安から洛陽にかけた肥沃な土地に暮らす住民への略奪を許され、董卓の周囲だけが豊かに、そして朱色に染まっていく。

 あまりの惨劇に、民は嘆き苦しみ、群臣は恐怖に飲まれていた。


 しかし、頼みの綱であった連合は解散した。

 救いのない日々が、無意味に過ぎ、明日の自分の身を案じ続ける日々であった。



「儂に、何か用かな?」


 老いながらもその肉体は壮健であり、強い光を放つその瞳には、類稀な才智を感じる。

 名を「王允おういん」。蔡邕と並び、董卓政権を支える屋台骨の一人だ。


 王佐の才を持つとまで称される才覚、そして黄巾の乱の鎮圧に貢献した程の武勇も持つ。

 まさに文武両道の名臣であり、現在の漢王朝は、彼の両肩に委ねられていると言っても良い。


 それ程の人物であった。


「あるお方の使者として、参りました。非公式にお会い頂き、感謝します」


「名は?」


「翠幻と申します。主の名は、明かせませんが、お察しいただけるかと」


「ふむ」


 広い書室であった。


 王允は決して警戒を怠らず、抜身の剣を握り、床に立てていた。

 また、翠幻との距離も遠い。


「早速だが、用件を聞こう」



「──相国を、暗殺なさろうとお考えの様ですが、どうか考え直していただきたい」



 王允は咄嗟に懐から短剣を取り出し、翠幻へと投げつける。

 地面を転がり、短剣をよけ、顔を上げる。


 目の前には剣の切っ先が迫っていた。


「どこで聞いた」


「分かりません。主の言葉をそのままお伝えしたまでですので」


「生きて帰れると思うてか」


「王允様が殺めようとなされているのは、たかが鼠一匹です」


 荒い息を整え、刀身を鞘に納める。

 翠幻もまた、その場に座りなおした。


「董卓は、あまりにも勝手が過ぎる。このままでは国が亡ぶ。董卓以外の人間は、皆死んでしまう。儂のこの『王佐の才』は、国を亡ぼす為に使うべきものではない!」


「どうか、ご冷静に。果たして、董卓一人を討ったとて、この国は救われますでしょうか? 聡明な王允様には、その点をお考えいただきたく」


「どういうことだ? 董卓は絶対的な象徴だ。それを折らねば、国を正道には戻せぬ」


「董卓が居なくなれば、その下に付き従う獣は一斉に首輪から解き放たれます。いわば猛獣の飼い主こそが董卓です。飼い主を殺した後、その猛獣らを誰が抑えるのか、それを考えるべきです」


「漢にはまだ功臣が多い。董卓如きの代わりなど、いくらでも居る。儂も、この微才を尽くそう」


「力で、董卓をねじ伏せられるものが、本当に? 正面からねじ伏せる者が。董卓以上に軍事に狡猾で、力ある者がおりますでしょうか?」


 王允は口を噤んだ。

 才覚こそあれど、激情で視界を狭めてしまう悪い癖がある。


 しかし、その激情が冷めれば、当世きっての俊英な頭脳は、物事の本質を容易く捉えてみせた。


「では、誰が董卓に成り代われる。その人間の登場を、儂はいつまで待たねばならん」


「我が主が、成り代わってみせます。王允様の才が活かされるのは、その時です」


「……劉協、陛下」


 静かに、呟く。

 翠幻は何も言わず、ただ頭だけを下げた。


「主は近い内に立つと申しております。王允様にも、是非、ご協力いただきたい」


「あの董卓と対等に言葉を交わされているのは、今や、陛下のみにあらせられる。天に選ばれし『劉』の血脈。信じて良いかもしれん」


「董卓と、戦にて決着をつける。それ以外に、この漢王朝再興の道はありません」





 鬼の居ぬ間に何とやら~。


 董卓が郿城にかかりっきりで長安は不在ってことが結構多いので、何だか息が楽です。


 でも、可愛い子が全員あっちに引っ越したのはマジで許せない。

 正直に言えば、漢王朝どーこーよりも、目の前から綺麗なお姉さんが居なくなったことに対する恨みが深すぎる。


「……はぁ」


「なんで私の顔見て溜息を吐くのかしら?」


 そんなに青筋立てんでもイイやん。


 長安に移ってからは、蔡文姫との縁談の話が進み、今は同じ屋敷で暮らす仲であった。

 まぁ、屋敷っていうか、後宮かな?


「い、いや、お前に溜息吐いたわけじゃなくてね、ほら、えっと、董卓が好き放題やってるなーって、ね?」


「確かに、益々横柄さが増しましたね。父も何度か諫めているのですが、あまり聞き入れてもらえないようで。陛下の心中もお察しします」


「ほんとだよ! 特に俺のお姉さん達を奪っていったのが許せないよね!」


「陛下?」


「へ?」


 ダメだなー、俺の口って脊髄に繋がってるのかしらん?


「何で夫婦になる女性を前にして、他の女性にうつつを抜かせるのですか?」


「え、こわいこわい」


 蔡文姫が持つ墨のついた筆が、ナイフに見えるのはなぜだろう。

 俺こういう女性の事よく知ってる! メンタルがちょっと不安定なアレだ!


 助けて! 敵は董卓だけじゃ無いっぽい!!



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― 新着の感想 ―
[一言] 今までは殆ど史実と変わらず逆行転生の意味は無かった。 8歳ではどうしようも無いか。 ここからが本番かな。むしろここから本編スタートしても・・・ 色々溜まったヘイトは三國無双して董卓苛めしてく…
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