↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三国志の「劉協」になったけど、漢は滅亡寸前でした ~献帝が狂武帝と諡されるまで~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
第四章 狂武帝「劉協」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/94

49話


 黄巾の乱。


 それは、後漢王朝の息の根を止める程の、大規模な「民」の反乱であった。


 民の反乱ほど、王朝に与えるダメージが大きいものは無い。

 放っておけば王朝は瓦解するし、鎮圧すれば自分の臓腑を抉(えぐ)り出すも同然なのだ。


 総勢百万とも呼ばれ、各地で勃発した未曽有の大反乱を鎮圧したのは、後漢王朝最後の名将達である。


 特に名を上げるとすれば、誰もが「皇甫嵩(こうほすう)」「朱儁(しゅしゅん)」、この二人を挙げるだろう。

 彼らの戦功は華々しく、黄巾の乱は実質、この二人の手によって鎮圧されたと言っても過言ではなかった。


 そのうちの一人、朱儁(しゅしゅん)。

 連合にも呼応せず、董卓に従順な意思を見せていたこの老将が、ついに動いた。


 無理な遷都、洛陽への放火、目に余る董卓の横暴。

 これを見かねて、我慢を抑えきれなくなっての挙兵である。


 場所は、洛陽から東、河内である。



「やっと動いたか」


 報告を聞いた董卓は、その太った体を椅子に預け、大きく溜息を吐いた。

 立ち並ぶ群臣は、その一挙手一投足に怯え、頭を下げている。


 今までの、董卓の目に余る横暴は、この老将を動かす為のものだったと言って良い。

 やはり、彼の軍部における名声は計り知れないものがある。老いたとはいえ、王朝の「英雄」なのだ。


 それに、コンプレックスもあった。

 董卓は「黄巾の乱」鎮圧軍の大将として、彼らと肩を並べ参戦したが、敗北。

 慣れない土地や、兵馬だったとはいえ、この事実が自分のプライドを大きく傷つけていた。


 皇甫嵩(こうほすう)は、自分の手で既に左遷した。

 野心も無く、争いに身を投じる事をもう諦めていた英雄は、声を上げることなく牙を折った。


 しかし、朱儁は剛直であった。

 表では良い顔をしながら、その実は腸(はらわた)が煮えくり返っているのが良く分かった。


「牛輔」


「はっ」


「お前に任せる。兵は殺せ。ただ、あの老将は捕らえよ。丁重にな」


「御意」


「張済(ちょうさい)。お前は副将につけ。牛輔を補佐しろ」


「承知しました」


 この戦は、ただの鎮圧目的の戦ではない。

 朱儁(しゅしゅん)の鎮圧は、ただのきっかけである。


 鎮圧後、素早く豫洲へ侵攻し、潁川(えいせん)、陳留(ちんりゅう)付近まで実効支配する目的がある。

 特に陳留には、連合を呼びかけた「張邈(ちょうばく)」が居た。


 ここを潰し、完全に連合の息の根を止める。

 その意思表明で、諸侯の誰が敵か、味方かを完全に振り分けようと考えたのだ。


「相国、他にも懸念事項があります」


「ふむ」


 前に進み出るのは、董旻である。

 董卓は不快そうに鼻を鳴らした。


「涼州と、并州です」


 董卓の勢力の、中心地であった。


「涼州では、馬騰(ばとう)や韓遂(かんすい)の動きが活発になり始めています。また、并州でも賊徒の出現が多く、駐屯している軍が度々襲われています。一度、軍を派遣すべきかと」


「……不穏な事があると、袁紹の謀略を、疑ってしまうな」


「まぁ、無きにしも非ずかと」


「李粛」


「は、ハッ」


「しばらく并州に駐屯し、賊へ睨みを効かしておけ」


「私が、ですか」


「戦はするな、治めよ。それが出来るのは、我が諸将の中ではお前だけだ」


「御意。身命を賭します」


 そして、ギョロリと、その瞳は隣を捉えた。

 群臣がその視線に怯えている中、ただ一人。


 心地良い日光の暖かさに、ウトウトしているヤツが居た。



☆



「──陛下」


「……へっ?」


「聞いておられましたか?」


「え、あ、うん! まぁた、袁紹がやらかしてるなぁと思いました!」


 めちゃくちゃ寝てた。すまん。

 今日はなんだか話が長いなぁって思ってたんだよ!

 しかも、天気は良いし。仕方ないよね?


 あ、ごめん。めっちゃ大きい欠伸出た。


「陛下は、涼州地方の件、如何様にお考えですかな?」


「え、何かあったの?」


 珍しく董卓のこめかみに血管が浮く。


 何があったのかはよく分からんけど、感情が分かりやすくなったなコイツ。

 不摂生の為か、激太りしてるし。


 屈強な軍人から、恐ろしい暴君。

 立場がここまで人間の容貌にも変化を与えるんだな。


 それとも、逆か?


 董卓の代わりに進み出るのは、董旻であった。


「陛下。涼州では、馬騰(ばとう)や韓遂(かんすい)といった、中央より任官されている者らが許しも得ずに徴兵、訓練を繰り返し、不穏な動きを見せております」


「ふーん。でもさ、韓遂(かんすい)はともかく、馬騰(ばとう)の評判は聞こえている。それに涼州は異民族も多く、治めづらい。事後報告になる事もあるだろう」


「……よく、ご存じでありますな」


「俺は、まずは使者を派遣して、その意図を問い、それが怪しいようだったら軍を派遣する。それでも良いと思うけど、相国はどう思う?」


「陛下は甘いですなぁ。戦場を、分かっておられぬ」


 俺を睥睨(へいげい)し、その重い腰を上げる。

 あからさまに俺の意見を否定しようと、そういった裏の顔が分かりやすく見えた。


 この董卓が、そんなに分かりやすい態度をするだろうか。

 何を狙っているのだろう。


 ただ、俺はそこまで我慢できる質ではなかった。

 イラッと来るなぁ、おい。


「涼州では、力こそが全てです。裏切りも策謀も、その全てが力です。負けたものには、生きる権利すら与えられません。軍を派遣し、首を斬る。それ以外に解決はあり得ない。陛下の様に、後手に回るような事をすれば、それこそ足元をすくわれますぞ」


 喧嘩を、売っている。

 はっきりとそれは分かった。


 男は舐められたら終わりだ。

 売られたものは、買う。たとえそれが誰であろうと。


 公衆の面前でこんなに分かりやすく手を打ってくるとは、思わなかったけどね。


「良いさ、その安い挑発に乗ってやる」


「どうなされましたか? 陛下」



「──軍を貸せ、董卓。俺が馬騰と韓遂を討つ。これで文句はないはずだ」



 董卓は怪しく、不敵にほほ笑んだ。




・朱儁(しゅしゅん)


 後漢の名将。黄巾の乱の鎮圧に大きく貢献した。

 皇甫嵩と共に黄巾賊の討伐を行い、主に南部の戦線で戦功をあげた。

 遷都に反対し続け、河内にて兵を挙げたが、李確に捕らえられ捕虜となり、その後憤死する。



・馬騰(ばとう)


 涼州地方で軍閥を持った武官。馬超(ばちょう)の父。

 韓遂とは義兄弟の中であったが、間に争いは絶えず、妻子を韓遂に殺されている。

 後に曹操に召還されて中央の任に付くが、馬超が反乱を起こした為、一族は処刑された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。